鉄道模型の「聖地」 82年の歴史に幕(2022年10月14日放送)

NHK
2022年10月20日 午後10:49 公開

鉄道模型の聖地 82年の歴史に幕

大きな鉄道模型のジオラマで有名な模型店が佐賀市にあります。

鉄道模型ファンだけでなく、模型づくりを楽しむ人にとって「聖地」といわれ

長年、親しまれてきましたが、2022年11月末に閉店することになりました。

子どもから大人まで佐賀の模型ファンを支えてきた店主の姿を見つめました。

昭和15年創業の老舗模型店

佐賀市中心部にある老舗の模型店「モデラーズ松永」。

昭和15年創業で、店主の円城寺信威さん(86)は父親から店を継いだ2代目です。

妻・節子さんと夫婦2人で店を守り続けてきました。

店の自慢 巨大な鉄道ジオラマ

店の自慢は、巨大な「鉄道ジオラマ」。

以前住まいとして使用していた2階部分を開放し、たたみ15畳ほどの広さの部屋いっぱいに山々や町並みがジオラマで再現されています。レールの全長はなんと300m以上!

精巧に作られたジオラマの中を、実物の150分の1の大きさの「Nゲージ」と呼ばれる鉄道模型が駆け抜けます。

ジオラマはおよそ20年前、店の客と力を合わせて製作しました。

作り上げるのに1年以上かかったそうです。

「お客さんたちも楽しんでいただけるし、一心同体でどんどん加勢しに来て、みなさんと一緒に毎日毎日作り出して、本当に楽しかったですよ」(円城寺信威さん)

ジオラマ製作の中で最も苦労したのが「渓谷」。

佐賀市北部の“川上峡”を参考にしながら作り上げました。

発泡スチロールを削り、その上に紙を貼り付けて土台を作りました。

その上にさまざまな塗料を塗り、さまざまな粉を振って色を重ね、岩肌の形だけでなく

絶妙な色合いまで再現しました。

この部分だけ作るのに半年近くかかったそうです。

「ものすごい時間かかりました。これだけ作るのに約半年近くかかりましたね。やっぱりこういう景色が 好きだったもんで、たまには見に行ってましたけどね」(円城寺さん)

子どもの遊びを支えた人生

佐賀の模型づくり愛好家にとってなくてはならない場所だった「モデラーズ松永」。

そして、子どもたちにとって憧れの店でもありました。

高校卒業後、店に立ちはじめた円城寺の姿はいつもこどもたちのそばにありました。

麦わら帽子の男性が円城寺さん(30代のころ)

「私が模型の作り方を教えたりですね、色の塗り方を教えたり、いろんなことをしてやって参りました」(円城寺さん)

店は、ゴムをまいて動く模型飛行機の販売から始まりました。

当時は小学生を対象に滞空時間を競う大会が各地で行われており、作り方を教えてもらおうと子どもたちが通ってきたそうです。

昭和46年 佐賀市で開かれた模型飛行機大会。滞空時間を競い合った。 

時代は移り変わる中、店はラジコンカーやミニ四駆を買い求める子どもたちで賑わいました。朝5時から店に並ぶ子どもの姿もあったそうです。ラジコンをはじめさまざまな模型づくりの手助けをしたのも円城寺さんでした。

昭和53年 佐賀市で開催されたラジコン大会

「動くものに力を入れて、とにかくみんな一生懸命なってわいわい言って来てましたよ」(円城寺さん)

今 店に子どもの姿はない

子どもたちにずっと寄り添ってきた円城寺さん。しかし今、店に子どもの姿はほとんど見られません。子どもたちが模型づくりに興味を示さなくなったと言います。

「子どもたちがもの作りというものをしなくなっちゃったんですね。どんな作ったらいい、どうすればいいと聞かれたけど今はないですもんね。ものすごく寂しいですね」(円城寺さん)

86歳という高齢になり、体力も限界を迎え、夫婦で話し合って来月末に店を閉めることに決めました。

11月末に店を閉めることにした

週末 鉄道模型ファンでにぎわいを取り戻す

週末。店はひとときのにぎわいを取り戻します。 

集まってきたのは鉄道模型ファンです。

それぞれ自慢の鉄道模型を持ち寄り、走らせます。

鹿島から来た小笠原正了さん(44)。

中学2年生のとき、お小遣いをためて初めて鉄道模型を買ったのがこの店でした。

小笠原正了さん

「楽しみでしたね。夢がつまってますからね、ここは。みんなでわいわい、もう模型趣味やってる人の社交場ですね」(小笠原正了さん)

中には70年近く通い続けた人の姿もあります。

久富邦雄さん(83)。高校時代からここに通い続けています。

久富邦雄さん(83)

およそ20年前、ジオラマを作っていたころの映像が見つかりました。

映像の中には、ジオラマづくりを手伝う久富さんの姿がありました。

久富邦雄さん「とにかく自分の遊び場みたいになってしまったたい」(久富邦雄さん)

70年近く店に通い続け、2人は兄弟のような関係だと円城寺さんは話します。

「もう、みんなわくわく、きゃーきゃーいって、やってましたね。私もそういう姿見て、喜ぶんで、作ってよかったなと思いましたよ」(円城寺さん)

閉店まで残り1ヶ月半

鉄道模型ファンだけでなく、佐賀の子どもたちを支えてきた店。

11月末、82年の歴史に幕を閉じます。。

「自分のお店だけど、自分と言うよりみなさんと一緒にですね、楽しんできたらいいやと思って頑張ってきました。みなさんに楽しんでもらって、店を終わらせたいと思っています。先のことはあんまり考えておりません。お客さんが喜んでくれたら、私はそれで十分です」。

取材後記

 私も小学生の時、祖父や父に連れられ、この店で飛行機や船の模型を買ってもらいました。店の前にたくさんの子ども用の自転車が止まっていて、店の中は子どもたちの声に包まれてにぎやかだったことを覚えています。当時の私にとっても憧れの場所でした。

私は去年の転勤で20数年ぶりに地元の佐賀に帰ってきたのですが、佐賀市内の風景があちこち変わっている中で、この店だけは当時と変わらずに残っていて、とてもうれしく感じていただけに、今回お店を閉めると言うことを聞き、本当に寂しく感じます。

お店にある鉄道模型を今後どうするかは、ゆっくり時間をかけて考えたいと円城寺さんは言います。

信威さん、節子さん、長いあいだ本当にお疲れさまでした。ありがとうございました。

NHK佐賀 カメラマン・北島大和