みなさんは「モダニズム建築」をご存じでしょうか?
コンクリートや鉄骨など、新材料の登場とともに1950~70年代に盛んに建てられ、既存の建築様式にとらわれず機能性を追求した「モダニズム建築」。
ところが多くが完成から50年以上たち、全国で解体が進んでいます。
そんななか、佐賀ではモダニズム建築を新しい形で保存すべく動き始めています。
モダニズム建築の隠れた傑作とは?
開館から60周年を迎えた佐賀県立図書館新館です。モダニズム建築の傑作の1つとされています。
県立の図書館としてはそれほど大きくありませんが、狭さを感じさせない工夫が随所にあります。
工夫の1つが「中2階」です。外の光を遮ることなく開放感をもたらします。
さらに、人の動線を考慮して南北2箇所に出入り口を設けたことで生じた、建物の両側の微妙な高低差も調節。機能性を重視したモダニズム建築らしいつくりです。
中2階から階段を上がると・・・。
360度本に囲まれたつくりになっていて、実際よりも広く感じます。
さまざまな場所で本を広げられるよう、手すりは幅を持たせています(現在は使用できません)。
本棚の奥には、1つ1つ色が違う薄緑色のタイルが。布地を押し当てる技法で、独特の質感を表しています。
機能性だけでなく、細部にもこだわるのがモダニズム建築の魅力の1つなのです。
建物を設計したのは、近代建築を代表する2人の建築家。
高橋※てい一(※ていは青に光)と、内田祥哉(よしちか)です。2人はほかにも、県立博物館や九州陶磁文化館も手がけました。
高橋の事務所で16年間勤めた経験がある建築家の伊原洋光さんです。
(伊原さん)「第一印象はすごく小さい、コンパクトな感じがしました。高度成長のころは材料を無駄にしないという発想が特に強かったと聞いています。大きすぎず、でも吹き抜けがあることで立体的な楽しみもある。通過動線を下で処理して、上でくるっと回れるのは本当にいろんな意味で無駄がない」。
佐賀県立図書館では10年前に耐震工事を実施。ほかにも親子で楽しめるスペースを設けるなど、時代に即した形にリノベーションし、今日に至っています。
各地で失われるモダニズム建築
1つの時代をつくり上げてきたモダニズム建築。
しかし多くが完成から50年以上経つ中で、取り壊しが進んでいます。
アコーディオンのような外観が特徴的だった宮崎県の「旧都城市民会館」。耐震工事にかかる費用を捻出できないと、保存活動もかなわず3年前に解体されました。
さらに香川県では、“船の体育館”と親しまれた丹下健三設計の体育施設が解体される方針です。
モダニズム建築の保存活動に取り組んでいる、東海大学の渡邉研司教授です。建築物としての評価が伝わりにくいところが、保存に向けた課題だといいます。
(渡邉教授)「普通の人から見たらモダニズム建築は何か当たり前のように存在しているわけですよね。いわゆる歴史的な建築物みたいに、歴史的な様式やシンボル的な姿をしていないというのがある種特徴で、いわゆる“普通の建築”に見えてくる」。
渡邉教授が日本支部の代表を務めるモダニズム建築の国際的な保存団体では、後世に残すべき価値のある建築物を選定。
日本では、佐賀県立図書館・博物館を含む264の建築物が選定されています。
渡邉教授は、保存の鍵は施設を使い続けることだと言います。
(渡邉教授)「“リビングヘリテージ”=生きている遺産という形で使い続けていく。建物が悪くなる理由の1つは使わないことです」。
“リビングヘリテージ” 佐賀に注目
こうした「リビングヘリテージ」の先進事例としていま動き始めているのが、佐賀市で体育施設として使われてきた市村記念体育館です。
ギザギザの外壁や柱を立てない「つり屋根構造」が、すぐれたモダニズム建築として評価されてきました。
ただ、完成から60年以上が経ち、使われることが減っています。県は大規模な耐震工事を施し、文化や芸術の活動拠点としてリニューアルオープンさせる計画です。
費用はおよそ52億円かかりますが、建物に歴史的な価値があることに加え、災害時の避難施設としても活用できると判断し、保存することにしました。
(渡邉教授)「リノベーションしたあと、どう使い続けていくのかにも注目している」。
保存か取り壊しか。モダニズム建築の将来について考えるときが来ています。
取材後記
渡邉教授によると、50~60年代のモダニズム建築は「職人の技が残っている建築」だそうです。確かに県立図書館には一見すると気がつかないような場所に1つ1つ形や色が微妙に異なるタイルが貼られていて、そこに触れると当時の人々が注ぎ込んだ並々ならない情熱が直に伝わってきました。県立図書館に行かれた際は、ぜひ自分だけの「細部に宿る美」を探してみてはいかがでしょうか。