“つながらない”西九州新幹線の謎(2022年9月14日放送)

NHK佐賀放送局記者 真野紘一
2022年9月15日 午前11:39 公開

(山﨑)

皆さんが日頃感じているちょっとした疑問や、1人では解決できないお悩みを徹底調査する「シリタイカ」。開業まで10日を切った西九州新幹線について「特別編」でお伝えします。真野記者です。

(真野)

よろしくお願いします。いよいよ9月23日には西九州新幹線開業ですね。

(山﨑)

これまでもニュースでお伝えしてきましたが、いよいよといった感じですね。

(真野)

西九州新幹線を使えば、佐賀駅から長崎駅へは最短44分で着いてしまうんです。佐賀駅からは博多駅までおよそ40分ですから、博多も長崎も時間的には同じになります。改めて西九州新幹線のルートを見てみましょう。

今回開通するのが武雄温泉~長崎間で、66キロを最短23分で結びます。博多から鹿児島方面には九州新幹線が走っていますが、九州新幹線とはつながっていません。起点となる駅がほかの新幹線とつながっていないのは、全国でも西九州新幹線だけです。佐賀や福岡から長崎へ行くには、在来線の特急に乗って武雄温泉駅まで行き、そこで乗り換えます。在来線と新幹線を同じホームで乗り換える「対面乗り換え」による開業です。

(山﨑)

これからつながる見通しは立ってるんですか?

(真野)

実はこの区間をどう整備するか、見通しは立っていないんです。シリタイカで深掘りします!

9月10日に行われた試乗会の様子です。リレー特急が武雄温泉駅に着くと・・・。新幹線「かもめ」がドアを開けて待っていました。対面乗り換えでは、同じホームの向かい側に停まっている列車に3分で乗り換えることになっています。

(ホームの向こう側で西九州新幹線かもめが待機中)

でも、西九州新幹線はどうしてほかの新幹線とつながっていないのでしょうか。

西九州新幹線はほかの新幹線と同じく、「フル規格」と呼ばれる踏切がなく高速運転が可能な専用の線路を走ります。

フル規格の新幹線の線路の幅は1435ミリで、標準軌と呼ばれます。在来線の「狭軌」より36センチあまり幅が広く、そのままでは直通できません。線路の幅が異なる「フル規格」と在来線ですが、2つをつなげて乗り換えなしにできないのか?実はそれを可能にする「夢の技術」の検討が進められてきました。

その「夢の技術」がこちら「フリーゲージトレイン」です。一見すると普通の車両に見えますが、走りながら車輪の幅が狭くなっています。

(フリーゲージトレイン走行試験の様子)

車輪の幅を変えることで、「標準軌」と「狭軌」を自在に行き来できる仕組みになっています。この車両を使えば新幹線と在来線を「乗り換えなし」で結ぶことができるのです。

平成24年、国は九州新幹線西九州ルートにフリーゲージトレインを導入することを前提とした計画を認可。これで武雄温泉~長崎間の工事もスタートしました。

当時の計画です。フリーゲージトレインが▼博多~新鳥栖は九州新幹線▼新鳥栖~武雄温泉は在来線を走ります。そして、▼武雄温泉~長崎は新しい「フル規格」の線路を走る計画でした。この計画にいったんは国・長崎県・佐賀県の3者が合意したのです。

しかし、工事開始から2年後の平成26年。フリーゲージトレインの耐久走行試験中に複数の台車で小さな傷が見つかり、その後、国土交通省は「技術的に実現が難しい」と開発を断念しました。すでに武雄温泉から長崎の間は「フル規格」での工事が始まっていたため、完成に間に合わせるために「対面乗り換え」で開業せざるを得なかったのです。

フリーゲージトレインが白紙となった後、新鳥栖~武雄温泉間をどう整備するのか国と佐賀県の間で協議が続いています。

国は、新鳥栖~武雄温泉間はフル規格での整備がふさわしいとしていますが、佐賀県は一貫してフル規格は求めていません。そのため、6回の協議を経ても一致する点が見いだせていないのです。

理由を聞くため、佐賀県の担当者を直撃!

佐賀県地域交流部の山下 宗人部長です。山下部長が力説したのは、在来線特急の利便性でした。

(佐賀県地域交流部 山下宗人部長)

「(佐賀~博多間の特急は)インターネット予約だと、博多まで指定席が片道1150円です。一方、普通運賃は1130円で20円しか違わないんです。とっても便利な特急がなくなってしまう」。

仮に新鳥栖=武雄温泉間が、在来線に沿ってフル規格で整備されたとします。すると、武雄温泉や佐賀と博多を結ぶ鉄道は2本になり、1時間に2本から3本が走っている在来線の特急はなくなるか、本数が大幅に減る可能性が高いのです。また、新幹線に代わることで私たちが払う料金が上がる可能性も高くなります。

一方、佐賀~博多の所要時間は、現在の特急から15分ほど短縮しておよそ20分。これに対し、フル規格での整備に必要な佐賀県の負担額は660億円と試算されています。佐賀県は「お金を出してまで在来線を不便にする必要は無い」と主張しているのです。

(佐賀県地域交流部 山下宗人部長)

「当然、フル規格についても考えてきたが、やはり建設費の負担や在来線の利便性低下といったデメリットの方が大きいように思う。フル規格であれば、ルートを含めてゼロベースからしっかり議論したい。いずれかの選択が選ばれたとしても、10年以上は今の形(対面乗り換え)を続けていくと思う」。

(真野)

ご覧頂いたように、佐賀県が納得できる答えが見つかるまで協議は続きそうで、当分はリレー方式となりそうなんです。

(山﨑)

確かに長崎本線をふだん利用している人や費用のことを考えれば、難しい決断になりますよね。

(真野)

そうなんです。フリーゲージトレインなら在来線が確保できるということで佐賀県も同意したんです。このような事情があるので、フリーゲージトレインが白紙になったからと言って、代わりにフル規格でつなぎましょうということにはならないのです。

今回の西九州新幹線の開業で、長崎本線の肥前山口(江北)駅と諫早駅の間が「並行在来線」となります。特に、肥前鹿島駅では特急の本数が約45本から14本に大幅に減ってしまいました。並行在来線になってしまうかどうかは、沿線の人にとって大きな問題なんです。

さらに新幹線は、佐賀県だけではなく、JRやお隣・長崎県なども関係してくる問題で、全者が納得できる落としどころを探るのは極めて難しいことなのです。佐賀県は今後もじっくりとこの問題に向き合っていくことになります。私も引き続き取材したいと思います。