<どうやって顔に電気を流す案を思いついた?>
いりまさん(東京)「どうやって顔に電気を流す案を思いついたのですか」
真鍋さん「いい質問ですね、とっても。面白くない答えで言うと、さっきの岐阜の学校で顔に電気を流す授業がありました。顔というか体に電気を流して筋肉を動かすとか、そういったことは実は僕が初めてやったことではなくて過去にやっている人がいたので、もちろんそういった事例も知っていたんです。ただ顔には流してなくて、手に流してパフォーマンスをしていたり・・・あと学校で顔に流しているときは、そこから作品にするという発想までいく人が僕も含めていなかったんですね。何となくそれは頭の中に残っていました。
そして、これは本当にたまたまなんですけどビンゴ大会があって、僕はカメラが当たったんですね。2008年に。“スマイルシャッター”というのがついているカメラで、スマイルを検出してシャッターが切れるというカメラだったんです。だけど僕が笑っても全然シャッターが切れなくて。『笑顔の検出ってどういう仕組みなんだろう』と思ったのがきっかけです。
そこからまずは、そのカメラで笑顔を検出するということをやったんですけど、これはカメラで検出するよりも筋肉の動きを見た方がいいんじゃないかと思って、筋肉の動きを測定するようになりました。人間って“本当の笑顔”と“うその笑顔”を見分けられるじゃないですか。ちょっとしか違わないのに。多分、コンピューターが見分けるのは、今でも難しいと思うんですけど、『笑顔はどこまでいったら本当の笑顔になるのか』ということを考え始めました。
そのあとに『僕の笑顔をコンピューターで読み取って、自分の顔で他の人の顔を動かして、他の人が笑顔になったらその人は楽しくなるのかな』ということを考えたんですね。笑うから楽しいのか、楽しいから笑うのかという問題になり、『感情なしで笑顔を作ったら楽しくなるのかな』というふうに考えて、顔を無理やり動かしたりしました。
アイデアをどうやって出すかというのは、いまだに自分でも分からないんですけど、そういうチャンスを増やすとしたら、やっぱりいろんなことを学んで、いろんなことを体験して、とにかく入力して、何かがきっかけになってアイデアが出てくるという感じかなと思うんです」
<新しい感性を取り入れるコツは?>
Katoshin(東京)「新しい知識や新しい感性を取り入れるために、やっていることとか心がけていることがあったら教えてください」
真鍋さん「普通に皆さんがやっているのと同じようなことで言うと、ほとんどテック系の新しいところ、特にAI系の新しい情報というのはTwitterで仕入れています。Twitterの特定のAIのニュースに加え、ニュースをずっとキャッチアップしている人たちをフォローしているというのがいちばんベタな情報収集です。
実際に現場、例えばミュージックフェスティバルとかアートフェスティバルとかに行くようになって、やっぱり現場の“生の情報”というのは全然精度もスピードも違うなという気はしました。なので、僕が昔からよくやっていることは『インタビューに行く』。第一線の専門家の人に。その先にはコラボレーションで一緒に作品を作るということもあるかもしれないですけど、それはすぐにはできないことだと思うので、まずは本当に興味を持ったことがあったら、それについて自分なりに調べられるだけ調べて、そういった状態になってその人にインタビューをしに行くというのは、僕は効果的かなと思いますね。もちろん守秘義務の問題というのは常についてまわるとは思うんですけど、研究に関していうとすでに公開されているものもたくさんあるので、自分が興味を持ったものがあったらアタックしてみるのもいいかなと思います。あなたが興味を持っていることについて詳しい人の“生の声”を聞くというのは大事かなと思いますね」
<「人に伝わる作品」を作るには?>
