NHKアカデミア 第2回<恐竜学者・小林快次>①

NHK
2022年5月27日 午後4:14 公開

こんにちは。恐竜学者の小林快次です。カメラの向こうにたくさんいらっしゃるんですけれども、こういう形でチャンスをいただけて、楽しくお話しできればと思っています。恐竜を通して、皆さんもちょっと参考になることがお話しできればと思っていますので、どうぞよろしくお願いいたします。

今、このスタジオ、私の後ろに見えるのが日本で発見された「むかわ竜」=「カムイサウルス」という恐竜の5分の1サイズの骨格です。

すごく小さいんですけれども、大きさがイメージできないと思いますので、実際の大きさの頭骨も持ってきました。頭骨だけで80cmから90cmぐらい。結構大きな頭で、全身がなんと8m、そして腰の高さが3mぐらいですので、もしこのスタジオに全身骨格が入っていたら、天井を突き破るぐらいの非常に大きな恐竜です。

7200万年前にこんなに大きな恐竜が、この日本に住んでいた。このむかわ竜、カムイサルスの発見や発掘については、またあとでたっぷりとお話ししたいと思います。

それでは早速、NHKアカデミア、始めていきましょう。

私は、「ファルコンアイ」と恐竜の研究者からも呼ばれていたりするんですけれども、その理由は、人よりも多少なんですけど、多くの化石を見つけるというのが、もしかしたら由来かなと思っています。

たくさん見つかれば当然ながら新種の恐竜の発見も増えていきます。他の恐竜研究者もたくさん見つけようとするんですが、その中でも私が人よりも多く見つけることができる、成果を出し続けている、その秘密を皆さんにお話しできればと思います。皆さんの生活の中で、勉強したり仕事をしたり、悩みを解決する上で、もしかしたら私が今からお話しすることが、ほんのちょっとでもヒントになるかもしれないなと思っています。というのも私自身、「夢中になれるものを見つけた方法」というのが、実は「化石を見つける方法」と多くの共通点があると思うからなんです。

キーワードは、「カルペディエム」という言葉になります。

この言葉の意味がどういうものなのかということを、これからお話しできればというふうに思っています。

<恐竜学者の生活>

恐竜学者がどんな生活を送っているかというのは、皆さん想像できないと思うんですけれども、私の場合は、1年あるうちの大体4分の3、9か月ぐらいは、所属している北海道大学の研究室で恐竜の研究であったり論文執筆であったり、それ以外に普及書の本を書いたり、このような講演だったり、イベントというのを行っています。

私がいちばん大事にしているのが残りの4分の1。3か月です。主に、私は海外で化石を発掘、調査する作業に費やしています。こちらに、私がいろんな調査を行ってきたところの地図が出ています。世界中10か所以上のところで調査を行っていて、私が恐竜の研究調査を始めて30年近く経ちます。

主な調査地の風景が、こんな感じです。右下のアラスカ、左下がカナダ、そして、上の方がモンゴルのゴビ砂漠。このようなところで調査をしていて、日本では北海道むかわ町というところでも調査発掘を行なっています。

恐竜研究者にはいろんなやり方があって、いろんな分析をして、パソコンでいろんなシミュレーションをやったり、動物の実験をしたりというのがあります。私が個人的にいちばん恐竜研究者として重視しているのは、「自分の足で、そして自分の手で、そして自分の目で恐竜を見つけること」です。それは発掘現場に行って、恐竜を探すことなんですね。

皆さんも恐竜のことを知っているとは思うんですが、一応おさらいしますと、恐竜が生きていたのは今からおよそ2億5000万年前から6600万年前までの、1億7000万年間ぐらいの時代で、特に中生代と言われる時代が、恐竜がたくさん生きていた時代になります。

こんなに大昔に生きて死んだあと運良く化石になるわけですけれども、それを私たちが一生懸命探すわけです。ただ、なかなか見つからないというのが普通のことなんです。特に保存状態がいい全身骨格、例えば今回のむかわ竜、カムイサウルスのように、まるごと一体見つかるようないい化石というのは、かなり奇跡的なことなんですね。

