このブログは、よるドラ「恋せぬふたり」のアロマンティック・アセクシュアル考証チームによるコラムです。
*以下、一部性的な事柄について取り扱っています
(中村):第3回、お疲れ様でした!最後のシーンもあり「高橋さーーん!!」と叫びたくなっているところですが、第3回について振り返っていきましょう。
(三宅):この後の展開が気になりますね…。高橋が昔使ったというアンケートをカズくんが見つけたことで始まった今回のエピソードですが、そういえばアンケートの文面は一部Aro/Ace調査(後述)の質問をアレンジしたりして作りましたよね。
(今徳):そうですね。こういったアンケートは、当事者の方が自分の状態を整理したり、他者との感覚のすり合わせなどをしたりする際に使われることがありますよね。
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(三宅):そして、アンケートの回想から、咲子とカズくんの過去も明らかになりましたね。中には、「過去に恋人がいたのにアロマンティック・アセクシュアルを自認したの?」と疑問に思った方もいるのではないでしょうか。
(今徳):それについてはぜひこの後のデータを見てほしいですね。一方で、咲子の場合は過去に付き合ったことがある設定でしたが、「付き合ったことがないけど、自認していいのだろうか?」と悩む人もよく見かけます。きっと、これって異性愛ではない人などが言われる、「まずは(異性との恋愛などを)試してみれば?」っていう考え方とセットなのかなと思います。別に無理に付き合ってみたりしなくても、何か特定の条件をつけなくても(○○だからアロマンティック/アセクシュアルだ、など)いいんじゃないかなと思います。
(中村):また、この話では「なぜ咲子は2人も付き合っているのに恋愛的な要素が分からないの?」という質問もありそうですが、これは私も咲子に共感するところがあり…。今回皆さんには端的に言うと「恋愛/性愛がない世界」を見ていただいているわけですが、そう簡単に「こういう世界なんだ!」とはしっくり来ないと思います。私はそれと逆の世界で生きている感覚で恋愛・性愛のアンテナはそう簡単に取得できないんですよね…。私の場合も咲子もそれに近いんじゃないかなぁと。
(今徳):勿論、「恋愛/性愛」の大枠を認識したうえで、それが自分には無いと自認している人もいるので、咲子はそのうちの一例ですね。
(中村):私と全く違う方の話も聞くので本当にそうですね。また、これまでの話では恋愛について描かれることが多かったですが、今回は性愛に対する違和感についても描かれていましたね。
(三宅):そうですね。今回は性的なシーンもあったため、表現等については制作チームと色々とご相談しました。
(中村):それでは、今回話題に挙がった、「過去の恋人人数」と「性行為経験人数」について見ていきましょう。
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ここからは、私たちが行った「Aro/Ace調査2020」をもとに、咲子・高橋と実際のアロマンティック・アセクシュアルの当事者を比較しながらお話していきたいと思います。
「過去の恋人人数」
今回ドラマで出てきたアンケートには「恋人・パートナー」に関する質問がいくつかありました。咲子も回答に悩んでいる様子でしたね。
今回、咲子に以前は恋人がいたということが明らかになりましたが、他のアロマンティック・アセクシュアルの当事者はどうなのでしょうか。
Aro/Ace調査2020では過去の恋人人数について質問しています(複数回答)。
その結果が次のグラフです。
もっとも割合が高かったのが「0人」で54.1%でした。「1人」は18.9%、「2人」は10.7%、「3~5人」は13.1%でした。グラフにあるように、割合は高くありませんがそれ以上の人数だったという回答もありました。
ここから、咲子のように恋人がいたことがあるという回答がある一方で、恋人がいたことがないという回答が約5割を占めていることがわかります。
この結果から、過去に恋人がいたかどうかということは、直接自認には関係ない可能性が高いと思われます。
「性行為経験人数」
また、今回は咲子の過去の性的関係についても描かれていました。
Aro/Ace調査2020では、性行為経験人数についても質問しているため、そちらも併せて見ていきましょう。
その結果が次のグラフです。
過去の恋人の人数と同様に、もっとも割合が高かったのは「0人」(71.2%)でした。「1人」は13.6%、「2人」は4.6%、「3~5人」は6.5%でした。グラフにあるように、この質問では割合は高くありませんがそれ以上の人数だった回答もありました。
このように、咲子のように経験があるという回答も一定数ありますが、経験がないという回答が多いことがわかります。
一方で、3割程度は性行為の経験があることから、「アロマンティック・アセクシュアル=性行為の経験がない」とは言えないことが明らかになりました。
以上のように、ドラマで描かれることだけが全てではなく、実際の当事者の経験は多様であることがわかると思います。
日本では(おそらくその他の国でも)、アロマンティック・アセクシュアルが主人公のドラマは珍しいのですが、今後、より様々な当事者像が描かれることを願います。
一人ひとり多様なアロマンティックやアセクシュアルなどのセクシュアリティを持つ人たちが、自分のあり方を自然と肯定できるような作品が増えることを期待しています。
今回の考証チームブログは、恋人や性的関係の経験に注目して解説しました。
第4回はカズくんを中心とした話になりそうですが、カズくん・咲子・高橋3人のストーリーがどのように展開されていくのか注目したいと思います。
次回もぜひご覧ください。
【参考文献】
Aro/Ace調査実行委員会(2021)『アロマンティック/アセクシュアル・スペクトラム調査2020調査結果報告書』(2021年12月21日取得) (※NHKサイトを離れます)※別タブで開きます
【調査概要】
調査方法:ウェブ上のアンケートフォームを利用(Googleフォーム)
回収期間:2020年6月1日12:00~2020年6月30日12:00
調査対象:以下の1.~3.全てに該当する方
アロマンティック/アセクシュアル・スペクトラム
(アロマンティック、アセクシュアル、ノンセクシュアル、デミセクシュアル、デミロマンティック、リスセクシュアル、リスロマンティックなどその他周辺のセクシュアリティ)を自認している、またはそれに近い、そうかもしれないと思っている方日本語の読み書きをする方(国籍、居住地は問わない)
年齢が回答時13歳以上の方
総回答数:1693回答(有効回答:1685)
最大設問数:98問(内5問が必須項目)
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