POCHIさん(神奈川)「私は高校生のときに茶道部に所属していまして、その際にメディアアートに興味があるということを周りにも言っていて、高校の先生から何かひとつ作品を作ってみてくれないかと言われました。自分の茶道に対する気持ちだとかを作品に込めたんですけど、あまりに自分の気持ちに寄り過ぎてしまって、よく分からない作品になってしまったんじゃないかというふうな意見だったり、自分でそう感じたりしたことがあります。真鍋さんは他人に作品で伝えたいときに、何か気をつけていることはありますか」
真鍋さん「すごく大きく分けると2つのパターンがあって、1つはコラボレーションの場合。例えば自分ではなくて他の人がステージに上がってパフォーマンスするとか、他の人の名前でその作品が出ていくというときは、そのコラボレーターのファンがどういうことに興味を持っているかということは入念に調べて、作品とかプロジェクトを作るというのはあります。
ただ、作品を作って発表する僕のスタンスというのは、これは人に言われたことなんですけど『僕が何か好きなことをやっていると、それをちょっとかいま見ているようなイメージ』。だから多分、さっきもいろいろやっていたと思うんですけど、あれが面白いのかどうかという評価よりも、『僕が面白いからやっているということがいちばんのモチベーション』としてはあって、それをメッセージで何か伝えたいかっていうと、もしかしたら僕はそんなにないのかもしれないんですよね。
あなたが作品を作って発表するときに、自分が何をいちばん大事にするかというところをまずは決めたらいいのかもしれないですね。僕は、自分が面白いと思ってやっているから、他の人がいろんなことを言うけど、それはあまり気にしないというスタンスでもいいのかなというような気はしています」
<作品のテーマやコンセプトをどう決める?>
ゆきのさん(千葉)「私は大学2年生で、プロジェクションマッピングのイベントに企画で関わらせていただいています。企画を作る際に、技術ももちろん難しいんですけれど、導入コンセプト、どういうテーマでそのイベントを行うのかを考えるのがいちばん難しいように感じています。真鍋さんがどのようにしてそこを組み立てているのか、お聞かせいいただけるようであればお願いしたいです」
真鍋さん「例えば建築の例で言うと、建築はすごくプロジェクトが長いですよね。何年も続くプロジェクトが多いので、『すごく大きな作品を作ってください』とか具体的な指示をすると、諸条件によってそれができなくなってしまうこともあるんですね。なので、そういうときにお願いするやり方、目標を立てるやり方としては、『その作品があるおかげで、その空間がより広く見えるものを作る』とか。
プロジェクションマッピングのイベントも、多分最初に決めたことを最後までバシっと進めていくというのはなかなか難しいと思うので、少し抽象化、一般化して、時間がたっていろんなことがあっても多くの人が寄りかかれる柱みたいなものになるように考えるというのが大事かなと思います。
プロジェクションマッピングは、もともとは“拡張現実”のコンセプトから生まれたもので、映像を投影することによって拡張する、そういった概念から生まれてきているものなので、映像を投影することで建物がどういうふうに変わるか。建物が変形するっていうことはどういうことなのか。変形するというのは少し具体的過ぎるので、拡張するというのはすごく適度に抽象化されたことだと思うんですけれども、そういったコンセプトを考えられるといいんじゃないかと思います」
<誰も見たことがないものを作るには?>
なかむらさん(岐阜)「誰も見たことがないようなものを積極的に作られているイメージがあります。誰も見たことがないものだとか、唯一のものだとか、そういったものを作るときに大切なものは何かということがあれば教えていただきたいです」
真鍋さん「とにかく日々、自分が興味を持っている分野の過去の作品や何が実際オリジナルなのかということを『徹底的に調べる』ということをやっています。誰もやっていないことと言いますけど、本当に誰もやってないことというのは範囲を限定しないと難しくて、過去にこういうことがやられているけれど、この部分は新しいとか、そういうところを探していくというイメージではあります。なので、過去の歴史とか作品とか原点。そういうルーツを探してみるというのは、結構、それが新しいアイデアにつながることもあります。今はインターネットでいろんなことを簡単に調べられるので、あとは調べたものに対して僕がやっているのは、調べっぱなしではなくて、調べたものに属性をつけていくということは大事だと思います。その属性をつけるセンスっていうのがすごく重要です。
