みみより!くらし解説

脱炭素につながるのか?加速するGX

初回放送日: 2024年2月22日

政府は脱炭素社会への移行と産業競争力強化を両立させる2つの法案を閣議決定しました。くらしと脱炭素・エネルギー安定供給をどう両立させていけばよいか考えます。

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    土屋 敏之
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目次

  • 脱炭素社会につながるのか?加速するGX 国民負担とくらしへの影響は?

脱炭素社会につながるのか?加速するGX 国民負担とくらしへの影響は?

◆脱炭素と産業競争力強化の両立をめざすGX推進に向け政府は先週2つの法案を閣議決定

GXは「グリーントランスフォーメーション」の略とされ、政府が経済界の意向も受けて脱炭素社会への移行と産業競争力の強化を両立させるため推進している政策です。今後10年で官民合わせて150兆円以上の投資で、再生可能エネルギーに加え、水素やアンモニアを火力発電所で混ぜて燃やしたり、次世代型と言われる原発など脱炭素につながるとする幅広い分野の技術開発・産業を支援するものです。

◆GXを進めるための新たな法律➀水素社会推進法案

通称「水素社会推進法」と「CCS事業法」という2つの法案が閣議決定されました。
まず水素社会推進法案について。水素は燃やした際に二酸化炭素を出さない燃料として、発電や車の燃料など幅広い利用が考えられています。法案ではこの水素やそれをもとに作るアンモニア、合成燃料など経済産業省が定めるものを「低炭素水素等」と呼んで、製造や輸入、利用を促進するため、既存の燃料との価格差に補助を出したりガス管や貯蔵タンクの整備も進めやすくすることを目指しています。

◆➁CCS事業法案

CCSという言葉はまだ一般にはなじみがありませんが、二酸化炭素を地下に封じこめてしまう技術を指します。気候変動を止めるには温室効果を起こす大気中のCO2を増やさないことが必要ですから、これを地下や海底の安定した地層に注入して半永久的に封じこめようというものです。CO2を大量に出す火力発電所などを今後、全廃したとしても、CO2が出てるのを避けにくい分野もあるため、脱炭素社会の実現にはある程度のCCSは必要だと世界的にも考えられています。
中でも日本は、G7で唯一、CO2の排出が特に多い石炭火力をやめる時期を示すことにも反対しており、火力発電所を使い続けるためにもCCSを利用したい考えがあります。
法案は、CO2を注入するための試掘やCCS事業を経産大臣が許可する制度を作り、事業者にはCO2が漏れ出さないかモニタリングする義務を課すなどの内容です。
ちなみに土地の確保やコストの面から、日本は海外でCCSを行うことも想定しています。

◆お金もかかりそうだが、くらしに影響は?

こうした対策で国民の負担がどうなるかも気になります。GXでは官民あわせて150兆円以上の投資を集めるとしていますが、民間の投資を呼び込むため政府も20兆円も支出します。この財源として、先週「GX経済移行債」という国債が初めて発行されました。国債はいずれ“償還”と言って国がお金を払い戻すわけですが、その資金には今後、化石燃料の輸入業者や電力会社から徴収するお金を充てる方針です。それは結局、燃料代や電気代に上乗せされて国民負担が増えることも考えられ、政府は“全体としては国民負担は増えない”という説明もしていますが、はっきりしない面があります。

◆待ったなしの気候変動対策

こうした新たな制度が作られる背景には、今や待ったなしの気候変動対策があります。去年、世界の平均気温は産業革命前より1.48℃高かったとも報告されており、観測史上最高でした。気温の上昇を1.5℃までに抑えようという国際的な目標を今年にも超えてしまう可能性もあって、一刻も早い対策強化が求められています。
去年末の国際会議COP28では、各国が現在の削減目標のままでは世界の気温は今世紀中に3℃近く上昇すると報告され、各国に化石燃料からの脱却と、2035年までに温室効果ガスを60%削減することが求められました。日本の今の目標は2030年度に46%削減ですから、さらに対策を進める必要があります。

◆日本のGXの課題

GXによってこの気候変動対策が加速すればよいのですが、色々な課題もあります。
まず、技術面ではCCSで本当に半永久的にCO2を封じこめられるのか?や次世代型原発の安全性など。そして、やはりコストの問題もあります。例えば、もし火力発電で出るCO2を全部CCSで封じこめて排出ゼロにしようとすると、再エネに蓄電池をつけるよりも高くつくのでは?とする分析もあります。再エネは天候で発電量が変動するのが弱点ですが、蓄電池をつければ安定供給が可能になりますから、この「再エネ+蓄電池」よりも高くなってしまうなら、わざわざCCSを付けてまで火力発電を続ける意味がないとも言え、本当にCCSをするのか?疑問もあります。
そして、こうした日本のGXが「そもそも脱炭素になるのか?」という指摘もあります。

現在、水素やアンモニアは世界的にほとんどが化石燃料から作られ、製造時にはCO2が出ているので、実はこれを増やしても脱炭素にはなりません。法案ではこれを今後「低炭素水素等」、つまりCO2排出量が少ない水素等にすることを目指していますが、その「低炭素」の定義も経産省が決めることになっていて、結局いつまでにどれだけCO2が減るのかの実効性はあいまいです。
こうした中、国連が環境問題などに配慮した投資を増やそうと後押ししている「責任投資原則」の国際組織は、GX経済移行債の発行に先立って日本政府に提言を出しています。内容は、こうしたアンモニア混焼やCCSをつけるとして化石燃料を使い続ける方針のGXがCO2排出ゼロに確実につながるのか?など、明確な情報を示すよう日本に求めるものでした。

◆求められる対策は?

まず国や電力業界に求められるのは、本当の意味で「電力の脱炭素化」を急ぐことです。電気は産業や運輸、家庭まであらゆるところで使われますから、発電所で出るCO2を減らせば電気を使うすべての分野の排出量が減ることになります。そのためIEA(国際エネルギー機関)も、2050年脱炭素社会の実現に先立って、先進国は2035年までに電力の脱炭素化が必要だと指摘しています。
しかし、日本は欧米と比べ電力の化石燃料への依存度が高く、今のエネルギー基本計画では2030年度にも電源の4割を化石燃料に頼る見込みです。一方で今、再エネの価格は急激に安くなっていて、去年、国が秋田県沖などで大規模な洋上風力発電の公募を行ったところ、複数の事業者が1kWhあたり3円という石炭や天然ガスよりも大幅に安い価格でできると手を上げました。つまり化石燃料依存を続けるより、安い再エネへの転換をもっと加速する方が将来的に国民負担も減る可能性が出てきたとも言えます。
国は今年、エネルギー基本計画の見直しを進める見込みですが、そこで火力・原子力を含め電力の内訳をどうするか?そして、本当に脱炭素化を加速できるのか?問われています。
そして、わたしたちができる対策としては、まず「省エネ」は家計にもプラスになる対策です。他にも、宅配便を再配達にならないよう宅配BOXを使うなどして一度で受け取ったり、食材は地産地消を心がけるなども輸送エネルギーを減らすことになります。
そして、最初にある程度負担してもいいなら、窓を二重窓にするなど断熱性を上げるリフォームは長い目では光熱費が減って“もとが取れる”対策と言えます。同様に屋根に太陽光パネルを張るのも電気代が高い中ではいずれはもとが取れると考えられるのに加え、災害などで停電になっても電気が使える可能性が高まるという防災上のメリットもあります。まずはできることから取り組んでいくことが大切だと思います。