西九州新幹線の開業にともなって、先月、長崎本線の一部の区間が並行在来線となりました。同時に行われたダイヤの変更で、特急列車が大幅に減り、普通列車も乗り換えが必要になるケースが増え、沿線の企業活動や通学に影響を与えている実態が明らかになりました。
【特急の本数3分の1に 地域の懸念】
並行在来線となったのは、長崎本線の佐賀県の江北駅と長崎県の諌早駅を結ぶ区間です。
沿線の中核都市・鹿島市の肥前鹿島駅では、これまで博多駅との間を結ぶ特急が1日に45本停車していましたが、ダイヤの変更後は14本と以前の3分の1になりました。
地元の鹿島商工会議所では、特急減少の影響をたずねるアンケート調査を行った結果、回答があった41社のうち「影響が出る」と答えた企業が21社とおよそ半数にのぼりました。
アンケートでは、企業から「福岡方面への出張が不便になりビジネスへの影響は避けられず、移動手段を車に変更せざるを得ない」という声があったほか、医療機関からは「福岡から通う非常勤医師の通勤に影響する」といった声も寄せられ、地域への影響は広い範囲に及ぶことが明らかになりました。
(鹿島商工会議所 森孝一会頭)
「これまで鹿島市は福岡と1時間に1本から2本の特急で結ばれていたが、それが3分の1になり、地域経済への影響が大きいことは疑いない。鹿島市としては死活問題になる」
【乗り換え増 企業は新たな負担と悩み】
森さんはプレス機械のメーカーを経営しています。自動車関連企業との取り引きが多く、出張でひと月にのべ200人ほどの社員が肥前鹿島駅から特急を利用していました。
全国各地の取引先には計測用の機械や部品を入れた20キロから30キロの重さがあるバッグを持って出向きます。
肥前鹿島と博多を結ぶ直通の特急は大幅に減りましたが、JR九州では途中の駅で普通と特急の乗り継ぎ時間を短くして、福岡や佐賀方面との利便性に一定程度の配慮は行ったと説明しています。
森さんはダイヤ変更直後、状況を確認するため佐賀市への出張の際に列車を利用しました。肥前鹿島からは普通列車に乗り、3駅先の江北駅で特急に乗り換えました。
乗り継ぎの際は線路を渡る橋を使う必要があり、ホームに着いた時には、すでに次に乗る特急が到着していて、時間に余裕はありませんでした。
(鹿島商工会議所 森孝一会頭)
「乗り換えの時間が3分しかなかったので、ちょっと忙しかったです。3分から5分程度の乗り継ぎ時間だと重い荷物持ちながら橋を渡ってホームを移動しての乗り換えは難しいと感じました」。
【列車通学の生徒7割 沿線の高校は】
並行在来線となった区間の利用の多くは高校生が占めていますが、今回のダイヤの変更は、列車通学の生徒たちに影響を与えています。
白石町にある県立佐賀農業高校には、学校で飼育している犬をモデルに、ペットショップや動物の美容院などへの就職をめざすカリキュラムや、菓子職人をめざしてケーキをつくる授業があります。専門性を高め、即戦力をめざす教育方針で県内各地から生徒を集めています。
およそ300人の生徒のうち、7割近くが列車通学をしています。
教務主任の世戸直明教諭は、授業や部活動の時間割を組むために通学状況を生徒ひとりひとりから聞き取っています。
【新たに乗り換え1回 それでも通学は大変】
今回の列車ダイヤの変更で新たに乗り継ぎが必要となった生徒もいます。
3年生の上戸心好さんは太良町から通っています。
これまでは1本の列車で通うことができましたが、下校の時間帯は、ほとんどの列車で乗り継ぎが必要となりました。
上戸さんは下校の際、学校近くの肥前白石駅を午後5時前に出る列車に乗り、3つ先の肥前浜駅で次の列車に乗り換えます。
ただ、ダイヤの乱れで乗り継ぎの列車が大幅に遅れることもあり、自宅の最寄りの肥前大浦駅まで、いつもの2倍近い時間がかかったこともありました。
上戸さんは「到着がふだんより1時間ぐらい遅れて、1本遅い列車で帰るぐらいの時間になることもありました。以前のように乗り換えなしで1本の列車で帰ることができるようにしてもらいたいです」と話していました。
今回のダイヤの変更で普通列車の本数は維持されましたが、世戸教諭は乗り継ぎの回数や待ち時間が増えたことを懸念しています。
(佐賀農業高校 世戸直明 教務主任)
「帰宅の時間が遅くなると駅が暗いことや、乗り換え時間にホームでひとりで待たなければならない状況を懸念しています。下校の時間帯に1本か2本でも直通列車で帰れるようにしてもらったら、ありがたいです」。
【利用促進へ 沿線一体の取り組みが必要】
並行在来線となった区間では、当面はJR九州が列車の運行を担い、列車の本数は今後3年間は維持されることになっています。
ただ、それ以降は見直しの可能性もあるとしていて、沿線の自治体などではJRに対して乗り換えを含めた利便性の確保を求めています。
並行在来線がスタートした9月23日、肥前鹿島駅の周辺では沿線の自治体の魅力を紹介する催しが開かれ、特産品を買い求めたりする人たちでにぎわいました。
会場には列車で訪れたという人も多くいましたが、「列車は本数が少なく利用しづらい」とか、「車のほうが便利だ」といった声も聞かれました。
西九州新幹線が大きな期待とともに開業した一方で、並行在来線との区間では、わずかな列車ダイヤの変更が利用者に影響を与えていることが今回の取材を通して明らかになりました。
沿線の人口が減少する中で、この区間の列車の本数や利便性を維持するためには、利用の実態を踏まえたきめ細かいダイヤの調整に加えて、沿線が一体となって利用の促進に取り組むことも必要だと感じました。