それはなぜかということを説明いたしますと・・・恐竜が生きていて、それが死にます。普通だったら他の動物の餌食になって食べられてしまって、肉も骨もみんなバラバラになってしまうんです。

研究ができるいい化石が残るためには、死んだあとすぐに土砂に埋もれて、他の恐竜から隠される必要があります。うまく隠されると、どんどん上に土砂が積もって地層となっていきます。すると、その全身骨格が化石となっていく。

ただこれだけでは私たちは化石を発見することはできません。その後、地殻変動で地表にその化石が持ち上げられて、それがちょうどタイミングよく風化されて、そこにタイミングよく私たちが通る。そして本当に奇跡的に発見できるということなんですね。

私が現在、10か所以上の調査を行っていると話しましたが、特に力を入れているのがアラスカ、カナダ、モンゴルです。この地域には、中生代、恐竜がすんでいた時代の地層というものが、たくさん露出している。

ただ、急斜面であったり、危ないところが多いです。例えばアラスカであれば、非常に切り立った崖を登って、落ちたら大変なことになりますし、グリズリーという非常に大きなクマに1日5回も6回も7回も連続して会うようなことがあります。あとゴビ砂漠、モンゴルは、崖から落ちてけがをするなんていうこともありますし、暑さとの闘いで脱水症状が起きることもあり、非常に過酷な環境で調査を行っています。

<発掘七つ道具>

今日はせっかくなので、私が実際に使っている発掘の道具を、皆さんにお見せしたいと思います。

まずは恐竜研究者に欠かせない、化石を掘る人、または地学、石を研究する人には欠かせない「ハンマー」です。普通のハンマーなんですけれども、ここにオレンジのテープが貼ってあります。これを何に使うかというと、例えば化石を見つけたときに目印になるように、石を積んだり、こういうテープを巻いたりして分かりやすくする。一回化石を見つけたら、そのあと同じところに戻れると思うんですけれど、意外にすぐ分からなくなるんです。なので目印を作るためのこういうテープというのはすごく重要です。

毎日持っていく「バックパック」。これは小さめのバックパックで、これの倍から3倍ぐらいのバックパックを、毎日担いでいきます。

これは「水筒」です。ただの水筒なんですけれども、大事なのは巻いてある「ガムテープ」ですね。ガムテープってすごく便利で、化石を見つけたときに、これでこん包することもできますし、例えば骨折したときなんかも、これで固定して応急処置をするとか、いろんな用途で使いますので、こういうガムテープは必ず巻いて持っています。

そしてこのバッグを開けると、いろんな道具が入っています。まずは先ほどのハンマーを使うときにけがをしないように「手袋」を使います。革の手袋。こういうのも安く売っているんですけど、こういうものを使っています。これだと手でガサガサと石をかくこともできるので、すごく便利です。

絶対に欠かせないのが「フィールドノート」。もし皆さん、山に入って化石を掘りに行くぞというときには、普通のノートでもいいんですけど、私はこういう専門のフィールドノートを持っていきます。ここにいろんなデータや気になったことをメモして、これで研究というものをしっかり行っていきます。

そして、見つけたときに記録をしなければいけないので、「カメラ」は必ず持っていきます。普通のカメラでもいいんですけど、今、防水防じんのカメラがよく売られています。私も防水防じん、多少の高さから落としても大丈夫なような頑丈なカメラを持っています。

記録はカメラだけではなくていろんなものを使います。例えばこのような「小型ドローン」。こういうものをバッグに積んで、映像を撮ったり、写真を撮ったり、たくさんの角度から空から撮って、それをパソコンに入れると、立体にまた復元できるんですね。フォトグラメトリーという技術なんですけれども、こういうものを使って化石の産地をしっかりとデータ化します。

あとは、常にバッグの外につけている頻繁に使う道具です。

例えば「GPSユニット」といいまして、化石を見つけたときに、見つけた場所の緯度経度をしっかりと記録するための機械です。

これはアラスカですけど、クマ対策ですね。クマを威嚇するための「笛」。

あとは化石を見つけたときに、骨というのは破片で見つかるとなかなか石なのか骨なのか分からないときがあるので、「ルーペ」です。二つ大きさが違うんですけど、こういうルーペを使って、細かい構造を観察したりします。

