“博士が子どもだった頃”vol.2 雷と宇宙のナゾに挑む「榎戸輝揚 博士」

NHK
2022年6月24日 午後0:08 公開

モノづくり×科学の心

雷と宇宙線の関係を研究する榎戸 輝揚博士(京都大学 白眉センター / 理化学研究科 宇宙物理学教室 特定准教授)は、日本海沿岸で起きる超巨大な雷のなかで、「“物質”と“反物質”がぶつかって“対消滅”する」現象を観測し、世界を驚かせています。今、その謎を解明するために、様々な観測装置を開発。その装置を金沢市民のみなさんに配って一緒に最先端の研究をする、市民参加型の科学「シチズンサイエンス」を推し進めています。

―どんな子ども時代をすごしていたのでしょう?

絵を描くこと、工作や読書が大好きな子どもでした。模型を作るのが好きで、いつも何か作ったり、宇宙に関する科学番組や三国志などの歴史マンガを見たりするのが大好きでした。小学校の時には模型やジオラマ作りにはまって、大きな平城京の模型をつくるために発泡スチロールを集めてきて、色を塗って眺めては喜んでいるような子どもでした。当時の人になった気分になって、なぜこういう都市づくりをしたのか、設計者のこころに触れられるような気分になれます。手作業で何かするのが好きでしたね。

―科学への興味は?

当時見ていたテレビ番組がとても心に残っていて、きっかけの一つです。一番興味をひかれたのは宇宙とか地球の歴史です。実は「アインシュタインロマン※1」という番組はお気に入りで、光が波でもあり粒子でもある、ってどういうことなのか?日常の世界や直感とは一見違う物理の世界って不思議とか、当然、物理学を大学で学ぶまではちゃんとは理解できていないんですが、そんな日常生活を生きているときの常識では考えられないような「世界の見方」があって、それを解き明かせる科学者って面白い、と思い続けていました。ちなみに「地球大紀行※2」と「コスモス※3」も好きでした。最近だと、「神の数式※4」もそんな空気感ありますね。NHKだからとヨイショしているわけではないですよ(笑)。

※1:『アインシュタインロマン』は1991年の4月から12月にかけて『NHKスペシャル(全8回)』で放送された。アインシュタインの難解な理論、人生と哲学までを映像化するために、最先端のCGと直筆の手紙やドラマを組み合わせ、物理学者アインシュタインの科学と人生に迫るドキュメンタリー番組。

『アインシュタインロマン』

※2:『地球大紀行』は、1987年に『NHKスペシャル(全12回)』で放送された科学番組。声明を育む母なる地球がどのように誕生したのか、水の起源に迫ったり、当時広く知られてはいなかったプレートテクトニクスや隕石衝突による恐竜絶滅を紹介したり、地球温暖化問題などにも切り込んだ。

『地球大紀行』

※3:『コスモス』は、1980年に天文学者で作家でもあるカール・セーガンが案内人として最先端の宇宙にせまるドキュメンタリーシリーズ(全13回)で、世界60カ国で放送された。

※4:『神の数式』は、2013年からNHKスペシャルなどで放送したドキュメンタリーシリーズで、この世界の秘密を解き明かす数式を追求する研究者たちに迫る番組。宇宙はなぜ生まれたのか?この世は何でできているのか?異次元宇宙は存在するのか?といったなぞに迫った。

『神の数式』

-ご両親の影響は?

父が大学の工学部の教員だったので、科学者がどんなことをしているのか、を知る機会はありましたし、好きなことを考えて生きていけるいい仕事だなぁと思っていましたね。でも父から科学者になったら、ということを言われることはなかったです。当時はまだ大学が牧歌的な時代ではありましたね。(母からは科学という意味では影響を受けてはいませんが、やりたいと言ったことは応援してくれる人でした。)

-科学者になろうと思ったのは?

高校時代は数学が面白いと思っていました。大学では理系に進んだのですが、いろいろとやってみたいことはあって、まずは一番の基礎になりそうな物理を学んでみようと思っていました。理論だけの分野よりは、自然に触れることができる実験物理学が面白いと思うようになりました。科学者の世界に入っていったのは、入学してから牧島一夫先生(東京大学名誉教授)の宇宙物理学の研究室に入ってからでしょうか。

-モノづくりと科学、現在の研究に結び付いていますか?

科学研究には様々な分野がありますが、私が研究している宇宙物理学の研究は、新しい観測機器を作って、誰も見たことがない現象を観測することが、研究で重要な位置を占めています。いま何がわかっていないか、それを調べるには何が必要か、ではこんな観測機器を作ろう、と予算をとって、自分たちで観測装置を作って研究する。これが、子どものころに好きだったモノ作りも、科学の研究もできる、という意味で、三つ子の魂を活かせる仕事をしているとも言えるのかもしれません。

(写真)雷とともに発生しているガンマ線をとらえるための小型装置「コガモ」。センサーと通信機能が一体化することで、金沢の企業や個人宅に設置し、どの雲からガンマ線が降り注いでいるのかリアルタイムでとらえることができる。

-シチズンサイエンス(市民科学)への取り組みは、どんな思いが?

わたしが研究しているガンマ線という放射線は、超新星爆発が起きた時に大量に放出されたり、宇宙のはるか彼方からやってくる宇宙線が地球の大気にぶつかったりするときに生じます。面白い物理現象をいろいろ起こしてくれます。その一つが、いま研究している巨大な雷や雷雲で発生するガンマ線です。最近見つかってきた現象なので、新しい観測事実が見つかって、すごく面白いんですが、ぱっと目には見えない光だからどうしても理解しづらいですよね。

そこで、身近な雷や雷雲でも観測できることを活かして、科学者に限らずこの面白さをわかってもらえるように、シチズンサイエンスで研究をできないかなと考えました。そこで、モノづくりが好きなので、お弁当箱サイズでガンマ線を検出できる「コガモ(小型ガンマ線センサー、Compact Gamma-ray Monitor の略)」や、もっと小型手のひらサイズで宇宙線を捉える「ミニクラゲ」みたいなおもちゃも作っています。「コガモ」は市民サポーターの家に設置していただいて、IoT モジュールというのを使ってネット経由でデータの一部を集めることができます。これで、雷雲や雷からのガンマ線を観測できるんです。

現在、冬に日本海側に到来する雷雲からのガンマ線を測定するために、金沢市の周辺にお配りしていて、実際に雷雲からのガンマ線を検出すると、ツイッターでアラートを出すようにして、市民サポーターに空に向けてスマホを構えてもらう、という取り組みを進めています。

What‘s“博士が子どもだったころ”

10年から20年先の将来、人工知能(AI)やロボットによって、今ある職業のうち日本では約49%を代替することが可能と言われています。つまり、今の子どもたちが大人になるころには、現在ある仕事のうち半数近くは無くなっているかもしれない、とも言い換えられるでしょう。

「今の常識では通用しない時代が来るのだ」と感じつつも、「じゃあどうしたらいいのか」の問いには、簡単に答えがみつかりません。

「好きなことがある人は強い」

番組の取材を通して、世界トップクラスの科学者や技術者にお会いする機会が多い私たちは、日々そう感じています。そして、「博士たち」が子どもだったころ、どんなふうに日々を過ごしていたのか、周囲の家族や友人と、どんな関わり方をしていたのか、どんな個性を、どう伸ばしてきたのかということに、私たちはとても関心があります。

サイエンスZEROでは、『博士が子どもだったころ』と題して、魅力あふれる博士たちの原点をお伝えしていきます。