高齢どうぶつの白内障

NHK
2023年10月27日 午後7:25 公開

まずはオスのカリフォルニアアシカ、ベロ。 27歳、かなりのご長寿です。両方の目が白くなっていますが、これが加齢による白内障です。  

よく見えていないため、目の前に差し出されたエサに気付かないこともあります。

もうひとつ困ることは、採血などの健康管理です。この写真では「伏せ」の姿勢でじっとしている間に後ろ足から採血しています。採血は長くて8分ほど、最低でも3~4分はかかります。その間、ベロには伏せの姿勢を維持してもらう必要があります。

これまでは飼育員さんが手で「伏せ」の合図をしていましたが、この合図も見えなくなってしまうかもしれないのです。そこで新しいトレーニングをはじめました。それは手で合図をする代わりに、決まった音楽を流すこと。この音楽が聞こえたら伏せをするんだよ、ということを覚えてもらう練習を繰り返しています。

   

<飼育員 鈴木理恵さんのお話>

高齢の影響で、聴力も低下してしまったら音楽トレーニングすらできなくなるのではないか、という心配も当初はありました。ただ、聴力が落ちるかどうかはわからないし、機能し続けるかもしれない。目が見えづらくなっている今、少しでも可能性があることにトライしよう、ということで音楽トレーニングの実施を決めました。
高齢になるとどうしても、視力や聴力の低下、動くこと自体が困難になる、といったことがありますが、歳をとったから取り組みをやめてしまおうということは考えていません。動物の負担にならない限り、歳をとっても快適に元気に暮らしてもらうための努力、工夫をするという考え方で高齢動物に日々向き合っています。

   

   

もうひとつの事例はキングペンギンです。オスのアオシロ、推定29歳です。2年ほど前から、白内障で目が見えづらくなってきました。仲間との距離もうまくとれず、危ないので1羽で隔離したところ、こんなふうに壁際で過ごすことが多くなってしまいました。

動物眼科医に診察してもらうと、アオシロの白内障は「手術をすれば回復の可能性アリ」。高齢のアオシロに麻酔の負担が大きいのではないか、など不安もありましたが、生活の質が大きく改善するなら、と手術を決めました。

ペットのイヌやネコでも白内障の手術例は多くはありません。まして動物園のどうぶつではとても珍しいケースでした。細心の麻酔管理や呼吸管理でアオシロの手術は成功しました。

再び目が見えるようになったアオシロは、仲間がいる運動場に戻りました。こんな風に胸を張って、繁殖期のアピール行動をすることもできるようになりましたよ!

     

<飼育員 澤山菜南子さんのお話>

今回の白内障手術の成功は、手術を行う眼科医が見つかったことのほか、麻酔科医、手術場所である大学の動物医療センターが見つかったことなど、環境が整ったことがまず大きいと思います。
高齢動物への手術に関しては、麻酔など体に負担をかけるぐらいなら、手術を行わずに、余生を穏やかに過ごしてもらった方がいいのではないか、という考え方も当然あると思います。
一方、アオシロの手術を通して、「若齢だから手術をする」「高齢だから手術ができない」ということではなく、その個体自身のことを考えて、手術をしてあげるべきかどうかを考えるということでいいのではないかと思うようになりました。
高齢個体の手術にリスクがあるのはもちろん事実なので、今後も同じ状況になったら、悩みながらより良い選択を考えていきたいと思います。