恋せぬふたり制作日誌④ 美術の世界へようこそ!

スタッフ
2022年1月26日 午前11:03 公開

はじめまして、美術を担当しました、伴内(ばんない)と申します。今回は趣向を変えて、美術の仕事について少しお話させていただきます。

そもそも美術の仕事ってなんだろうと思われる方がほとんどかと思います。
主にはスタジオセット、ロケ地の選定や装飾、登場人物の扮装(衣装)を担当していて、今回は私と長谷川という2人の美術担当でそれらの大枠を考えています。
他にも美術部にはたくさんの役割の人がいて、美術進行、大道具、装飾、持ち道具、衣装、メイク、造園、建具、特殊効果、美術プロデューサー、美術マネージャーなどなど、本当にたくさんの人の手で作られています。

そんな美術の仕事の中から今回は「高橋と咲子の住む家」についてお話したいと思います。
二人の住む家は築80年~90年の古民家という設定で、もともとは高橋の祖父と祖母が住んでいました。

祖父が他界してからは長い間祖母と高橋の二人で住んでいましたが、物語が始まる半年前に祖母も他界し、高橋一人でこの立派なお家に住むことになります。
 
家の中は祖母の趣味で溢れています。

↑リビング

祖母の集めた家具やアンティークの小物、旅先で買ってきた民芸品などが豊かに飾られています。初めて訪れた人もどこか懐かしくて居心地のよい、あたたかい隠れ家を目指しました。
高橋にとって祖母の存在はとても大きいです。
第2回の高橋の台詞にもありましたが、高橋は祖母の愛を一身に受けて育ちました。そんな愛情に満ちた祖母の存在をいかに出せるかがこのセットを作る上での大切なポイントでした。

咲子が住むことになる部屋はもともと祖母が使っていた部屋という設定です。高橋の祖母が大切にしていた、色とりどりのアンティークに囲まれながら、咲子は自分自身と向き合うことになります。

ちなみに第3回で咲子がカズくんとの日々を思い出すときに、二人の推しアイドル・サニーサイドアップ(略してサニサイ)のグッズが登場します。実はこのアイドル、2019年に放送されたよるドラ「だから私は推しました」から生まれたアイドルグループです(私もスタッフの一員でした)。

装飾だけではなく部屋の壁や柱などもほとんどが過去のNHKドラマで作ったものを再利用して作られています。NHKをよく見て頂いている方には見覚えのあるものが、姿を変えてひっそりとセットの中に潜んでいるかもしれません。

↑玄関付近

↑高橋の部屋

さらにこのセットにはもうひとつのこだわりがあって、家のいたるところに意識しないと見えない「あいまいな境界線」をちりばめました。
 
 
 
 
例えばダイニングとキッチンの間にある短い珠のれん

二人はダイニングとキッチンで対話することが多いのですが、その間には常にこの珠のれんがあり、緩く二人を隔てています。二人にはアロマアセクという共通点がありますが、当然ながら生い立ちも趣味も趣向も異なります。二人は互いの違いを確かめ尊重しながら、二人にとっての心地よい距離感を探っていきます。
意識しないと見えてこない「あいまいな境界線」をいかに意識できるかが、様々な人が生きるこの世界では大切なのだと感じます。

第1回の最後で咲子が髙橋に一緒に住むことを提案したとき、それまではのれん越しに会話していた二人でしたが、高橋が歩み寄ってきて、のれんをくぐり一言、印象的な台詞を言います。

「僕のこと、なめてます?」

一歩踏み込んで互いの違いを確認しにいく。美術のこだわりを生かして頂いた瞬間でした。とても嬉しかったです。そのようにセットの中で想像が膨らみ、お芝居が変わっていく瞬間に美術という仕事のやりがいを感じます。

「あいまいな境界線」というテーマは番組のタイトル映像やキービジュアルでも表現されています。映像の端々から感じ取って頂けると嬉しいです。

色々と語ってしまいましたが、基本的に美術は、空間に上手く溶け込ませて無意識で観て頂けることを目指しているので、物語に集中して、ふと気が向いたときに細部のこだわりを見つけてみてもらえると嬉しいです。
 

第3回の終わりでは、階段から転げ落ちてしまった高橋さん。果たして3人はどうなってしまうのでしょうか。
第4回もお見逃しなく!