数学ノート 1+2+3+4+…=-1/12(シーズン2)

NHK
2023年12月2日 午後6:07 公開

「1+2+3+4+・・・=-1/12」、いかがでしたでしょうか?

「プラスの数を足していくのになんでマイナスになるの!?」「キツネにつままれたみたい・・・」「発散する級数の“和”を求めたいと考えるなんて、数学者ってやっぱり変だよなぁ・・・」 そんな感想を持った方も多かったのではないでしょうか? 番組では決して「プラスの数を足していくのにマイナスになる!」ということを言いたかったわけではないのですが、とにかく不思議だなー、と感じた方が多かったのではないかと思います。

「私は見逃しちゃったよ!」「見たけどもう一度見たい!」という方は、NHKプラスでは放送から1週間、NHKオンデマンドでは放送から1年間、それぞれ配信していますので、ぜひご覧ください!

ずっとプラスの数をたしていく無限級数の謎

1-1+1-1+・・・と続くグランディの無限級数や、1-2+4-8+・・・と続くヴォルフが考えた無限級数は、難しいことはともかくとして、「前者が1/2で、後者が1/3になる、と言ってもまあいいか」と考えられなくもないような気がします。というのも、グランティの級数は1と0を行ったり来たりするので平均すれば1/2と言えなくもないし、ヴォルフの級数は(尾形さんもやってくれていたように)1/3の周りでプラスとマイナスに振動するのでざっくり1/3って言ってもムチャクチャ変ではない、って思うことも、まあできなくもない気がしますからね。

でも問題は、1+2+3+4+・・・が-1/12になるっていう話です。「ずっとプラスの数を足していくのにマイナスになる、というのはあんまりではないか!」「いや、そもそもなんで1+2+3+4+・・・みたいな無茶な和を考えようなんて発想を持ったのか?」 そんな疑問で頭がいっぱいになりますものね。

わらすうスタッフも制作を進める中で、そんな疑問で頭がいっぱいになりました。

そんな時、ある高名な数学者のこんな言葉を伝え聞いたのです。

「正項級数(ずっとプラスの数になっている級数)を含めて、様々な総和法を開発した19世紀後半以降の数学者の動機には、“ゼータ関数”の『解析接続』という出来事が影響していると思われる」

一体どういうことなのでしょうか?

「解析接続」という考え方

“ゼータ関数”の名前は、わらすうの視聴者の方でしたら覚えていらっしゃる方もいるかもしれません。「素数」の回で出てきましたこの式です。

実は上の式、こう書くこともできます。

これは今回出てきましたね。

ここで重要なのは、実はこの2つめの式の左辺は、変数s(の実部:以下省略)が1より大きくないと発散してしまって意味を持たない、ということです。

ところが実は、右辺のζ(s)は1を除くすべてのsで意味を持たせることができるんです。

左辺は、sが1より大きくないと意味を持たないのに、それがどうして、1を除くすべてのsで意味を持つ式と関係するのか・・・。

そこには大数学者、ベルンハルト・リーマンが19世紀生半ばに編み出した、“ゼータ関数の「解析接続」”という考えが存在しているというんです。

「解析接続」とは、ムチャクチャざっくり言えばこんな感じです。

左辺は、sが1より大きくないと意味を持たないけど、この左辺を、1を除くすべてのsについて意味を持つように、だんだんとsの範囲を(複素数の範囲で)拡大していく(接続していく)数学的な手法がある・・・

このことは、ゼータ関数ζ(s)は、sが1より大きい場所では左辺の形で書けて、それ以外の場所、つまりsが1より小さい場所でも意味を持つようにできる「別の書き方」がある、ということなんですけど・・・、まあ書いていても感じます、ぜんぜん分かりませんよね・・・笑

とにもかくにもこの「解析接続」という考え方は、(「虚数」の回で出てきた)「複素関数論」の分野で登場するとても重要な考え方で、この考え方に納得できると、微分とか積分とかという解析学のいわば“神髄”に触れたような気分になれるそうです。その気分を味わってみたいという方は、是非とも「複素関数論」を勉強していただけると良いんじゃないかと思います(結局説明できず、すみません・・・)。

ちなみに、番組に出てきた注釈で、「オイラーは『解析接続』の考え方を先取りしたものだとされる」というシーンがあったのを覚えていらっしゃいますか?

