考証チームブログ 第6回

「恋せぬふたり」考証チーム
2022年2月28日 午後11:15 公開

このブログは、よるドラ「恋せぬふたり」のアロマンティック・アセクシュアル考証チームによるコラムです。

(中村):第6回、お疲れ様でした!咲子の家族も久しぶりの登場でした。イベントやみのりの出産など、気になるシーンが沢山ありましたね。

(今徳):冒頭の『アロマンティックやアセクシュアルの方向けのイベント』については、アロマンティックやアセクシュアルの多様性を表現するために特に力を入れました。
こちらのシーンで、考証チームがこだわったところや、ぜひ見てほしいポイントを別途詳しくお話していきます。

(三宅):では、早速イベント以外のことで振り返っていきましょうか。お正月ということもあってか、高橋の家は賑やかでしたね。(高橋にとっては予想外かとは思いますが笑)

(今徳):そうですね。個人的には麻耶ちゃんと高橋のやり取りが微笑ましくて、とても癒されました。

(中村):カズくんも自然に高橋の家に来て話している様子で少し安心しましたね笑

(三宅):その後、みのりと咲子のやり取りもありましたね。

(今徳):もちろん、みのりの状況もありますが、みのりのセリフの中には攻撃的な表現もあったので初めて見たときは驚くとともに、咲子に感情移入してつらい気持ちになりました。

(中村):結構きついセリフでしたよね。。みのりも様々な要素を抱えてしんどそうな様子でもあったので複雑ですが…。見ている人に必要以上の負荷がかからないよう、周囲にフォローのセリフを入れてもらうようご相談もしました。

(三宅):出産のシーンもありましたね。「子ども」の話題は当事者の方々で集まったときも話に出てくるので、この物語にどのように影響するのか、それともしないのか気になりますね。

(今徳):最後には高橋の意味深な表情もありましたが、今後どんな展開になっていくのか注目ですね。次回は1週空きますが、残り2回それぞれの行く先を見守りたいと思います。

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さて、ここからは考証チームのイベントシーンでぜひ見てほしいポイントをお伝えします!

★咲子と高橋以外の当事者の姿を描いてもらうようご相談しました
・一人で生きていくのが楽しい人
・自認に迷っている人
・ロマンティック・アセクシュアルの人(他者に恋愛感情を抱き、性的に惹かれない)
・同居はしていないパートナー関係
・同性同士のパートナー関係

など、本作で「アロマンティックやアセクシュアルはこういう人たち」というステレオタイプな像が生まれないよう、イベントシーンで可能な限り、様々な当事者の姿を描いていただけるよう調整しました。(当然、これらが全てではなくごく一部です)
今回は咲子と高橋など、関係性についての話が中心となる分、「一人で生きていくのが楽しい人」が見えにくくなるため、特にこの部分についてはイベントシーンで描いていただくようご相談しました。

★当事者の方にもご協力いただき、ご出演いただきました。
ドラマ制作にあたって、取材にご協力いただいた方を中心に合計6名、当事者役として出演して下さっています。イベントシーンがより自然に見えるように、そして何よりこのドラマにできるだけ多くの当事者が関わって制作されるようにと協力をお願いしました。

★名札で多様性を表現しました。
映像からではなかなか見づらかったかと思いますが、名札にもアロマンティックやアセクシュアルの多様性が出るように工夫をしました。
セクシュアリティの違いや表記の仕方の違い、中には白紙の人もいるなど、様々な要素を取り入れるよう、検討をしました。

名札では、「ノンセクシュアル」という言葉も使用しました。ノンセクシュアルはロマンティック・アセクシュアルとほぼ同じ意味で使われ、主に日本で定着している用語の一つです。ロマンティック・アセクシュアルを自認する人のうち、約8割がノンセクシュアルという言葉で自分を表現(認識)しているという調査結果もあります(三宅・平森 2021)。  

 
すでに内容が盛りだくさんではありますが、以上の内容について、私たちが行った「Aro/Ace調査2020」の結果も見ていきましょう。今回は「交流会へ参加したいか否か(理想の参加頻度)」と「アイデンティティの組み合わせ」についてご紹介します。

