恋せぬふたり制作日誌① チーフ演出からのことば

スタッフ
2022年1月12日 午前10:00 公開

第1回、ご視聴ありがとうございました。
今作品でチーフ監督をやらせて頂きました、野口雄大と申します。

このブログでは「恋せぬふたり」をもっと知ってもらうために、様々な裏話やエピソードをお届けしていきます。

第1回目となる今回は、私たちが「恋せぬふたり」の世界観をどのように作っていこうと考えたのか、撮影に入る前の準備段階で考えていたことについて、少しお話出来ればと思います。

一つ目は、《自分の当たり前に向き合ってみる》ということです。

今作では「恋愛って誰にとっても幸せなもの?」という、従来の価値観を見つめ直すきっかけとなるようなテーマを投げかけています。であれば、「そのドラマを作る我々が、自分の当たり前に向き合うべきではないのか?」と考えるのは自然な流れでした。精神論ではありますが、まずは作り手である我々が、これまで自分がしてきた表現と向き合ってみる。
「自分の気持ち良いところだけで仕事をしていないか?」
「なにか新しい表現を目指しているのか?」
各スタッフに疑問を投げかけることを意識しました。
そして『各々が、今までやったことのない表現に挑戦する』という目標を掲げました。

二つ目は、《色彩表現を追求し、登場人物の感情に色でも寄り添う》です。

こういったテーマの作品はシリアスな印象になる傾向があると感じています。
私は海外ドラマが大好きでよく観るのですが、難しいテーマを扱っていても、画面から受ける色彩の印象が豊かなだけでスッと見入ってしまうことがあります。今作も方向性が近いと感じたのと共に、人物の感情を色でも表現することにチャレンジしてみたいという気持ちにつながりました。普段よりも色味を濃く出し、気持ち的に落ち込む時などはコントラストを強くするで、人物の感情を強く訴えることが出来るのではと考えました。
なので、特に美術チームとは、グレーディング(編集時における映像の色加工)を見越した準備を意識してもらいました。例えば、高橋家のリビングなどでは、場面によって印象を変えられるように、様々な色味の装飾や小道具などを配置する。衣裳などの扮装も、シーンや話ごとに人物の感情・変化に寄り添った色味を意識してもらいました。

三つ目は、「岸井ゆきのさん演じる咲子と、高橋一生さん演じる羽の間に流れる芝居の間合いや空気感、そして距離感を余すことなく撮る」ということです。

これはクランクインする前にリハーサルをした時、おふたりのお芝居を見ての直感でした。
『とにかくふたりを見つめていく。そのひとつひとつの変化を逃さず捕まえていく』
主には演出・技術スタッフに対してですが、その想いを共有し、撮影に臨みました。
いま思い返すと、おふたりともお芝居というより、役を生きている。だからこそふたりの息づかいが観ているお客さんにも伝わるような、そんな撮り方をしたいと感じたのかもしれません。

「自分にとっていちばん大切なことは、試合前に完璧な準備をすること」

いきなりなんだ…と思いますが、イチロー選手の名言です。
ドラマづくりも同じで、プリプロダクション、つまり準備が一番大事だと私は思っています。
あくまで撮影は一瞬でしかなく、いかに良い準備が出来るかが、作品の出来を決めると言って過言ではありません。そして、しっかりと準備をするためにはビジョンが必要です。どんな準備をしなければいけないかを、みんなが理解した上で進めることが大切だからです。

この3ビジョンをもとに、「恋せぬふたり」チームは準備を進め、撮影・編集を経て放送を迎えました。
いまも後半の回を編集している最中ですが、毎回毎回、濃密な30分の連続です。

『自分の当たり前に向き合ってみたい』

ドラマを観終わった後にそう思ってもらえるような、そんな作品をお届け出来ればと思います。