NHKアカデミア 第13回<サッカー日本代表監督 森保一>①

NHK
2023年4月11日 午後6:37 公開

皆さん、こんばんは。サッカー日本代表監督の森保です。ボールを蹴ることは慣れていても、皆さんにしゃべり続けることはなかなかありません。今日はカメラの向こうに1000人を超える方々がいる。中には、スペインやイングランドから参加している人もいるらしいと聞きました。緊張しますが、皆さんとコミュニケーションしながら、楽しい時間を過ごしたいと思います。

そこで、少し自己紹介したいと思います。私はもともとサッカー選手です。サンフレッチェ広島というチームをはじめ、京都パープルサンガ、そしてベガルタ仙台でもプレーしました。

1992年からは、日本代表として、ワールドカップ出場も目指して戦いました(W杯最終予選でドーハの悲劇を経験)。そして、現役を引退してから指導者になりました。サンフレッチェ広島の監督になってからは、選手の頑張りもあって、6年間の任期中に、3度優勝することができました。

その後、2021年東京オリンピックのサッカー日本代表の監督になり(2017年~2021年)、昨年のワールドカップの監督にもなりました(2018年~)。

「監督」と聞くと、厳しい練習で選手を叱咤激励(しったげきれい)し、チームをぐいぐい引っ張る“怖いボス”をイメージしている人もいると思います。でも私はご覧のとおり、そういうタイプではありません。むしろ私はいろんな人、いろんな選手の意見を聞きながら、みんなの力を借りてチームを導いていきたい。なので、今日の講義も参加者の皆さんと力を合わせてともに作りあげていきたいと思っています。

<森保流 強いチームの作り方>

りょうさん「仕事でもスポーツでも強い組織を作るときに大切にしていることなんですけれど、どこまで選手の意見に耳を傾けているのかなと。時には、監督として強く言わないといけないところもあるのかなと思っているんですけれど、その点はどうお考えでしょうか?」

森保さん「僕自身が何かやるときのコンセプト、いちばん最初に伝えることは『みんなで頑張る』ということです。監督の立場ですので、チームの目標やそのチームがどういう方向に進んだらいいのかということを提示しなければいけないんですけれど、一方的に自分がその目標に向かってどうしたらいいかということを伝えるだけではなくて、現場でやっている選手の意見やスタッフの意見を取り入れながら、いちばんいい方法で目標に向かって進んでいく。そして、個々が少しでも思い切ってやっていける、個々の良さをいかして目標に向かってともに歩んでいけるようにということを考えています。

中には『俺の意見、私の意見は通らない』という人もいるかもしれないんですけれど、そこはたくさんの意見を聞いた中で、チームとしてこれがいちばんいいと思うことを決めているので、決めたあとは、そこに向かって最善を尽くしてほしいということを伝えます」

カナメさん「森保監督が指揮されている日本代表は、若い選手が多く活躍されていると思うんですけれども、若手選手を育てるにあたって大切にされていることをお伺いしたいです」

森保さん「今までの私の経験ですと、監督としてはJリーグで監督をして、そして日本代表で監督をさせてもらって、日本代表でもオリンピック世代の若い日本代表とA代表という年齢制限がない監督をさせていただいた中で、ちょっとずつ違うところがあります。ただ全体的に言えるのは、若い選手、経験の浅い選手に対してアプローチするという部分では、サッカー選手としてどこでも通用する“基礎の部分”を身につけさせてあげるということ、基礎技術・基礎体力等々のベースをしっかり作った上で、あなたの“武器”はこれだよということを伝えながら伸ばしてあげることだと思います。

クラブでは、まずは若手選手のときに、私は監督としてコーチの力も借りて選手を育てます。できれば自チームで戦力になってほしいけれど、プロとしての、サッカー選手としての基礎技術をあげることで、もしかしたら今一緒に仕事をしている所属チームでは芽が出ないかもしれないけれど、ひょっとして移籍したらとか、違う環境で芽が出るかもしれないということも考えています。もちろん自チームで戦力になってほしいですけれど、プロとしてどこに行っても成功できるように、サッカーを少しでも楽しめるように、“基礎の力”をつけてもらいたいということは思っています」