例えば、リモートとか離れた場所でライブすることを、“テレプレゼンス”と言うんですけど、テレプレゼンスという属性をつけて、次は『これはいつ始まったんだ?』という考えにいくわけですよね。そうすると、今はインターネットとかありますけど、『じゃあその前って何?』と言ったら“衛星”ですし、『その衛星通信の前は何?』と言ったら“のろし”みたいなことですね。そういったことが元祖になっていた。のろしの時代でもリモートライブなんですよ。だからそれは“リモート”と属性をつけられる。古くさかのぼっていっても同じ属性をつけられるようなものを探すとか、『調べたあとに情報を整理する』というのがすごく大事だと思います。僕はその属性をつけて情報整理しているものを公開しているので、チェックしてみてください」
<失敗にどう向き合っている?>
なかむらさん(岐阜)「僕は失敗に対して、すごくネガティブというか、失敗してしまうと自分の今までの行いを否定されたような感じになってしまって、慎重になりすぎてしまう部分があるんですけれども、真鍋さんは失敗に対してどういった向き合い方をしているのかというのをぜひお聞きしたいです」
真鍋さん「どれぐらい失敗できるかというハードルの設定とか、準備を自分でやるのか、コラボレーターとやるのかとかで全然違うんですけど、とにかく『バックアップを作っておく』というのは、当たり前ですけどいちばん大事です。バックアップにもいくつか作り方があって、例えばさっき僕がイントロでアイスブレイクやったと思うんですけど、あれは65点ぐらいなんですよね。準備してきたものに対して。『左手のセンサーが動いてないわ』って。『でもなかったことにして続けてしまおう』と。なので、そのバックアップも致命的にならないようにいくつか用意しておく。さっきのプロフェッショナルの生放送もそうなんですけど、まるまる事前に撮影しておいて、何かあったときには『機材トラブルにより、事前録画の映像を再生します』みたいな。こういう動画も実際に用意していて、これはゼロ・イチというか、完全にありかなしかのバックアップですね。
バックアップを考えるのも楽しいので、そういう考え方にシフトする。あとは『まあ失敗しても・・・』って。でも失敗するのはきついですよね。だから、いっぱい失敗しておくってことですね。大きな本番の前に。失敗することで原因が分かることもあるので。意外と紅白の現場でも、本番前日に無線がうまく動かなくて、原因がすごい磁場が強いところが実はあったみたいなこととか。でも前日に失敗して超ラッキーだみたいなこともあるので、失敗するタイミングとかチャンスを増やすというのもあるかもしれないですね」
<テクノロジーが先か、やりたいアートが先か?>
かいかいさん(東京)「真鍋さんは、面白いとか興味があると思うテクノロジーベースからプロジェクトとか作品を作っていくのか、やりたいこと・アートがあってからテクノロジーを深めていくのか、どちらが多いですか」
真鍋さん「例えばドローンなんかは、ドローンが出る前はヒモをつるして空中でライトコントロールするということをやっていて、スイスの大学の人たちがドローンの屋内での制御のテスト動画を上げていて、すごいインスパイアされたので、結構テクノロジーにインスピレーションをもらうことはありますね。最近だと、お絵描きをしてくれるAIとか、チャットで対話してくれるAIというものの進化のスピードとか。
人間と完全にかけ離れているようなところに関しては、もしかするとあまり興味がないのかなというのは、何となく自分の過去の作品を見ていて思います。新しいテクノロジーが出てきたときに、これが使えたらダンスが変わるとか、人の感覚とかそういうのが変わっていくんじゃないかというので、僕の場合は人間が興味の中心にはあるかなというのは思います」
