9月23日に開業した西九州新幹線「かもめ」。
そのハンドルを握る約20人の運転士の中に、1人だけ武雄市出身の男性がいます。
生まれ育ったふるさとを元気づけたいと開業の準備に奮闘する姿を取材しました。
【「かもめ」唯一の”武雄市出身”の運転士】
この日、武雄温泉駅の新幹線ホームで行われていたのは、西九州新幹線「かもめ」の開業に向けたシミュレーションです。
当日を間近に控え、入念に安全を確認するのは、主任運転士の山口耕右さん(35)です。
(主任運転士・山口耕右さん)
「佐賀で働くのは初めてです。巡り合わせで地元に帰って来られたのが、本当にうれしいですし、余計に頑張ろうと思います」
山口さんの出身地は、武雄温泉駅のある武雄市。
約20人が勤務する「かもめ」の運転士で、たった1人の武雄市出身です。
2010年にJR九州に入社。
駅での勤務や車掌、在来線の運転士を経て、2019年から九州新幹線の運転士として働いてきました。
そんな中、職場で「かもめ」の開業メンバーを募集するプロジェクトを目にします。
(主任運転士・山口耕右さん)
「地元の活性化に携わっていきたいという思いが入社した時からあったので、このタイミングを逃すともうないんじゃないかと思って手を挙げました」
4月から、山口さんはJR九州長崎支社を拠点に、同僚たちと開業への準備を進めてきました。
仕事ぶりについて同僚たちはこう話します。
(職場の同僚)
「お兄さんかたぎというか、みんなを引っ張っていく存在で非常に頼りになります」
(職場の同僚)
「出身地を通る新幹線は、自分が運転したいという思いを聞いているので、私たちもそれに応えようと思って、しっかり盛り上げようと思います」
(記者)「山口さんどうですか?」
(山口耕右さん)「先輩たちからよく言ってもらえてうれしいです。これからも責任感を持って乗務していきたいと思います」
山口さんが、”鉄道の道”を志すようになったきっかけは「駅」にありました。
(主任運転士・山口耕右さん)
「私の母がキオスクで働いていて、小さいころに何回か駅に来ることがありました。その時に、駅員さんの対応とかを見て自分もいつかこういう仕事をやってみたいと思ったのがきっかけです」
【武雄温泉駅の売店で働く母の影響で”鉄道の道へ”】
山口さんが新幹線で到着するホームの下にあるのは、武雄温泉駅の売店です。
働いているのは、山口さんの母・都代子さん(62)です。
(母・都代子さん)
「駅の売店での勤務は、約40年になります。武雄温泉駅はだいぶ変わりましたね。昔と比べたら全然違います。前の駅舎は、上のほうにあったんですよ」
在来線4つの駅の売店で働いてきた都代子さん。
武雄温泉駅での勤務は、今年で14年目。
時代の流れとともに変化する駅の姿を見続けてきました。
(母・都代子さん)
「肥前鹿島、早岐、有田、武雄温泉の駅で働いてきましたが、武雄温泉駅が一番変わりました。西九州新幹線の開業は、ワクワクです。子どもがJRで新幹線の運転をしているから、やっぱり人一倍楽しみです」
【思い出の詰まった地元の神社で”安全運行”を祈願】
開業の1週間前、山口さんは都代子さんを連れて近所の神社を訪れました。
小さいころから地域の集まりや遊びで来ていた、思い出の詰まった場所です。
(山口耕右さん)
「乗務員として安全運行に努めたいという願いを込めてお祈りしました」
(母・都代子さん)
「子どもが運転士なので、安全と健康を願いました」
長年、柔道一筋だったという山口さん。
小学3年生から大学生、そして、JR九州に入社後も続けてきました。
新幹線の運転士という仕事は、JR入社後にできた新たな目標でした。
(母・都代子さん)「もうちょっと頑張ってもらいたいですね。いつか運転する車両に主人と私を乗せてもらいたいですね。ぜひ!」
(山口耕右さん)「はい。いつかは乗せて、一緒に写真でも撮りたいですね」
(母・都代子さん)「頑張ってください、ぜひ!」
(山口耕右さん)「はい、頑張ります」
(都代子さん・耕右さん)「おー!」
【武雄温泉駅発の”一番列車”運転の大役 多くの人乗せて地元を元気に】
いよいよ開業の日を迎える西九州新幹線「かもめ」。
山口さんは、武雄温泉駅を出発する「一番列車」の運転士という大役を任されました。
(主任運転士・山口耕右さん)
「西九州新幹線に携われると全く思っていなかったので、とてもうれしい気持ちがあります」
1人でも多くの人に「かもめ」に乗ってもらうことが、ふるさとの元気につながると山口さんは考えています。
(主任運転士・山口耕右さん)
「武雄もいいところがいっぱいあるので、長崎からも博多からも全国各地から来ていただいて、どんどん武雄がにぎわっていけばいいなと思います」
地元への思いを乗せてー。山口さんは「かもめ」とともに走り出します。
【取材後記】
5月に行われた走行試験の式典で山口さんの存在を知り、同じ武雄市出身者として開業に対する地元への思いをぜひ聞いてみたいと取材を決めました。取材の中で、都代子さんが「3人兄弟の末っ子で子どものころは本当に優柔不断な子でした。よく成長しましたね」とこれまでを振り返ると、耕右さんが恥ずかしそうに「成長した私と母で一緒に地元を盛り上げていきたいですね」と笑顔で答えた姿が印象に残っています。”一番列車”という大役を終え「かもめが身近で親しみのある乗り物になるよう頑張ります」と今後の決意を口にした山口さん。計画から半世紀近くが経って開通した西九州新幹線が、地域全体を元気づける乗り物になってほしいと思いました。
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