森保さん「先ほど、Jクラブ、東京オリンピック、A代表と若干違うかもしれないと言いましたが、A代表の選手たちは去年カタールのワールドカップでメンバー26人中19人が初出場の選手だったんです。いわゆる経験値は浅い。もちろん全員が若手とは限らないですけれど、若い選手が多かった中で、私が選手たちに話していたことは、『初出場かもしれないけれど、みんなは日本代表として選ばれている。その力がある』と。『経験したことがないところではあるけれど、ふだんやっていることが評価されて、ふだん持っている力が評価されて、日本代表としてワールドカップの舞台でも戦うことができるんだ』と。『ワールドカップはもちろん特別な存在であり、特別な場ではあるけれども、ふだん持っているものをまずはぶつけよう。これまでやってきたことに自信を持ってチャレンジしよう』ということは伝えました。まずは自信を持って向かっていけるように、勇気を持ってその場所でチャレンジできるように、“後押し”をしてあげるといいかなと思っています。

と同時に、これはサッカーだけではなくて、いろんな考え方の中で『サッカー選手である前に、良い社会人であれ』ということ。私自身は元マツダサンフレッチェの総監督であられる方にいろいろと教えていただいた中で、若い選手に対しても、その教えを伝えていきたいなと思っています」

あいささん「今、自分は高校2年生で、学校で生徒会長を務めていて、学校をより良くするために日々活動しています。その中で少数派の意見を取り入れることの難しさだったり、周りから信頼を得ることの難しさだったりを日々痛感しています。そこで日本を背負っていらっしゃるリーダーである監督に、リーダーとして周りから感謝されたり尊敬されたりするために、大事なことを教えていただきたいです」

森保さん「そうですね、難しいですよね。何かを決めようと思ったときに、少数派の人のことはもう置いておいて、多数決で決まりましたと言って物事を進めていくのは簡単だと思いますけれど、あいささんのすばらしいところは、少数意見の人たちにも少しでもポジティブになってもらえるように考えてあげるところだったり、その少数の人たちをひとりひとり見てあげて、思いやりを持って接したりすることができるところ。本当にすごいなと思います。これからも大切にしてほしいなと思います」

森保さん「そこから、どうなんだろうな・・・感動してもらえるように、尊敬してもらえるようにだったっけ?ちょっと違うかな?」

あいささん「感謝されたり、尊敬されたり・・・」

森保さん「私自身が思っているのは、まずは多数の意見ではなくて、少数派の人たちの話も聞いてあげて、決まったことに少しでもポジティブになってもらおうという働きかけをすることは、私自身もあいささんのようにしていきたいと思っていますし、ひとりひとりのことを大切にしていきたいと思っています。

でも私自身は、感謝されたり尊敬されたりすることはあまり考えずに、私の場合であれば『チームファースト』、あいささんの場合であれば『学校ファースト』で考えて、何かを決めるということをどこかで決断しなければいけないかなと思います。チームファーストであることが、私の場合は選手のために、あいささんの場合は生徒のためになると思って、何かを決めるということもあると思いますし、その思いを持っておくということはすごく大切かなと思います。

少数派の人たちに真摯(しんし)に向かって話すところまでは最大限の努力をするけれど、相手がもしかしたら、あいささんが言っていることに耳を傾けてくれないというか、分かってくれないときもあるかもしれないですけれど、そこは何か大きなことを決めるときには、最大限敬意を払って働きかけはするけれど、あとは決まったことにみんなで頑張っていきましょうと話をするかなと思います。みんなが納得してほしいという気持ちはありますけれど、そうではなくても決めないといけないときは出てくると思うので、そのときは心の中でごめんなさいと思いながら、決めていくというのが大切かなと思います。

今は分かってくれなくても、決めたことは少数派の人たちにものちのち絶対プラスになるんだよ、相手は納得しなくても、絶対あなたたちのためにもなりますという気持ちに持っていってもらうといいかなと思います」

サッカーコーチさん「僕は中学校の部活動でサッカー部のコーチをしています。昔から僕はサッカーをやっていて、森保監督がサンフレッチェ時代に優勝がかかった試合のハーフタイムのロッカールームで、選手に向かってモチベーションをあげる言葉をすごく熱くかけられていたドキュメンタリーを拝見しました。そのときからずっと選手のモチベーションのあげ方や、モチベーションの統一のしかたについて聞いてみたかったので、この場を借りてご質問させていただきます」

森保さん「サッカーコーチさんは何歳ですか?」

サッカーコーチさん「20歳です」

森保さん「その若さでコーチを志して、選手を育てることにトライしているというのはすごいなと思いますね。おっしゃるとおり、優勝争いをしていく中で非常に重要な試合で、前半負けていて、明らかに内容も相手の方が上回っていてというところだったんです」