かいかいさん「真鍋さんの作品のアナログとデジタルが混ざってくるところが非常に好きで、紅白とかのイベントもとても良いなと思いました」
<全く違う表現や技術をどうつなぐ?>
かいかいさん「もう一点、コンセプトとか表現と技術をつないでいくプロセスは、どういうふうにつなげていくんですか。アナログとデジタルは全然違うものだと思うんですけど」
真鍋さん「全然作品にならないものとかもたくさんあって、本当にテクノロジーの実験をしているだけということもそれなりにあります。ただ、何かの拍子に結びつくときがあって、それを最初から効率よく狙って毎回出せたらいいと思うんですけど、僕はそれが得意ではないので、年に1個か2個ぐらい新しいアイデアが出たらいいなというぐらいの気持ちで、いろいろ実験しているという感じです。やっぱり『実際にやってみる』ということがいちばん早いし、それをどれだけたくさんこなせるかということも、新しいアイデアを出すのに大事なのかなという気もします」
<チームで“ものづくり”をするときに 大事なことは?>
mayuさん(千葉)「家電を楽器に生まれ変わらせるメディアアートのプロジェクトをやっています。そのチームメンバーが世界あわせて50人くらいに増えてきたんですね、関わってくださる人たちが。真鍋さんはチームでものづくりをするときに、大事にしていることや、心がけていることがありますか。あったら、ぜひお聞かせ願いたいなと思いまして」
真鍋さん「家電というのは、冷蔵庫とか電子レンジですか?」
mayuさん「はい、扇風機ですとかブラウン管とか・・・今となっては使われていないテクノロジーを使っている家電を楽器にして、それをみんなで弾いたり、アーティストの方に実際ライブで使っていただいたりしています」
真鍋さん「なるほど。コラボレーションもいろんなパターンがあると思うんすけど、僕はできれば長いコラボレーションをしたいなと思っていて、実際に長い期間コラボレーションをずっと一緒にやっている人というのは多いです。まず長くやると共通言語が増えていくので、前提がどんどん要らなくなる。しかもお互いのことをよく知るようになると、よりリスクの高いことができるようになっていく。みんなが越えるべきハードルがあって、それなりにリスクをとらないとできないようなこともあって、そういう設定をうまくやるっていうことかなと思います。高すぎてできないとなってしまうと良くないんですけど、低すぎると成長しないですし。低く設定してもめちゃめちゃ高く跳ぶ人たちはたくさんいるので、特に内部のエンジニアとかはそんな高く跳ばなくていいんだけどっていうぐらい高く跳ぼうとする人たちがばかりなので、そういう意味では楽ではあります。
やっぱり“目標設定”。プロジェクトごとの目標設定というのも短期的にあるし、いちばんいいのは3年後とかに大きなプロジェクトを作って、そこに向けて何を成長させていくかみたいなことをする。さっきの例で言うと、『Seamless Mixed Reality』という演出は5年ぐらいかけて、どんどん作り込んでいったものですけど、抽象化したコンセプトを作って、それに寄りかかりながら、ある程度長期のプロジェクトを一緒にできるようにするっていうことですかね。それと一個一個のプロジェクトでいうと、ある程度みんなが燃える興奮するようなハードルを設定するということかと思います」
mayuさん「はい、ありがとうございます」
たくさん質問ありがとうございました。プロジェクトの紹介もしゃべってみたらボリュームがたっぷりで、すごい長くなってしまったんですけど、楽しんでいただけたなら幸いです。
やっぱりこういう質疑応答みたいな形になると、どうしてもアドバイスで応えるっていうふうな形式になってしまいますけど、僕自身も自分の感覚としては、皆さんと同じようにいろんな悩みも抱えつつ、チャレンジをしなきゃいけない課題もたくさん抱えながら制作しているので、そういった意味では同じ土俵にいると思っています。今日のことをひとつのきっかけに、新しいことにチャレンジしたり、制作したり、これからのことにつながるようなお手伝いができたなら何よりでございます。ありがとうございました。