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「交流会へ参加したいか否か」

咲子は他の当事者の話を聞いてみたいと思いイベントへと参加しました。高橋は一緒に参加しませんでしたが、咲子にイベントの感想を聞いているので、イベントのこと自体は知っているようでしたね(過去に高橋も参加したことがあるのかはわかりませんが)。

では、他の当事者はどうなのでしょうか。
Aro/Ace調査2020では理想の交流会への参加頻度について質問しています。
その結果が次のグラフです。

上のグラフにあるように、もっとも割合が高かったのは、「参加する必要性を感じていない」で、41.3%でした。「参加したくない」の割合は5.9%だったので、参加の意欲がないと思われる回答が45%以上だったことがわかります。一方、参加する意欲があると思われる項目「年に少なくとも1回」(22.9%)、「半年に少なくとも1回」(13.4%)、「3か月に少なくとも1回」(7.4%)、「1か月に少なくとも1回」(2.8%)、「半月に少なくとも1回」(0.6%)、「一度は参加してみたい」(1.5%)を合わせると50%弱になります。

ここから、アロマンティックやアセクシュアルをはじめとする当事者が集まる交流会に参加したいと思うか否かは人によって異なり、一定の頻度で参加したいと思う人もいる一方で、そうではない人もいることがわかります。

対象や参加人数、形式など、イベント・交流会のタイプも本当に多様なので、ご興味がある方は自分に合うものを探してみると良いかもしれません。

「アイデンティティの組み合わせ」

すでにご紹介した通り、イベントのシーンではアロマンティック・アセクシュアル以外のアイデンティティの名札も複数用意してもらいました。Aro/Ace調査2020も同じように多様なカテゴリーを自認の選択肢として用意しました。

Aro/Ace調査2020で使用した、アロマンティック以外の恋愛的指向アイデンティティは次の通りです。

*各カテゴリーの定義は複数あるため、説明をすることでかえって答えづらくならないよう質問票上では定義を明示せず、回答者の解釈に委ねました。したがって、以下の説明は本ブログを理解しやすくするために当事者コミュニティ内でよく見られる定義を便宜上記載したものです。また、調査票上ではロマンティックは「ロマンティック【恋愛的に惹かれる】」、グレイロマンティックは「グレイロマンティック/グレイアロマンティック」と表記していました。

 
ロマンティック(ロマ)→恋愛的に惹(ひ)かれる

デミロマンティック(デミロマ)→他者と情緒的なつながり(信頼関係)がある場合のみ恋愛的に惹かれることがある

グレイロマンティック(グレイロマ)→ロマンティックとアロマンティックの間のどこかに位置するあり方

リスロマンティック(リスロマ)→恋愛的に惹かれるが、その感情を返してほしいとは感じない、またはパートナー関係になることにこだわらない

クエスチョニング(Q)→特定のアイデンティティを自認するか決めていない、決めたくないあり方

  
Aro/Ace調査2020で使用した、アセクシュアル以外の性的指向アイデンティティは次の通りです。
*各カテゴリーの定義については恋愛的指向アイデンティティと同様です。調査票上の表記は、セクシュアルは「セクシュアル【性的に惹かれる】」、グレイセクシュアルは「グレイセクシュアル/グレイアセクシュアル」でした。なお、調査設計上のエラーにより、性的指向アイデンティティには「クエスチョニング」がデフォルトの選択肢に含まれていないため、結果の解釈には留意が必要です。

