唐津市相知町の秋祭り「相知くんち」が今月、3年ぶりに開かれました。
この先陣を飾る「羽熊行列」は、長い毛やりを巧みに操る花形の1つですが、担い手不足が課題です。
継承に取り組むベテランと、それに応える若者を取材しました。
【相知くんち先陣「羽熊行列」】
「ヤッホイ、ヤッホイ」
3年ぶりに開かれた相知町の秋祭り「相知くんち」。
先頭は、「羽熊行列」です。
江戸時代の大名行列を再現し、町内を練り歩きます。
その見せ場が、長さ3メートルのやりの投げ渡しです。
1年に1度の大技を見ようと、町中から人々が集まります。
【羽熊行列も担い手不足に…】
(昭和15年の相知くんちの画像)
「相知くんち」は繁栄を願って行われる伝統の祭りです。
町内にはかつて2万人以上が暮らし、祭りも盛大に行われました。
しかし、人口減少と高齢化が急速に進行。
「羽熊行列」の担い手が足りなくなる事態に陥ったのです。
【継承を 動き出したベテラン】
この状況に危機感を募らせたのが「羽熊行列」の会長・岩本英樹さん(67)。
「このままでは伝統が途絶えてしまう」。
担い手を集めるチラシをつくり、町内のすべての世帯に配りました。
(岩本英樹さん)
「誇りとか大変さ以上に、守らなければいけないという価値観がある」
【“故郷の力に”応える若者】
岩本さんの思いに若者が応えました。広瀬春樹さん(24歳)です。
力に自信がなかったという広瀬さん。
先輩の思いを知って、ことしから羽熊行列の一員になりました。
(広瀬春樹さん)
「羽熊行列を、伝統を途絶えさせたくない、次に繋げたい思いが伝わってきた。自分自身も小さい頃から見ていたおうちくんちの羽熊行列が、途絶えていってしまうのは寂しい」
羽熊行列に欠かせないのは、3メートルの「毛やり」を担いでの行進です。
重さ20キロほどもある「毛やり」を、片手で何度もひねりながら振り上げます。
体全体を使った持ち上げ方を先輩に何度も教わります。
(広瀬春樹さん)
「重いです。想像してたよりも重くて、バランスが取りにくかった」
岩本さんも新人の成長に期待します。
(岩本英樹さん)
「本人のやらなければならないと言う気持ちが乗ってきて、良くなっているんじゃないか」
【相知くんち本番 投げ渡しは…】
いよいよ祭り当日。3年ぶりの晴れ舞台に気合いが入ります。
(岩本英樹さん)
「今日は天気に恵まれて、気持ちも晴れやかで、がんばれそうです」。
「ヤッホイ、ヤッホイ」
新人の広瀬さん。毛やりを受け取りました。
緊張で少し固くなっています。
見せ場の投げ渡し。
横に少しそれました。「緊張で力が入った」といいます。
すかさず岩本さんがアドバイス。
広瀬さんの緊張をほぐします。
今度はどうか。
きれいに決まりました。
(広瀬春樹さん)
「参加できてよかったです。お客さんが笑顔で羽熊行列を見てくれていたり、カメラを向けてすごいすごいと言ってくれているのを見て、こういったものを後の世代に引き継いでいくことでまちも活性化するし、相知の大事な歴史の1ページになると思います」
(岩本英樹さん)
「立派な披露ができた。みんなで成功の喜びをわかちあえて伝統を絶やすことなく会長をやれて協力に感謝しています」
長年受け継がれてきた伝統とわざ。
ベテランと若者の思いと努力が、後世に“宝”を残します。
【取材後記】
「相知くんち」開催決定から祭り当日まで、岩本さんや広瀬さんをはじめ、相知町の本当にたくさんの方々にお世話になりました。
どなたとお話をしていても、「羽熊行列」や「相知」の話をしているときが1番生き生きとしているように感じ、ふるさと愛が伝わってきました。
楽しい祭りの裏の岩本さんたちベテランの姿も印象的でした。チラシ作成だけでなく、市役所や若者の家に直接足を運んで頼み込むなど、伝統を、郷土の誇りを、絶やしたくないという熱い思いを感じました。
広瀬さんに届いたように、岩本さんたちの地域の思いがより多くの若者に伝わり、来年も再来年も、100年後も、先祖のわざ「羽熊行列」が継承されてほしいと強く感じました。