2022年、クラブ設立25周年を迎えた、サッカーJ1のサガン鳥栖。
2度にわたって監督を務め、81歳のいまも「プレジデントアドバイザー」として
クラブに携わり続ける松本育夫さんに、
サガン鳥栖への思いや、未来への期待を聞きました。
【サッカー界の“レジェンド”が鳥栖へ】
松本さんは、1968年、日本がオリンピックで銅メダルを獲得したときのメンバー。
日本を代表するフォワードとして活躍したのち指導者に転じ、ユースの日本代表監督、
Jリーグ発足後は川崎フロンターレで監督を務めました。
2003年、サガンはJ2で3勝30敗11引き分けという“どん底”の成績を経験。
そのチームの立て直しを託されたのが、松本さんでした。
【「これがプロか?」練習環境に愕然】
2004年に、サガン鳥栖の監督に就任した松本さん。
しかし、当時は選手たちがサッカーに集中できる環境とは程遠かったといいます。
(松本育夫さん)
「プロじゃないっていう感じね。朝、練習着に着替えている。
その時に食パンを食べて着 替えている状況。
練習が終わったら『大型の免許を取りに行くから』と話している選手もいた。
もうプロの世界から離れてしまっている。選手の扱い方が非常に気の毒だなと思った。
それで、勝たせなければいけないということを頭の中に入れましたね」
【エースストライカー獲得秘話】
松本さんが監督に就任してから、前線からボールを追う意識が浸透し
多彩な攻撃パターンが可能になったことで、成績を伸ばしていったサガン。
2006年にはJ2で4位と、当時の最高成績を残しました。
こうしたなか松本さんは、のちにチームのエースストライカーとなる、
豊田陽平選手の獲得に動きます。
(松本育夫さん)
「豊田と会って面接して、『何か希望あるか?』って聞いたら、
『試合が終わったあとに風呂に入りたい』と。
当時のクラブハウスのシャワーはお湯が出なかったですから、
更衣室からそこへ入って、みんな震えるようにして出てきてね。
じゃあっていうんで、近くの福岡県筑紫野市の温泉のチケットをね、
俺が毎日渡してあげるからって言って。そういうので契約が出来た」
【成長を続けることでつかんだJ1昇格】
2007年には、ゼネラルマネジャーに就く松本さんの後任として岸野靖之監督が就任。
さらに、2011年には、ユン・ジョンファン監督が就任し、
チームは悲願のJ1昇格を果たしました。
(松本育夫さん)
「岸野は、選手に対してハートの強さを求めた。ユン・ジョンファンは、グラウンド上の
戦術や技術に対して、非常にレベルの高い内容のトレーニングをした。
J1に上がったときは、ユン・ジョンファンが監督でよくやったなと。
僕が監督のころからしたら、J1昇格ということ自体考えられなかったですから」
【チームに受け継がれる“走り勝つ”スタイル】
サガン鳥栖に脈々と受け継がれている、運動量・活動量で相手に負けない戦い方は、
松本さんが、就任当初から選手たちに訴え続けてきたことです。
(松本育夫さん)
「基本は絶対に活動量がなかったらいけない。動ける量が増えるから戦術が上げられる。
それが、いままでのサッカーの歴史ですから。
だから動けないチームというのはやっぱり無理です。
それをカバーするだけの戦術や技術がないですから。」
【プロで活躍するすべての選手たちへ】
そして、松本さんは、プロで活躍する選手たちにメッセージを送りました。
(松本育夫さん)
「私の時代はプロというものはなかったですから。
プロのありがたさというものを、すごく感じます。
だから試合になったときには、おいでいただいているお客様に
『自分たちのためにおいでになってくれた』ぐらいの感謝の気持ちをもってほしい。
笛が鳴り終わるまでは、とにかく自分の力を出し切るというのが、
プロの選手だと思っています」
【愛され親しまれるクラブになってほしい】
松本さんは、サガン鳥栖が地域に根差したクラブとして
発展し続けて欲しいと願っています。
(松本育夫さん)
「愛され親しまれるクラブをつくる努力を、県民の皆さんに分かってほしい。
そうすれば、おらがチームだと感じてもらえる。
そこにサポーターの方に力を借りるということで進むべき。
愛され親しまれるクラブづくりをしているから、どうぞ厳しい目で見て、
注文をつけたいことがあればつけてください。
それで、クラブと県民が一緒になって育っていくことが必要じゃないですかね」
【インタビューを終えて】
81歳の松本さんの座右の銘は、「全力に悔いなし」。
私たちの質問に対しても、ひとつひとつの言葉を力強く、
そして噛み含めるように話してくださいました。
日本サッカーの黎明期から、第一線で活躍してきた“レジェンド”の生き方が、
そのまま投影されたようなインタビューになりました。
「プロは笛が鳴り終わるまで全力でプレーを続けてほしい」という言葉の通り、
来季もサガン鳥栖の選手たちがピッチで躍動する姿が、いまから楽しみです。