佐賀県が日本一「のり」に異変 影響と原因は(2022年1月26日放送)

NHK佐賀放送局 記者 渡邉千恵
2023年1月30日 午後1:30 公開

みなさん、日本一の産地・佐賀県の今シーズンの「のり」、もう食べましたか?

パリッとした歯切れの良さ、ふわっとした口溶け、抜群の香り。

佐賀県に着任して「のり」に感動した私は、帰省のお土産に必ず「のり」を選びます。親戚や友達に渡して感想を聞くと、「おいしかった」「もっと欲しい」とよく頼まれます。

ところが、のり養殖は今シーズン、生産量が前の年の半分に落ち込む厳しい不作となっていて、その影響がじわりと広がり始めています。のり不作の影響と原因を取材しました。

【すし店 仕入れ不足・値上げを不安視】

黒くつやのある佐賀県産ののり使った巻きずし。

神埼市にあるすし店の看板メニューです。

しかし、店長の佐藤大地さんには最近ある心配があります。

(すし店 佐藤大地店長)

「のりが使えればいいなというのが正直なところで、これから金額も上がってくるでしょうし、不安はたくさんあります」

佐賀ののりは風味と歯切れがよく、すしには欠かせません。

この店では、のりを月に1000枚近く、8万円分、使います。

のりを安定的に仕入れられるのか、またさまざまな食材の価格が上がる中でのりも値上がりするのか、懸念しています。

(すし店 佐藤大地店長)

「『ことしの夏ごろまでは今の金額で何とか頑張ります』とのり屋さんから聞いています。ですが『今の在庫が無くなったら値上げは覚悟してください』『確実にのりが入るか分からない状況』ともおっしゃっていました」

【のりに異変 “色落ち”被害】

のりを見たとき、「こんなことになるのか」と驚きました。

右側の黄緑色ののり。ことし各地で収穫された「色落ち」したのりです。

左の黒いのりと比べると、その差は歴然。

色落ちしたのりは、かたくゴワゴワして食感が悪くなり、品質が劣化してしまいます。

【のり漁業者も“考えられない事態”】

佐賀市でのり養殖を50年営む中島良人さんに、漁場を案内してもらいました。

中島さんは、今シーズンは「色落ち」がひどく、のり自体の育ちも悪い不作で、生産量は例年より40%ほど落ち込んでいるといいます。

(漁業者 中島良人さん)

「もうショックだった。ことしはダメかなと思った。ちょっと考えられない事態。シーズンを通して、こういうことは今まで無かった」

こうしたのりの不作、今までは一部の地域で起きていましたが、今シーズンは県内全域で起きています。

この結果、佐賀県のシーズン前半の生産量は、約2億7500万枚。前の年の半分ほどしか収穫できていないのです。

【不作はなぜ?】

不作の原因は、ズバリ海の中の栄養不足です。

のりは海中に溶け込んだ「リン」や「窒素」などの栄養を吸収して黒く成長します。

しかし、栄養が不足すると色が薄くなり、うまみや品質が損なわれてしまうのです。

では、海の栄養不足はなぜ起きたのでしょうか。

海の中の栄養はもともと山などにあり、雨が降ることで川から海に運ばれます。

ところが、のりが育つ去年10月以降、雨がほとんど降りませんでした

さらに、プランクトンが増える「赤潮」が多発

少ない海の栄養も奪われ、のりの生育が進まなかったのです。

【生産量の減少で価格が上昇】

のりの生産量が落ち込んだことで、のりを売買する「入札会」でも異変が起きています。

量が減ったことで取り引き価格が上昇。

今月20日に行われたことし最初の入札会では、のり1枚の平均価格が25円93銭と、前の年より28%の高値になったということです。

のりを買い付けする人たちの中に、のり加工大手「白子のり」の原田勝裕社長の姿が。

業界トップの社長がみずから買い付けに来る、異例の対応です。

取り引き価格が上がり、担当者だけでは買い付けの判断が難しくなってしまったためだということです。

(原田勝裕 社長)

「出品されたのりの取り合い・確保のし合いが、競争力として非常に強くなり、値段がすごく上がっている。値上がりしているので、会社の経営としてどこまで許されるのか、トップが決めなければいけない」

高値でものりの確保は必要です。

ただ、仕入れるのりがこれほど高くなると、今後、自社の商品の価格も値上げしなければならないと頭を悩ませています。

(原田勝裕 社長)

「とりあえず今は必要なのりを確保しようと動いている。どれぐらい価格が上がるのかを見極めて、今年度については値上げはせざるをえないという状況だ」

日本一ののりの不作の影響。じわりと暮らしの近くに迫っています。

【取材後記】

取材して感じたのは、いま漁業者が大きな被害を受けているのりの不作は、今後、消費者の生活面にも影響が出てくるほどの事態であるということでした。

その一方で、明るい兆しもあります。今月のまとまった雨などによって、川から海へのりの生育に必要な栄養が流れ込み、一部の漁場では色落ちの被害が改善したということです。

中島さんをはじめ取材した漁業者の皆さんは「産地の責任として、少しでも品質のよいのりを1枚でも多く取ることを諦めない」と話しています。

漁業者のみなさんは、色落ちを避けようとのりの網を張る時期を遅らせるなどして懸命に対策しています。少しでも改善につながってほしいと思いました。

【佐賀県が日本一「のり」に異変 影響と原因は 放送動画】