弥生時代の大規模な環ごう集落跡が残る吉野ヶ里遺跡では先月から、10年ぶりとなる本格的な発掘調査が始まり、新たな発見があるのか注目が集まっています。こうした“古代”の発掘を“現代”の手法で見せようと、新たな試みも始まっています。発掘調査を「どう見せるか」奮闘する職員を追いました。
「皆さんこんにちは、ナゾホル実況生中継のお時間です!」
映像に映るのは吉野ヶ里遺跡の発掘現場です。発見の瞬間を多くの人に届けようとこの日行われたのは、ネットを使った生中継です。
仕掛け人のひとり、佐賀県庁の越知睦和さんです。
長年にわたり文化財保護に携わるかたわら、今回は発掘調査の広報戦略を担っています。
「30年前の吉野ヶ里フィーバーを再現したい。それを現代なりにどうやったら再現できるのかと」(佐賀県文化財保護室 越知睦和 主査)
【吉野ヶ里フィーバー】
平成元年2月23日、NHKの朝のニュースです。
「佐賀県の弥生時代の集落のあとが魏志倭人伝に書かれている卑弥呼の住んでいた集落と そっくり同じつくりをしていることが分かった」と報じられました。
これを機に、歴史的発見を一目見ようと、全国各地から3か月で100万人もの人が詰めかけ“吉野ヶ里フィーバー”という社会現象を起こしました。
【新たな見せ方を模索】
今回、10年ぶりに始まった調査では、そうした“フィーバー”の再現が期待されています。
調査対象は、これまで手がつけられてこなかった遺跡のほぼ中央の「謎のエリア」。周辺では、有力者の墓などが見つかっていて以前から高い関心が寄せられてきました。
発掘現場を訪れた人からは新たな発見を期待する声が聞かれました。
高まる期待にどうすれば応えられるか。小学生の頃、フィーバーぶりをテレビで見ていた越知さんは、今回の発掘調査を生配信し、世界中に発信することにしました。
ただ、必要な機材を設置するまでには、困難の連続でした。カメラの設置には高い場所が必要ですが、国の特別史跡とあって新たな柱を立てることはできません。
以前から生えていた木に据え付けることにしました。
雑木林だった土地に電気やWi-Fiを通すのも一苦労でした。カメラを動かすための電気は、200メートル以上離れたトイレから引っ張ってくるしかありませんでした。
こうして実現した「生配信」。
発掘調査の時間帯はいつでも見ることができ、発掘の様子をつぶさに観察することができます。配信の開始から半月ほどで1200人以上が視聴しました。
新たな「見せ方」は、若い世代もひきつけています。考古学に関心を寄せる学生たちは、発掘調査の様子をネットでチェックしていました。
「人がいっぱい集まっていたらなんかあったのかなとか、凄いおもしろいと思います」。(佐賀大学3年生 諸岡あかりさん)
「今やってる作業の様子をライブで見れるのは聞いたことがないので吉野ヶ里進んでる、新しいやり方だと思います」。(佐賀大学3年生 青木結依加さん)
【ナゾホル“実況”生中継】
ネット空間を舞台にした発掘調査。越知さんたちは、さらなる関心に応えようと現場の調査員と視聴者が直接やりとりできる生中継も、手がけることにしました。
その名も「ナゾホル実況 生中継」です。
発掘現場から調査員が生出演。手持ちの小型カメラを使い臨場感ある映像を目指しました。
始まる数分前、越知さんは「本当に映るか心配です。うまくいってくれることを願ってます」と緊張した面持ちで話しました。
「5秒前、4、3、2、1」。
実況生中継が始まりました。ネット空間に集まったのは、200人あまり。
早速質問が寄せられました。
調査員は、土の下から現れた埋葬用の土器の棺「かめ棺墓」を見せながら答えていきます。
最後に調査員がカメラの向こうにいる視聴者に手を振り、20分間の実況生中継が終わりました。
終了後、越知さんは「なんとか無事配信ができたんでほっとしています。音声もちゃんと出てましたし、質問も何件かしていただけたので初回にしてはうまくいったかなと思っています」と安心した表情で話しました。反応も上々だったようです。
「当時のフィーバーを知らない若い世代であっても、SNSの発信やこういったライブ配信を通して現地に足を運んでいただいて、吉野ヶ里フィーバーのときのようなことが再現できればいいなと思っています」
【取材後記】
スマートフォンで気軽に見られる発掘調査の生配信が、こんなにもさまざまな奮闘の先に実現したことを知ると、画面に映る現場の様子がより貴重なものに感じられました。発掘現場からの実況生中継は1か月に2回のペースで開かれるほか、現地での発掘調査体験も行われていてリアルとオンラインの両方で、高まる発見への期待を一緒に味わうことができそうです。