それはオイラーのこの式。

オイラーのこの式の左辺はx(の絶対値)が1より小さくないと発散してしまって意味を持ちませんが、右辺はxが1を除くすべての数で意味を持ちますよね。

実は、左辺を「解析接続」した形が右辺なんです。

それと同じように、ゼータ関数でも、

左辺を解析接続した形が右辺なのです。

ただし、オイラーの式では右辺は1/1-xという風に比較的簡単な数式で書けましたが、ゼータ関数の場合は右辺が簡単な式ではとうてい書き表せないので、その代わりの記号としてζ(s)が使われているわけです。

和が存在しない無限級数にも“和”を求める総和法

で、かなり前置きが長くなりましたが、さっきの高名な数学者の言葉に戻りましょう。

「正項級数(ずっとプラスの数になっている級数)を含めて、様々な総和法を開発した19世紀後半以降の数学者の動機には、“ゼータ関数”の『解析接続』という出来事が影響していると思われる」

さっきのゼータ関数の式にむりやり範囲外の値、s=―1を入れてみると、

 1+2+3+4+・・・=ζ(―1)

になります。この式は範囲外の数値を無理やり入れている時点であくまで間違っている式、ということになりますよね。

でもそれをちょっと我慢して右辺のζ(―1)を(ゼータ関数のややこしい数式を使って)ちゃんと計算すると、-1/12になることが分かります。

するとこんな疑問がわきませんか? 

間違っている式とはいえ、左辺の1+2+3+4+・・・と右辺のζ(―1)=-1/12は当然関係があるはずだ。なぜなら、ζ(s)は、下の式が示しているように、左辺を解析接続して生まれたものなんですから。

だから、1+2+3+4+・・・と-1/12とは、必ず強い関係で結ばれているはず・・・。いや、ひょっとしたら“イコールに近い形”で結べちゃうんじゃないか・・・。そんな気がしてきても不思議ではありません。

そんな気分が漂う中で生み出されたのが、番組でご紹介したラマヌジャンの総和法による結論だったと思われる、というのが高名な数学者のご指摘だったわけです。

だから、19世紀半ばにリーマンがゼータ関数が1を除くすべてのsに解析接続可能であることを示した時に出てきた、

 ζ(―1)=-1/12

という式が、総和法を編み出した19世紀後半の数学者たちの動機になり、やがてはラマヌジャンが、ラマヌジャン総和法を編み出すことにつながっていたのではないか、ということになるわけです。

もちろん、インド生まれの天才・ラマヌジャンは、ヨーロッパ式の論理を積み上げ証明していく形での数学とかなり違う思考法で独自の数学を作り上げた人として知られていますから、何か別のルートで、1+2+3+4+・・・が-1/12になることが見えていたのかもしれませんね。

カシミール効果の数式

さてさて番組では、“1+2+3+4+・・・”=-1/12という不思議な数式が、なんと物理学とつながっている、というお話を2つご紹介しましたよね。一つ目はカシミール効果でした。

番組では、その詳しい計算方法は全くご紹介しきれませんでしたが、このカシミール効果、理論物理学でちゃんと計算するときにはいろいろな方法があるそうなんですが、しばしば、「プラナの和公式」というものを利用するそうです。

この式を、カシミール効果に当てはめると、1次元カシミール効果の場合はf(z)=zとすることになって、(細かいことは抜きにすれば)次の式が出てきます。

ここで、1+2+3+4+・・・が金属板の間の空間のエネルギーにあたり、積分の部分が金属板の外の空間のエネルギーにあたるそうです(単位等は別にして)。よってその差である-1/12が、金属板に働く引力に比例する値になる、というわけです。

ちなみに、私たちが暮らす三次元の世界でのカシミール効果の場合は、f(z)をzの3乗に置き替えて計算すればその差は1/120であると求めることが出来ます。つまり、3次元の場合には、金属板に働く引力は1/120に比例することになります。

何もないように見える空間なのに、そこに引力が生ずるなんて非常に不思議な感じですが、これこそが量子物理学の大発見なんだそうです。

超弦理論では

最後に、超弦(ちょうげん)理論でなぜこの世界が10次元であると出てくるのか、についてもちょっとだけふれておきましょう。ただし、ここまでもそうですが、数学や物理学の素人のわらすうスタッフがちゃんと理解しているわけではありませんので、あくまでちょっとふれるだけですが・・・。

1+2+3+4+・・・=-1/12が、超弦理論の中でどんな風に登場するのかというと、ざっくり言えばこんな感じだそうです。

超弦理論では、光子の質量が、

 2+(空間の次元―1)×3×(1+2+3+4+・・・)

に比例することになるそうです。ここで、例の式をつかって、1+2+3+4+・・・を-1/12に置き換えれば、この式は、

 2―(空間の次元―1)×1/4

になりますよね。

で、ここで光子の質量が0だということは分かっていますので、この式がゼロになるということは、空間の次元=9となり、時間と合わせると、この宇宙は10次元の時空でできている、ということになるわけです。

ここで、わらすうスタッフがよく分からなかったのが、なぜ、1+2+3+4+・・・をそのまま-1/12で置き換えてもいいのか、ということでした。カシミール効果の場合には、上で見たように、1+2+3+4+・・・をそのまま-1/12に置き換えたわけではなく、積分の部分(発散する部分)を差し引いて-1/12という数が求められていましたよね。

