このブログは、よるドラ「恋せぬふたり」のアロマンティック・アセクシュアル考証チームによるコラムです。
(中村):第5回、お疲れ様でした!そして、皆様ご無沙汰しております。第4回から第5回が3週間あいたということで、はじめに第1〜4回までを振り返り、考証チームが注目してほしいポイントをお話したいと思います。
考証チームのここに注目!(第1~4回)
(今徳):まずは咲子と高橋が出会う第1回ですね。キャベツを取る手が重なるシーンも印象的でしたが、キャベツを渡す時の「手」に実はこだわっていたんです。
(中村):接触に抵抗のある高橋なので、受け渡しの仕方についても3人で議論しましたよね。
(三宅):咲子も高橋とはまた違う部分で議論がありましたね。特に咲子については「恋愛が分からない」ことをどう表現するかが難しかった気がします…。
(今徳):例えば、第2回の高橋と家に向かうまでの間の会話で「恋人ってどんなことをするんだろう…」という少し悩んでいるような様子があったかと思います。それも咲子が「恋愛分からない」感を出すための一つの要素だったりしました。
(中村):あとは、喫茶店で咲子が過去の性交渉の話を詳細にし始めたのも「性愛が分からない」ゆえ出てくる表現ですよね。性交渉に対して『性的な行為』という認識も本人の中であまりはっきりしていないからこそ、ぼかす表現などを使わず、「服に手が~」などと詳細に伝えたのかなと思います。
(三宅):喫茶店のシーンでいうと座り方にも注目してほしいですね。小さめのテーブルなので気づきにくいかもしれませんが、正面ではなく、お互い斜めの位置に座っていること、気づきましたか…?高橋の適度な距離感を考えるとこの座り方になるのではと相談をしていました。
(今徳):高橋はきっと周囲に話を聞かれることを最も警戒すると思うので、『誰もいないところ』にしてもらうよう、ご相談もさせてもらいました。
(三宅):喫茶店の話で思い出したのですが、咲子が結構モテている印象があるといった声も聞きました。
(中村):確かに結構モテてますよね笑。でも、いわゆる恋愛的なドラマや映画で主人公がモテている設定って沢山見かけませんか?そう思うと、このドラマだからこそ、感じている部分というのもあるのかもしれないですよね。
以上、第1~4回の振り返り兼考証チームの注目ポイントでした。
それでは、本題の第5回について見ていきましょう。
第5回について
(三宅):最後のシーン、静かな空気だからこそ感じるものがありましたね。(そして、高橋は蟹を食べれて良かったですね…!)
(今徳):それぞれの想いや優しさを感じる回でしたね。咲子が千鶴に会いに行くか悩んでいるシーンでは、介入して力になろうとするカズくんと、そっとしておこうと提案する高橋。優しさの形が一つじゃないのも個人的に良いなと思います。
(中村):想いがあるからこそ、それぞれの葛藤もひしひしと感じましたね。咲子と千鶴のシーンを見ながら、お互いの想いを考えてしまい、心が締め付けられました。
千鶴は第1回で「仕方ないじゃん、好きなんだから!」と言っていましたが、あれは咲子に対する気持ちから出た言葉なのかもしれないですね。
(三宅):今回千鶴が咲子に恋愛感情を抱いていることに驚いた方もいらっしゃったんじゃないでしょうか。同性への恋愛感情がフラットに描かれることが多くなってきたように、アロマンティックやアセクシュアルについても様々な作品で特に言及をされなくても自然に描かれるような、そんな環境になっていけば嬉しいですね。
(中村):本当にそうですね。そして、その後のカズくんと咲子のやり取りも印象的でしたよね。お互いを尊重するとはどういうことなのかを改めて考えました…。
(今徳):二人の誠実さを感じるシーンでしたよね。また、お互いに謝る様子もありましたが、二人の関係性としては望ましい形でも、社会的に考えると多数派と少数派で置かれている状況は異なるのでその点は難しさを感じました。
(中村):個人的には、高橋から渡された本に沢山付箋が貼ってあるところを見て、うるっと来てしまいました。きっと咲子、高橋といった身近な人のことを少しでも知ろうと動いてくれたんだろうなと感じて。
(三宅):書籍などで理解を深めてくれるのは嬉しいですよね。実はドラマ内で登場した本は実際に存在する本なので、気になる方はぜひ調べてみてください(ページの最後、参考文献に記載しています)。