こちらについてる黒い棒、これは「ペン」です。普通のボールペンでもいいんですけど、これは特殊なボールペンで、雨が降ってぬれたフィールドノートにもしっかりと書けるようなペンを使っています。

それ以外に、見つけた化石の大きさを測るための「スケール」。これは100円ショップで買ったものです。

あとは、これもクマ対策なんですが、こういう「単眼鏡」を持っています。クマに出会う前に、先に私たちがクマを見つけるように、これで確認しながら調査に進む。こういうようなものをバックパックの外にかけています。

それ以外に、発掘するとなると、恐竜の骨を地面から掘り出さなければいけないということで、いろんな道具があります。今、私が持っているのは小林流なんですけれども、「欲しい。頂戴」という海外の研究者が多かったりします。この中身っていうのは研究者によって、ものが異なります。

先程は、大きなハンマーがありましたけれども、それ以外に小さめのハンマーですね。これもホームセンターで売っているようなハンマーです。大きいものは大きな石を割るとき、小さい方は細かい作業をするときに使います。

この小さいハンマーを使うときに使う道具としては、私たちはよく「チズル」というんですけれども、先がへん平になったものです。大事なのは、金属が中に通っているのがいいですね。金属が通っていると、たたいてもしっかりと力が伝わるというのと、金属が通っていないとこのプラスチックの部分割れてしまうので、興味のある方はたたいても割れないものを選んでください。

へん平なものだけじゃなくて、このように先がとがっているもの。

あとはもうちょっと岩を荒く削りたいときは、このようなチズルがあります。

「デンタルピック」と言われているものもあります。これは非常に細かい作業をするときに使います。

見てもらうと大きさが色々ありますね。なぜ大きさが違うかというと、実際に発掘しているときに、骨との距離と道具の大きさに法則があるんですね。遠ければ遠いほど大きな道具を使う、近ければ近いほど小さい道具を使います。なので骨に近づいていくと小さい道具で、最終的にはこういうデンタルピックを使ったりするんです。

それ以外に私たちがよく使うのは「カッター」であったり、こういう「ナイフ」を使ったりします。こういうものを使って、周りの石を骨から取り除く作業をするんですね。岩をナイフで切るって、皆さん不思議に思うかもしれないですけれど、私たちは発掘でよく使う道具です。

また、時たま骨が壊れたりするので、どこでも手に入るような「瞬間接着剤」を使ったりします。

あとは化石が埋もれて周りにいっぱい土砂があったりすると、こういう「はけ」を使ったりします。これも大中小もっと小さいもの、歯ブラシなんかを使ったりするんですけど、こういうものを使って骨を出していく。

あともう一つ、最後に大事なのが「スケール」。これは写真を撮るときに使うんですけれども、なぜかと言うと、みんな写真を撮っても大きさが分からないんですね。あとでしっかりとどのぐらいの大きさなのか分かるように、このようなスケールを置いて写真を撮るというのは鉄則なんです。なので皆さんも、恐竜を見つけた際には、ただ写真をバチバチと撮るのではなくて、こういうスケールを置いて撮ってもらったらいいなと思います。

いろんな研究者がいろんな道具を持っていったりするので、それぞれのスタイルがあると思うんですけれども、これはごく一部です。本来はもっといろんな道具を持っていくんですが、こういうものを使って発掘をするんですね。

そうすると、地中に埋もれている化石との出会いがあるんですね。少しずつ発掘して、あらわになっていく恐竜。そのときに何千万年前とか何億年前のかつて生きていた生命、動物・恐竜と、時空を超えて出会うことができる。これは最高の瞬間だし、めちゃくちゃロマンのあることだと思うんですね。これは恐竜研究者だけができる楽しみなんじゃないかなというふうに思っています。

恐竜の研究をしていて、本当に楽しい瞬間っていうのは他にもあります。