超弦理論の高名な教科書である、「SUPERSTRING THEORY」(グリーン、シュワルツ、ウイッテン著)によると、ゼータ関数を使ったこの置き換えがあまりに形式的だと思える場合には、もっと物理学に即した説明方法がある、というようなことが書かれていました。けど残念ながら、その数式を追う力はわらすうスタッフにはありませんでした・・・。謎を解きたい方は是非とも超弦理論を勉強してみてはいかがでしょうか。


ということで、次回はBSD予想なんですが、そこにもまた、ゼータ関数が出てきます。そして、さらにその次の週は、「笑わない数学」の記念すべき第1回、尾形さんの数学デビュー作である「素数」の回をセレクションとして再放送します。もちろんそこにもゼータ関数が登場しますから、どうぞお楽しみに!

では、また!

今回のキーワードと数学者たち

無限個のたし算(無限級数)

等差級数

等比級数

まず途中までのたし算(部分和)を考える

部分和が落ち着かない場合、あるいは、部分和がいくらでも大きくなる場合は、無限級数の和が「発散」するという(答えがない)

無限級数の和が1つの値に落ち着く場合は、「収束」するという(答えがある)

数学なのに答えがないのは残念だなあ?

現代数学では、発散する無限級数の和を考えることに意味はない、とされる

ルイージ・グイド・グランディ(イタリア)

プラス1とマイナス1の交代級数の和は?

現代数学では、答えなし、とされる

グランディの結論は「和は2分の1」

クリスティアン・ヴォルフ(ドイツ)

部分和の式に現れる「コア」の部分と「発散してしまう」部分にわけて考える

レオンハルト・オイラー(スイス)

等比無限級数の公式が成り立つ範囲をあえて無視して値を代入

※オイラーの考え方は「解析接続」を先取りしたものだとされる

いやいやいや、そんなわけないじゃないですか!

その後19世紀の数学者は「発散する無限級数の和を考えることに意味はない」という厳格な考え方を採用 ところが・・

エルネスト・チェザロ(イタリア)

答えがないとされる無限級数にも答えを求める特殊な計算方法、チェザロ総和法

アーベル総和法、ボレル総和法

シュリニヴァーサ・ラマヌジャン(インド)の総和法

すべての自然数の和はマイナス12分の1?

ゴッドフレイ・ハーディ(イギリス)

ベルンハルト・リーマン(ドイツ)

ゼータ関数正規化法

ゼータ関数に無理やり範囲外の数を代入すると・・

普通とはちがう、深い意味がある?

“普通とは違う意味”で正しい(等しい)

ヘンドリック・カシミール(オランダ)

「カシミール効果」を予言

“真空中に小さな隙間を隔てて置かれた2枚の金属板の間に、奇妙な引力が働くはずだ”

スティーブ・ラモロー(アメリカ)

実験で「カシミール効果」を確認

超弦理論(超ひも理論)

「この世界は10次元でできている?」

“奇妙な数式”が自然法則に利用されている?

尾形のとっておきの数式

サンキューーーー!!

「おーい!テンション低いなー!」

数学者が語る「1+2+3+…=-1/12」の魅力 小山信也

 「すべての自然数の和は-1/12である」 この命題は,現代の数学では解析接続という手法を用いて正当化されます.しかし,オイラーが最初にこの事実を発見した当時は,解析接続の概念がありませんでした.つまり,この命題は解析接続があって初めて存在するものではなく,もともと人の感性に宿る根源的な真実なのです.発散するはずの無限和の値の存在は,和に参加する数の集合が持つ完ぺきな「バランス」や「調和」によって実現します.「すべての自然数の和」には,無数の自然数がちょうど1回ずつ平等に参加するという,奇跡に近いバランスがあり,これが「足し算」の概念と見事に調和しています.これに対し,たとえば「すべての素数の和」はどうやっても求められず,無限大になります.掛け算的な概念である「素数」が,足し算的な概念である「和」と調和しないからです.

以下に挙げる黒川信重先生の著書は,解析接続以前にこの真実に到達したオイラーの研究の息吹を伝えてくれます.また,拙著の2冊は,数の「バランス」や「調和」の重要性に触れながら「すべての素数の和」が存在しない事実を紹介し,それを比較対象とすることで,発散無限和の値の存在意義を解説しています.

読書案内

●黒川信重「オイラー探検  無限大の滝と12連峰」

●小山信也「素数からゼータへ,そしてカオスへ」第9章「高校生のための素数定理」

●小山信也「素数とゼータ関数」§4.3

パンサー尾形、「1+2+3+…=-1/12」に挑む!

感想はハッシュタグ#笑わない数学 で! 次回もお楽しみに!

(この数学ノートは、毎週1回、放送後に更新する予定です)