人手不足に一手!建設現場の遠隔操作システム(2023年1月27日放送)

NHK佐賀放送局 アナウンサー 池野健
2023年2月1日 午後7:41 公開

1月27日(金)放送 「金曜LIVE」を再構成しました

キャスター)建設業界で導入が進む、重機の‟遠隔操作”。映像ではかなり小さいサイズの重機が動いている様子が見えます。これも遠隔操作だそうです。佐賀市富士町にある建設会社が建設機械の遠隔操作システムを開発。すでに国内の現場に導入されているんです。

人手不足解消にもつながると期待されるこのシステム、池野アナウンサーがお伝えします。

(この記事は1月27日に放送した中継コーナー「金曜LIVE」を再構成しました)

【ミニチュア重機を操作していたのは・・・】

池野)そのミニチュア重機が、ゆっくりと前進をしています。大きさは実物の約12分の1。非常に高価で、車一台分くらいはするのではないかということです。

ここは佐賀市富士町の建設会社。道路ののり面など特殊な土木工事を専門にしています。ここで遠隔操作ができるシステムを開発しています。

さきほどの操作、誰が行っていたのかというと・・・

(室内に設けられたコックピット)

池野)近未来のコックピットのような場所から、オペレーターが操縦しているんです。

(ミニチュアの重機に取り付けられたカメラの映像)

池野)モニター画面をよく見てください。ミニチュアの重機に取り付けられたカメラから送られる映像を見ながら操縦していたんです。こうしたミニチュアの重機は、子供向けのイベントなどで活用されています。建設機械の免許を持っていない私でも操縦できます。

システムを開発した角和樹(すみ・かずき)さんに説明してもらいましょう。

角さん)右手のレバーを手前に引くとと、ブーム(上腕部分)が上がります。前に倒すと、下がります。前進するには、レバーの下にあるスイッチを押す。

(ミニチュア重機が上り坂に差し掛かると・・・コックピットの椅子も傾く)

池野)これ、とても楽しいんですが、椅子がぐらぐら揺れているのわかります?そして上り坂に差し掛かると傾くんです!これはどうしてですか?

角さん)模型の傾きを反映した操縦シートになっています。傾きが分からないで作業すると転倒する可能性もあるので、安全性を考慮して、実際の機械と同じ姿勢を再現できるようにしています。障害物にぶつかるなどしても安心ということですね。

【重機を遠隔操作 未来の施工システム】

池野)ミニチュアだけではありません。(モニターを指して)これも遠隔で動かすことができます。建物の外には、建設現場で使われる本物の油圧ショベルがあります。操縦席は無人です。

池野)油圧ショベルにもカメラが取り付けられていて、前後左右、周辺の様子などを撮影しています。この映像をもとに操縦していくんです。では動かしていただきましょう。

池野)いまコックピットのレバーと連動するように、外の重機の操縦席のレバーも動いています!

(油圧ショベルのハンドルが遠隔操作で動く)

池野)重機のハンドル部分には、遠隔で動かすことができる装置が取り付けられていて、コックピット側での動きと同じように、外の重機も動かすことができます。

操作の指示には、携帯電話などにも使われているLTEという回線を使っています。大容量のデータを高速でやりとりでき、長距離の遠隔操作をタイムラグがほとんどない状態で行えます。

この遠隔操作システムは、ダム建設や豪雨災害の復旧工事など、人が立ち入ることが難しい現場などで活躍しています。

福島では去年、除雪車の遠隔操作の実証実験も行われました。

(30年以上前から使われてきた除雪車で実験)

(ハンドルやアクセルを遠隔で動かす装置を設置)

(近くの体育館でモニターを見ながら操縦)

池野)去年2月、福島の豪雪地帯で行われた実証実験の様子です。実験に使われたのは30年以上前から使われてきた除雪車。新たにハンドルやアクセルを動かす装置と、車体には、前後左右などを確認できるカメラを取り付けました。実際の操縦は、近くの体育館で行われました。操縦者は映像を見ながら、除雪を行っていきました。

福島での実験に続き、佐賀から1万キロ以上離れたアメリカ・オクラホマ州と結んでの操作実験にも成功しました。

池野)このシステムを開発した角さんは、現場の技術者として働く傍ら、商品開発も担当。遠隔操作のシステム開発に取り組み始めたきっかけは、2011年の東日本大震災だったそうです。

角さん)「大きな災害で、被災された方々も自分のことを差し置いて復旧に当たっていました。被災していないところから復旧を手伝えないかと思い、開発に取り組みました」

【進むのか?‟重機のリモートワーク”】

池野)遠隔操作は多くの現場から期待されています。その背景にあるのが「2025年問題」。2025年にはいわゆる団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、建設業界でも、ベテランの大量退職によって最大で90万人が不足するという試算もあります。

角さん)いま建設業界では非常に高齢化が進んでいます。熟練者の職人の方がリタイアされますと、技術を継承するのに苦労します。今後は、若い方や女性の方の活用が非常に重要です。遠隔だと、良好な環境で作業が行えるようなメリットもあります。

(自動化のためのセンサーやカメラが取り付けられたミニチュア重機)

角さん)将来に向けては、いろんなセンサーをつけて自動化を進める開発を行っています。センサーやカメラを取り付けて、周囲の状況を把握して、重機が自ら考えながら、実機を動かすというシステムを開発しているところです。

池野)人手不足解消の一手として期待されている、重機の遠隔操縦システム。建設業界の未来を明るく照らすための取り組みが進められていきます。

【取材後記】

中継に登場していただいた角さんは、ドローンが実用化されるはるか前から、ラジコンヘリを使った撮影技術の開発などに勤しんできたという経歴の持ち主です。

町なかの工事では、作業のスピードや安全管理などの面で課題もある、遠隔操作システムですが、これらの課題も角さんなら乗り越えてくれるのではないかと、夢が膨らみます。

建設業界で実用化されている最先端の技術が、佐賀から生まれていることにも、取材者として喜びを感じましたが、その背景には建設業の深刻な人手不足があります。角さんは、技術者の養成などの普及に向けた取り組みも進めていきたいと話していました。