立てなかったキリン はぐみのお話

NHK
2023年4月28日 午後7:43 公開

はぐみは広島県の動物園で暮らす3歳のメスのキリン。現在、体長4メートル。成長まっさかりです。でも、生まれたときはこんなにスクスク育つなんて想像もつかない状況でした。

ふつうキリンは生まれてすぐに自力で立ち上がります。ところが、はぐみは後ろの両足関節に異常があり、立ち上がることができなかったのです。「屈腱弛緩(くっけんしかん)」といって、本来足を動かすはずの腱(けん)が、伸びきってしまっている状態でした。長時間、座っていると消化不良で死んでしまうこともあるため、飼育員さんたちはギプスで足を固定し、とりあえず立たせました。

でもギプスは壊れやすく、しかも固定するばかりなので腱(けん)の機能向上にはつながりませんでした。そこで相談したのが、人の「装具」をつくる専門家でした。

装具は病気やケガで低下した体の機能回復をサポートする器具です。キリンでの前例はなかったので、はぐみの装具づくりは試行錯誤の連続でした。

義肢装具士と動物園のタッグはやがて実を結び、生まれてから7か月間で、はぐみは自力で歩けるまでになりました。
 
 

はぐみ担当飼育員 堂面志帆さんのお話

「はぐみの治療で考えることはたくさんありました。野生で生まれて立てなければ、他の動物に食べられて命を終えるということが当たり前。野生動物を扱う動物園で、そこをどう扱うのが正しいのか悩みました。でも結果的には人が手をかけることで生育できるなら出来ることをすべき、という考えで、治療に臨みました。その個体が生きていくことで充足感を得られるのか、ケアが苦痛を与えるだけになっていないかということを常に考えながら動物たちに向き合っています。」
 

義肢装具士 山田哲生さんのお話

「人の装具と一番違った点は「強度」と「構造」。前例がないので、特に必要な強度については予想がつかず一番大きな問題でした。そして「色」にも注意を払いました。動物が警戒する色を選ばないように動物園と相談しながら進めました。」