重力波、ブラックホール…渡部潤一さんに聞く天文学の大発見【博士の20年】

NHK
2023年3月20日 午後7:31 公開

研究者の中で、最も多くスタジオにご出演いただいたのが「日本で最も有名な天文学者」とも言われる国立天文台上席教授の渡部潤一さんです。「月」「木星」「土星」「冥王星」「小惑星」「彗星」など専門の太陽系天文学を中心に、「系外惑星」「重力波」「地球外生命」などあらゆる分野の天文学について、誰にでも分かりやすい言葉でその魅力を語っていただきました。

「宇宙を知ることは人類を顧(かえり)みること」と語る渡部さんですが、宇宙の謎が解き明かされるにしたがって「私たちの文明は子ども」だということに気づかされるとも言います。渡部さんにこの20年の天文学の驚くべき進展の価値、そして宇宙を研究する意味について語り尽くしていただきました。

20年で最大の発見は「アインシュタインからの宿題『重力波』」

―天文学の20年振り返って、最もインパクトがあった出来事はなんですか?

なんといっても一番は、2016年の「重力波の発見」です。すぐにノーベル賞を受賞しましたし、物理学、天文学にとって非常に大きなインパクトでした。重力波の存在と検出はアインシュタインが100年前に予言した最後の宿題のようなものでした。

「重力波」というのは『時空のゆがみ』が波のように光速で伝わる現象ですが、「超新星爆発」や「ブラックホール合体」など、“宇宙のビッグイベント”が起きたときに発生して、地球と太陽の距離に対して、わずか水素原子1個分程度伸び縮みする、というものです。そのごくわずかな揺らぎを捉えるのは非常に難しかったんです。

国立天文台では世界に先駆けて重力波の検出に取り組んでいて、1980年代から三鷹キャンパスの地下に、長さ300mの重力波検出装置「TAMA300」を作って実験をしていました。近くにスタジアムがあるのですが、そこでコンサートが始まると、その振動の影響で実験ができなくなるほど、「世界一感度の高い地震計」とも言われていました。それが岐阜県神岡にある重力波望遠鏡「KAGRA」(※1)の開発につながっています。

※1「KAGRA」岐阜県飛騨市の大型低温重力波望遠鏡。長さ3キロメートルの2本のトンネルの間にレーザーを往復させて高精度で重力波を観測する装置で、LIGO、Virgoなどと共に世界的な重力波検出器ネットワークを構築することを目指している。

「ブラックホール同士の合体」「中性子星同士の合体」で重力波を観測

世界で最初の重力波検出は、「ブラックホール同士の合体」によるものでした。KAGRAが完成するよりも早くに、アメリカの「LIGO」とヨーロッパの「Virgo」という装置で観測されましたが、KAGRAグループのメンバーも一部、国際プロジェクトの一員としてその論文の著者になっています。

それに続き、「中性子星」という非常に密度の大きい恒星同士の合体による重力波が発見されました。これは可視光でも見えるはずだと、「すばる望遠鏡」も通常の観測をやめて、すぐに望遠鏡を向けました。すると、その観測の結果から、宇宙の謎の一つが解明されたんです。

実は、鉄よりも重い元素である金や銀などは、超新星爆発で作られると考えられていたのですが、超新星爆発だけでは、今宇宙に存在する重元素の量を説明できませんでした。

それが、この中性子星合体でも作られることが確認されたのです。このことで、宇宙空間に相当の量の重元素が発生する理由が解明できました。今まではシミュレーションなど、計算でしか考えることしかできなかった宇宙の成り立ちに迫る発見が、すばる望遠鏡による可視光の観測などで解明できたことは、大きな喜びでした。

アルマ望遠鏡が捉えた「惑星ができつつある現場」

―今までは捉えられなかった新しい宇宙の発見はほかにもありますか?