(中村):カズくんはどんな気持ちでこの本を読んでいたのでしょうか。咲子同様、千鶴やカズくんもいろんな面で整理できない悩みや苦しさがあったのだと思います。それぞれがどうか幸せで居てほしいですね…。
(今徳):第6回以降少しでもそのヒントがそれぞれに見つかると良いですね。今回は、話題にあがった他の人から恋愛感情を向けられることについて見ていきましょう。
*実は第5回放送日(2月21日)はアロマンティックなどのセクシュアリティについて広く情報を発信するAroweek(アロウィーク)の期間中でした。
偶然ではありますが、この時期にアロマンティックをテーマにしたドラマが放送されているのは感慨深いものがあります。ちなみに、アセクシュアルなどのセクシュアリティについて発信するAceweek(エースウィーク)は10月の最終週に開催されます。
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ここからは、私たちが行った「Aro/Ace調査2020」をもとに、実際のアロマンティック・アセクシュアルの当事者についてお話していきたいと思います。
「恋愛感情を向けられることに嫌悪があるか」
今回は、咲子が千鶴から恋愛感情を伝えられるシーンが描かれていました。(勿論恋愛感情という感情とは違った感情の可能性もありますが)お互いの「好き」がすれ違う、難しい場面でしたね。
今回はアロマンティックである咲子が恋愛感情を伝えられるという状況でしたが、他のアロマンティック・アセクシュアルの当事者にとってはどうなのでしょうか。
Aro/Ace調査2020では、他の人から恋愛感情を向けられることに対する嫌悪感について質問しています(複数回答)。
その結果が次のグラフです。
*選択肢を一部省略しています
「恋愛感情を向けられる」ことに嫌悪感を覚えるという回答の割合は51.5%でした。また、「自身に対する恋愛感情があることを告げられる」は49.8%、「交際を申し込まれる」は47.4%でした。「恋愛感情を向けられる」ことに嫌悪感を覚える割合が一番高いですが、ほとんど割合に差はありません。一方、「どれにも嫌悪感を覚えない」という回答の割合は12.4%でした。
ここから、他者から恋愛感情を向けられることに嫌悪感がある人もいれば、ない人もいることが分かります。アロマンティック・アセクシュアルを自認しているすべての人が恋愛的なアプローチを受けるのが苦手(苦痛)というわけではありませんが、人によって感じ方が異なることも事実ですのでこの点は留意する必要があります。例えば、一方的に恋愛感情を伝えるのではなく、相手とコミュニケーションを取りながら、お互いが負担のない関係構築を目指せると良いと思います。そして、これはきっとアロマンティック・アセクシュアル以外の人の場合でも同じなのではないでしょうか。
以上、今回の考証チームブログは、アロマンティックやアセクシュアルに関する書籍・資料、恋愛感情を向けられることに対する嫌悪について解説しました。
第6回はみのりとのエピソードもいろいろと出てきそうですね。
残り3回ということもあり、高橋、咲子、カズくんなど、それぞれがどういった道を進むのかも気になるところです。
次回は考証チームとしてぜひご覧いただきたいシーンもありますので、ご覧いただければ幸いです。
【参考文献】
Aro/Ace調査実行委員会(2021)『アロマンティック/アセクシュアル・スペクトラム調査2020調査結果報告書』(2021年12月21日取得) (※NHKサイトを離れます)※別タブで開きます
デッカー、J.S.著、上田勢子訳(2019)『見えない性的指向アセクシュアルのすべて―誰にも性的魅力を感じない私たちについて』明石書店
【調査概要】
調査方法:ウェブ上のアンケートフォームを利用(Googleフォーム)
回収期間:2020年6月1日12:00~2020年6月30日12:00
調査対象:以下の1.~3.全てに該当する方
アロマンティック/アセクシュアル・スペクトラム
(アロマンティック、アセクシュアル、ノンセクシュアル、デミセクシュアル、デミロマンティック、リスセクシュアル、リスロマンティックなどその他周辺のセクシュアリティ)を自認している、またはそれに近い、そうかもしれないと思っている方日本語の読み書きをする方(国籍、居住地は問わない)
年齢が回答時13歳以上の方
総回答数:1693回答(有効回答:1685)
最大設問数:98問(内5問が必須項目)
ウェブサイト、Twitter、LINEグループ等で周知