※映像(開始点18分26秒)とあわせてご覧ください。

森保監督「まだいっぱいチャンスはあるよ。もっと気持ちを見せて戦う。ひとりひとりしっかりと戦えば、絶対勝てるよ。なんとなく組織で勝てると思ったら大間違いだ。ひとりひとり戦う。それで組織として協力しあって戦うということ」

森保さん「私が怒っているようにすごく激しい口調で選手たちに言葉がけをしていたと思うんですけれど、なぜかというと、選手たちがもっとふだん持っている力を発揮した方がいいんじゃないのかということで働きかけていました。勝っているとか負けているとかではなくて、『自分たちが今持っている力を本当にその試合で出し切れているか?』というところを見て、監督として『まだまだみんなできるよ』と。相手がすごく強いチームで、スタジアムの雰囲気も完全アウェーの中で出し切れていない。腰の引けた戦いみたいな感じに思えたんです。選手たちにかけた言葉は『今、本当に自分たちが持っている力を出し切れて全部ぶつけているの?その上で勝った負けたは全く問題ないけれど、まだまだ全然みんなできるよ』ということを、選手ひとりひとりに話しかけて、チームとしても話した中でのエピソードだったかなと思います。

サッカーコーチさんも、これは私の考え方での働きかけ方ですけれど、作ってモチベーションをあげるというよりも、現状を見てあげて、選手たちがどれぐらい力を発揮しているのか、どういうトライをしているのか、チャレンジをしているのかということで、選手たちに言葉をかけていってもらえれば、選手たちが自分の力を100%発揮する。そして、経験からまた少しずつレベルアップしていくということにつながっていくかなと思います」

森保さん「これもまた私自身の考え方なんですけれど、『モチベーションは人からあげてもらうものではなく、自分であげるもの』だと思っています。もちろん言葉がけで勇気づけられたりとか、自信を持たせてもらったりしたことはたくさんあります。でもまずは自分でモチベーションをあげられないと、キャリアとしてより高いところで戦っていくのは難しくなると思いますし、何をやるにしても自分が主体でチャレンジできるように、物事に取り組めるようにするということは、特に中学生年代であれば、選手たちに伝えてほしいなと思います。サッカーだけではなくて、うまくいったり、自分自身が楽しく思えなかったりすることもあるかもしれないけれど、何かをやるときには自分から進んでやっているんだという気持ちになって、目の前のことに取り組んでもらえるようにということを、選手たちには伝えてほしいなと思います」

<サッカーキッズに特別指導!>

コウタロウさん「僕は左利きなんですけれど、左だけではなく、右も練習した方がいいですか?」

森保さん「やった方がいいと思います。それはなぜかと言うと、コウタロウくんは左が得意で、左足を磨くというのはもちろん大切だけれど、もし相手になったらというのを想像してもらって、左足だけで蹴られるのと、右足も蹴れるんだと思って、右足で蹴るふりをして、得意な左足に持っていけたら、左足のキックがすごくいきると思います。神奈川県であれば、横浜マリノスや横浜FCで活躍していた中村俊輔選手。中村俊輔選手も、左足のすごいキックを持っていたんです。僕は対戦したことがあるんだけれど、実は右足も蹴れて『あ、右足で蹴るんだ』と思ったら、そこでフェイントをかけられて左足に持ち替えられて、すごいシュートやパスをされたというのを覚えています。コウタロウくんも右足も左足も蹴れると、自分の左足の武器がすごくいきると思います」

りょうせさん「自分はオフェンスの選手なんですけれど、ジュニアユースではディフェンスも強化したいと思っています。体の入れ方や意識は、どんな感じでしていたのか聞きたいです」

森保さん「攻撃が得意だけれど、守備のことももっとレベルアップしたいという感じですか?」

りょうせさん「はい」

森保さん「すばらしい!今のサッカーは攻撃の選手も守備のことができないといけないと思いますし、守備的な選手も攻撃のことができないといけない。両方ともできた上で、自分の武器は何なのかというのを考えられると、よりいい選手になれるかなと思います。りょうせさんは、守備のとき、何を意識しますか?」