2013年、「アルマ望遠鏡」の稼働はそれまでになかった新しい世界を見せてくれましたね。アルマ望遠鏡は電波を捉えること、そして山手線ほどの範囲に多くの望遠鏡を配置することで可視光では見えなかったものを捉えられるようになると同時に、「お月様の上の1メーターのもの」が見分けられるぐらいまでの視力になったんです。

今までボヤッとしていた物がくっきり見えてきて、私が一番感動したのは「原始惑星系円盤」と呼ばれる“惑星ができつつある現場”を捉えられたことです。感動して、「これほんとはシミュレーションじゃないの?」と思ったくらいですね。

というのは、惑星は円盤状のちりの中で元になる塊ができ、その塊が周りを少しずつ吸い込んで大きくなるために、同心円状の溝ができていくと考えられていました。理論天文学者が一生懸命シミュレーションして、「惑星ができていたら溝が見えるはずだ。その溝が何本かあるだろう」と言っていたら、本当にその溝がくっきりと見えて、「今、惑星ができているんだな」と思いましたね。

―アルマ望遠鏡の観測でこれからの期待は?

アルマ望遠鏡は、今、星間空間で「アミノ酸」を一生懸命見つけようとしているんだけど、まだ見つかっていないんです。星間空間、つまり恒星と恒星の間にひろがる空間の密度が高い分子雲には、どこにでも複雑な有機物があるということを証明したいんですよ。

僕らは生命の材料なんていくらでも宇宙に浮いていると思っていて、実際に砂糖の仲間ぐらい、「グリコールアルデヒド」まで見つかっています。だからもう一歩いくとアミノ酸になるんですが、まだアミノ酸までいっていないんですね。それはいずれ見つかるかなという気はします。

ついに撮影!「ブラックホール・シャドウ」の姿

それから、2019年に発表した「ブラックホールシャドウの検出」です。ブラックホールそのものを見たわけではないので、僕らは「ブラックホールシャドウ」って呼んでいるんですけど、真ん中に黒い穴が空いているリング状の光を捉えた画像をご覧になった方も多いと思います。

国立天文台の研究者も参加して、世界中の電波望遠鏡でネットワークを作った「イベント・ホライゾン・テレスコープ」というプロジェクトで捉えたもので、周りが明るく見えるのは、ブラックホールによって曲げられた光が我々に向かってきているからです。真ん中にはブラックホールの強力な重力があるので、真ん中はどういう経路をとっても、その部分の光が地球に届くことは絶対ないんですね。実際には電波なんですけど。シミュレーションでこういうふうに見えると予想されたことと全く一致していましたね。

それまではブラックホールの周りを回っている星のスピードや周期からブラックホールの質量を決めていましたが、それはあくまで間接的にブラックホールがあるということを証明したに過ぎなかったんです。やっぱり、直接しかも視覚的に「明らかに何かある」ということが分かるという意味で、非常に画期的な発見だったと思いますね。

惑星の定義が変わった! 教科書が書き換えられた大ニュースの舞台裏

―2006年に「冥王星」が太陽系の惑星から除外されたことも大きな話題になりましたね。

これは新聞の一面になりましたし、教科書も書き換わってしまったので、国際的なインパクトは大きかったです。2003年頃に冥王星よりも大きな天体が発見され、冥王星の周りにはやたら同じような天体が数多くあることが分かってきました。それで、「仲間がいっぱいいて、しかも自分がちょっと小さめ」の冥王星だけを惑星と呼び続けるのかという話になって、2006年に国際天文学連合(IAU)が惑星定義委員会を立ち上げて、議論をして惑星をきちんと定義することにしたんです(※2)。その際に、惑星と小天体の間に「準惑星」というカテゴリーを設けて、そこに冥王星も位置付けました。

私は、国際天文学連合の中で「惑星定義委員会」の7人のメンバーのひとりに選ばれたんですが、アジアから誰かということで、太陽系や惑星がよく分かっていて、なおかつ社会的なインパクトもよく分かる人ということで、広報をやっていた僕に白羽の矢が立ちました。それで、秘密裏にパリ天文台で合宿をして案を作ったんですが、みんなから文句言われる役だから、えらいしんどかったですよ。

―どうして文句を言われたのですか?