 
セクシュアル(セク)→性的に惹(ひ)かれる

デミセクシュアル(デミセク)→他者と情緒的なつながり(信頼関係)がある場合のみ性的に惹かれることがある

グレイセクシュアル(グレイセク)→セクシュアルとアセクシュアルの間のどこかに位置するあり方

リスセクシュアル(リスセク)→性的に惹かれるが、その感情を返してほしいとは感じない、または(性的な)パートナー関係になることにこだわらない

 
そして、Aro/Ace調査2020では、恋愛的指向アイデンティティと性的指向アイデンティティの組み合わせの割合を集計しました。
その結果が次の表です。

もっとも割合が高かったのは「アロマ×アセク」で37.4%でした。次に多かったのが「ロマ×アセク」で、10.4%です。「アロマ×セク」は5.5%、「デミロマ×デミセク」は4.7%、「Q×アセク」は4.4%という結果でした。そのほかは、「デミロマ×アセク」が3.5%、「グレイロマ×アセク」が3.4%、「リスロマ×アセク」が2.8%、「グレイロマ×グレイセク」が2.8%でした。なお、表に記載していない組み合わせも多数ありました。

ここから、Aro/Ace調査2020では、アロマンティック・アセクシュアルの割合がとくに高いことがわかります。アロマンティック・アセクシュアル以外では、ロマンティック・アセクシュアルの割合が高い結果でした(イベントのシーンでパートナーのことを嬉しそうに話されていた方がロマアセクでしたね)。しかし、アセクシュアルを自認する人の中で、恋愛的に惹かれない人よりも惹かれる人の方が多い可能性が報告されており(Hiramori and Kamano 2020)、Aro/Ace調査2020がロマンティック・アセクシュアルを自認する人の回答を十分に得られなかった可能性もあります。

さらに、上記の分布が広く一般に適用できると仮定しても、本ドラマの主人公たちが自認するアロマンティック・アセクシュアルが、当事者コミュニティの中で4割に満たないという結果は注目に値します。それだけアロマンティックやアセクシュアルに関連するセクシュアリティは多様であるということをぜひ知っていただければと思います。

以上、第6回の考証チームブログは、考証チームによるイベントシーンの注目ポイントと、「交流会へ参加したいか否か」および「アイデンティティの組み合わせ」を中心に解説しました。

いよいよ残すところ、あと2回となりました。
高橋の過去のことも明らかになっていきそうですね。それぞれの在り方や関係性についてどのような変化があるのか、もしくはないのか、見守っていって下されば幸いです。
再び1週間のお休みを経て、第7回の放送となりますが、次回もぜひご覧ください。

 
【参考文献】

Aro/Ace調査実行委員会(2021)『アロマンティック/アセクシュアル・スペクトラム調査2020調査結果報告書』(2022年2月22日取得) (※NHKサイトを離れます)※別タブで開きます

Aro/Ace調査実行委員会(2021)『アロマンティック/アセクシュアル・スペクトラム調査2020概要報告資料(210425修正版)』2022/2/22取得 (※NHKサイトを離れます)※別タブで開きます

三宅大二郎・平森大規(2021)「日本におけるアロマンティック/アセクシュアル・スペクトラムの人口学的多様性――『Aro/Ace調査2020』の分析結果から」『人口問題研究』第77巻,第2号,pp. 206-32.

Hiramori, D. and Kamano, S. (2020) "Asking about Sexual Orientation and Gender Identity in Social Surveys in Japan: Findings from the Osaka City Residents’ Survey and Related Preparatory Studies, " Journal of Population Problems, Vol. 76, No. 4, pp. 443-466.

 
【調査概要】

  • 調査方法:ウェブ上のアンケートフォームを利用(Googleフォーム)

  • 回収期間:2020年6月1日12:00~2020年6月30日12:00

  • 調査対象:以下の1.~3.全てに該当する方

  1.   アロマンティック/アセクシュアル・スペクトラム
    (アロマンティック、アセクシュアル、ノンセクシュアル、デミセクシュアル、デミロマンティック、リスセクシュアル、リスロマンティックなどその他周辺のセクシュアリティ)を自認している、またはそれに近い、そうかもしれないと思っている方  

  2. 日本語の読み書きをする方(国籍、居住地は問わない)

  3. 年齢が回答時13歳以上の方

  • 総回答数:1693回答(有効回答:1685)

  • 最大設問数:98問(内5問が必須項目)

  • ウェブサイト、Twitter、LINEグループ等で周知