りょうせさん「守備のときは、相手とゴールの間にまず立って、外にボールを出せるようにとか、前につなげるようにしっかりボールを奪うとか・・・」

森保さん「個人戦術の基本的なことをすごく分かっているんでいいし、守備が守備だけじゃなくて攻撃にもつながるという考えを持っているというのはすごくいいと思います。今の話を聞くと、個人戦術としてはすごくいいと思うんだけれど、まずはボールを奪うことを何回もチャレンジしてほしいなと思います。

マークしている相手がボールを持っているときにボールを奪うという1対1の練習をしたり、自分が見ているマーク相手にボールが渡るときに、ボールを奪うという距離感であったり、タイミングであったりということにチャレンジしてほしいなと思います。さっき言っていた相手とゴールの間に自分を置くという守備のしかたはもちろんいいんですけれど、まずサッカーで大切なのはボールの奪い合いから始まるので、ボールを奪うということをチャレンジしながら、相手との距離感、自分がどのタイミングでボールを奪いにいったらいいのかということを覚えてほしいと思います。体もぶつけながら、いろんなボールの奪い方があると思いますけれど、そのチャレンジをしながら、体の使い方を覚えていってほしいなと思います。まず、自分が思ったようにボールを奪いにいく。そのときに必要になる体の使い方を覚えていくということをやっておくといい。楽しむことを忘れずに、頑張って」

ゆうきさん「僕は、チームでトップをやっているんですが、トップでは何が必要ですか?」

森保さん「まずは、点を取ることが必要。ゆうきさんが点を取れれば、そこにパスを集めようとみんなが協力してくれると思うし、みんながつないでくれたパスでゆうきさんが点を取ると、チームも勝てるし、パスをつないでくれた人たちも喜ぶ。点を取る工夫をたくさんしてほしいと思います。ゆうきさんが点を取るために、みんながパスをつないでくれるように、逆にゆうきさんは守備のときに、中盤の選手やディフェンスの選手、そしてゴールキーパーが守備をしやすいように、トップから相手の守備にプレッシャーをかけて、次の人がボールを取りやすくしてあげるとすごくいいと思います。

攻撃も大切だけれど、今のサッカー、そしてゆうきさんが大人になってからのサッカーは、攻撃も守備も両方とも試合の中で関わっていかなければいけないサッカーになると思うので、まずは点を取ること、それからチームの守備も助けるということをやってほしいと思います。いっぱい点を取ってね」

renさん「ふだんはバックをやっているんですけれど、トップにはいっぱい大きい選手もいて、そういう中で1対1を勝って攻撃につなげるということが、あまり僕にはできていません。どうやったら大きい選手にも勝てるように、体を入れたりとか、そこから攻撃につなげたりとかできるのか、教えていただきたいです」

森保さん「真摯(しんし)に向き合っていて、すばらしいと思います。renさんは、ディフェンスの中でもポジションはどこ?」

renさん「左サイドバックです」

森保さん「左サイドバックか。難しいポジションだね。まずは強くなることが大切だと思います。1対1の練習はいっぱいやっている?」

renさん「チームの練習では」

森保さん「そこで大切なのは何回も何回もトレーニングで繰り返してやること。例えば、体の大きい相手・・・日本人選手もそうだし、もちろん国際試合になったら、本当に機能もフィジカル的にも全然違うような選手たちと戦わなければいけなくなる。まずは、ふだんのトレーニングでやっていることを発揮すれば、相手がどんなにスピードがあっても、大きくても、自分は勝てると思えるように自信を持ってほしいなと思います。

ちょっと想像してもらうと・・・長友選手は、体格差があっても、相手が大きくても気にしてないし、1対1で勝つために常に自分を鍛えて強くしている。あと、強いだけじゃなくて予測力を発揮して、相手より先に一歩動くことで賢くポジションを取って、体格差やスピードの違いのある選手たちにも勝っていく。まず自分を強くするとか、速くすることをやった上で、もっともっと賢くやって自分がより勝てるようにしていこうと磨いています。例えば、ヘディングも勝つのは難しいかもしれない。でも、勝てないまでも、やらせないようにする。ボールが浮いているときに、相手と駆け引きして、良いポジションをとって相手に飛ばせないとか。ファウルにならないように相手に体をぶつけて、相手を自由にさせず、自分がいいプレーをできるようにというボールが来るまでの駆け引きはいっぱいできる。そういうところで賢くプレーできるように学んでほしいなと思います。すごくいい顔をしているし、うまくなりたいという気持ちがすごく出ているので、頑張ってね。楽しむことを忘れずに」