冥王星は1930年代にアメリカで発見され「プルート(冥王星)」と名付けられた星なので、アメリカ人にとっては極めて特別な天体なんです。ディズニーのプルート(犬のキャラクターの名前)はそこから来ているし、プルトニウムというアメリカで見つかった元素も、プルートから来ているんですね。だから発見した当時は国中を挙げて大騒ぎしたんだと思いますね。それが惑星じゃないってなったものだから、怒ってしまっって。アメリカ人の天文学者はわりと冷静だったんだけど、冥王星を見つけた町の人とか一般の人が反感を持っていました。

実は当時、「ニューホライズンズ」という探査機が冥王星に向かっている途中だったんです。「まだ探査されていない最後の惑星に行く」といううたい文句だったんですが、打ち上げてから行く途中に、惑星の定義が変わったんで、探査機のある関係者もが激怒していました。個人的には仲のいい友だちなんですけど、そのときは怒っていましたね。

※2「惑星の定義」…2006年プラハで開かれた国際天文学連盟の総会で、惑星の定義は「1.太陽の周囲を公転している」「2.十分に大きく、重力が強いため球形をしている」「3.その軌道周辺では群を抜いて大きく、ほかの同じような大きさの天体が存在しない」ものとされた。

謎の「巨大流星雨」の正体を突き止めたい!

―渡部さんのご専門である流星天文学の分野で印象に残っている出来事はいかがですか?

2001年の「しし座流星群」は、流星天文学を変えた出来事でした。それまで、流れ星というのは、母天体であるほうき星(彗星・すいせい)からはき出された砂粒の川(ダストトレイル)が、同じ軌道を流れていくという前提で予測していました。

ところが2001年前後に、海外の天文学者が、ほうき星と、砂粒(ダストトレイル)とは微妙に違う軌道にあることを発見したんです。考えてみると当たり前なのですが、砂粒が放出される時期によって木星や土星のような大きな惑星の位置が異なるので軌道が微妙に違ってくるんです。

この砂粒と地球の位置を計算し、流星群の出現を予測する「ダストトレイル理論」によって、2001年のしし座流星群の予測は大当たりしました。それ以降、ダストトレイル理論を使うと、流星群の出現がどこでピークを打つかというのは、分単位で予測できるようになりました。

僕がこの道に進んだきっかけは、「1972年に日本中を騒がせたジャコビニ流星群(※3)がなぜ出現しなかったのか」ということで、それがずっと引っかかっていたんですね。ダストトレイル理論ができてしばらくして、僕の共同研究者に「72年のジャコビニ、ちょっと計算してよ」と頼んだらすぐに結果を持ってきてくれて、やはり地球に砂粒の軌道が当たっていないんですね。「今だったらああいう予測は出さないね」と2人で納得しました。

※3 ジャコビニ流星群…10月上旬に見られる、突発的に出現する流星群。1972年大流星雨が予測され日本でもブームになったが、予測は外れた。

1933年の10月、北海道の函館で起きた奇跡

―ご自身の研究でのこれからの夢を教えて下さい。

目撃証言があるような「突発的大流星雨の出現」、おそらく数千年か数万年に一度しか起こらないような現象の目撃証言を元に調べて、その原因を明らかにしたいと思っています。

長年調べているのは、北海道の函館で1933年の10月に「空が全面流れ星で覆い尽くされるような流星群を見た」という目撃証言です。ただ数分間しか出現してないので目撃者は非常に少なかったんです。

これまで記録に残る流星群で一番降ったというのが1時間に10万個なんですが、大したことないんですよね。10万個のレベルのシミュレーション動画を、目撃した方に見せたら、「こんなもんじゃない」と言われたんです。だから、その方が目撃したのは、非常にまれな現象だったんだろうと。じゃあ、なぜそういうことが起こるのかをいろいろ考えていたんです。すると、「ヘルクレス座タウ流星群」の母天体がすごいバラバラに分裂して、その直後に地球が軌道内を通るとおそらく同じことが起こるだろうということが大体分かりました。

ただ残念ながら、その母天体が見つかっていないんです。どう探しても見つからないんです。その日時も1933年の10月、時刻は夜9時頃というところまでしか絞り込めないまま10年、20年が過ぎてしまいました。世界にこういうのがあることを知ってもらって、目撃の記録を掘り出して、その正体を突き止めたいなと思っていますね。

地球外生命体はまもなく見つかる!?

―これからの天文学で、一番期待している発見はどんなことですか?

やはり、「第二の地球」の発見ですね。恒星の明るさの変化から惑星の存在を発見する「トランジット法」(※4)によって地球サイズの系外惑星も発見できるようになり、その惑星の公転周期や表面温度も計算できます。

これによって、ちょうど地球と同じような平均気温が20℃くらいのいわゆる「ハビタブルゾーン」に存在する惑星が、今数十個見つかっているんです。第二の地球候補ですね。残念ながらまだ、大気があり、水が循環しているような状況かまでは突き止められていない段階で、生命が存在するかは分かっていません。

しかし、現在建設中の反射鏡の直径が30m級の望遠鏡が2030年代に完成したら、すぐに分かるのではないかと思います。一番先に稼働する予定なのは、南米に建設中のヨーロッパの望遠鏡「Extremely Large Telescope」(ELT)です。ただそれは南天しか捉えられないので、北天で日本の関わっている「Thirty Meter Telescope」(TMT)が活躍すると、生命の存在する可能性のある第二の地球のリストができてきます。

その中で、酸素やオゾンの濃度を調べて地球と同じようなフェーズにあるものが分かれば、地球と比べてどのくらい進化しているのかが予想ができます。知的生命がいてもおかしくないような、円熟した状況であると分かれば、一生懸命に文明があるかを調べるでしょうね。地球のそば、100光年以内にそういう文明があるというのは考えにくいですけれども、あれば面白いですよね。

※4「トランジット法」系外惑星がその主星の恒星面を通過した時に起こる、主星のわずかな減光を検出することで系外惑星を発見する方法。

文明はどうやって「子ども」から「大人」になるのか

―もし地球外の文明とコンタクトできるとしたら、先生ならどんなやりとりをなさいますか?

おそらく多様な生命が存在する中で、どのように文明を持続させて、他種とどう融和・融合して生き延びているのかということを一番聞きたいですね。人間が他の種族にとって代わられる可能性が出てきた時にどう乗り越えるか、という手段が、もし、我々よりも長い、10万年、100万年のタイムスケールの進化を経験しているなら、何かあるはずだと思うんです。

僕らの文明は、まだまだ子どもなんだと思います。子どもから大人になるプロセスというのは、自分中心から自分が社会の中の一員だというのを認識していくプロセスなんですね。400年前は我々が宇宙の中心だと思っていたわけで、天文学はそれを是正して我々は「one of them(ワン・オブ・ゼム)」であるというのを段々認識していく学問だったんですね。

宇宙の中心からどんどん滑り降りて行って、今我々は、銀河の片隅にある何でもない星の周りで、たまたまハビタブルゾーンにある適切な大きさの星のところで進化してきたのだと分かってきたところです。

400年前から比べれば少しは大人になっていても、まだよちよち歩きでいろいろ無駄な失敗をしている段階で、もっと大人の文明にならなきゃいけない。戦争なんかしているのはその失敗を繰り返している一つなのだろうなと思います。紛争解決も武力を使わないもっとスマートな方法になって、より良い世界になっていけばいいと思っています。

ただ、知的生命が存在すると推定された時に、いざコンタクトできるかどうかの確率は、双方の文明の持続時間によって変わってきます。だから知恵を絞らなくてはならないですね。