ニュートリノと重力波、梶田隆章さんが語る“新しい天文学”の展望【博士の20年】

NHK
2023年3月2日 午前8:00 公開

目には見えませんが、いまこの瞬間も私たちの体を通り抜けている「ニュートリノ」(※1)、そして「重力波」(※2)。どちらも、この20年で目覚ましい進展を遂げた分野だと言えるでしょう。

その最前線で研究を牽引してきたのが、東京大学宇宙線研究所の梶田隆章さん。ニュートリノ研究の第一人者であり、2015年に「ニュートリノが質量を持つ事を示す、ニュートリノ振動現象の発見」でノーベル物理学賞を受賞したのは記憶に新しいのではないでしょうか。

現在は、日本の重力波望遠鏡「KAGRA(かぐら)」のプロジェクトリーダーを務める梶田さんですが、“宇宙を見る方法”がどんどん進化する中、「これまでとは全く違う学問が生まれてきている」と言います。ニュートリノと重力波の研究の20年を通して見えてきた新しい宇宙像と、これから見えてくるものについて伺いました。

※1ニュートリノ…電気的に中性な素粒子の1つ。私たちの体を1秒間に数百兆個も通り抜けていると言われている。

※2重力波…質量をもつ物体が存在することで生まれる時空の歪み(重力)が、波のように光速で周りへ伝わっていく現象のこと。

この20年のニュートリノ研究は“理想の形”で進展した

―この20年、宇宙に迫る研究はどのようでしたか?

“宇宙を見る新しい方法”というのがどんどん進化したような気がしています。今までの天文学とは全く違う天文学が急激に生まれてきたなという感じですね。また、「ニュートリノ研究」はものすごく大きく進展したと思います。

「ニュートリノ振動」(※3)は25年前に見つかって、太陽ニュートリノもニュートリノ振動だということは20年前に見つかりましたが、2つ見つかると、じゃあ残りの1つもあるはずだということで、世界中でそれを見つけるためのプロジェクトの準備が始まりました。実際に見つかったというのは、本当に大きい進展ですし、それもこうあってほしいなという理想的な形で見つかってきたと思います。

※3 ニュートリノ振動…質量の異なる3種類のニュートリノ(電子ニュートリノ、ミューニュートリノ、タウニュートリノ)が、空間を飛ぶ間に変化して移り変わる現象。1998年に最初の振動モードが発見され、その後2000年代初頭に第二の振動モード、2012年に第三の振動モードが発見された。

―ニュートリノ研究では、日本の貢献も大きかったんですよね

この20年の日本の貢献は、やはり非常に大きかったと思います。太陽ニュートリノ問題の解決にはスーパーカミオカンデも貢献していますし、太陽ニュートリノ問題をニュートリノ振動で間違いないということを示したのは、東北大学の「カムランド」(※4)実験です。T2K実験(※5)は第3のニュートリノ振動の発見に大きく貢献しています。

※4 カムランド(KamLAND)実験…東北大学ニュートリノ科学研究センターのニュートリノ検出器。岐阜県の神岡鉱山の地下に建設され、1000トンの液体シンチレータを使って観測を行っている。

※5 T2K実験は東海村の大強度陽子加速器J-PARCでニュートリノを生成し、295㎞離れたスーパーカミオカンデでニュートリノ振動したニュートリノを測定する実験。

  「ニュートリノ」から「重力波」の研究へ、観測プロジェクト実現に向けた長い道のり

―2008 年に宇宙線研究所の所長になった頃、重力波観測プロジェクトのリーダーを務められるようになりますが、当時の重力波研究はどのようなフェーズでしたか?

当時、宇宙線研究所としてスーパーカミオカンデの次の大型将来計画は「重力波」だということを決めていたのですが、なかなかプロジェクトとして認められないというのが長く続いていました。それをどうにかしなきゃいけないと思っていた時代です。とにかく重力波望遠鏡「KAGRA」を実現する、そのためにいろいろ頑張るというフェーズでした。

―重力波はニュートリノと全く違う分野ですが、その魅力は?

さまざまな面でだいぶ違いますね。もちろん実験技術という意味ではかなり違いますし、カルチャーの面でも、ニュートリノと重力波の人たちで違いを感じていました。ただ、もともとニュートリノをやっている時から重力波というものに科学的な魅力を感じていて、新しいことに挑戦したいと思っていました。一般相対性理論を調べようと思うと、重力波というのは1つの重要なカギですし、そういった重力波でしか見られない、知れない宇宙の姿があるというのは、ワクワクする対象でしたよね。もちろん宇宙線研究所の所長になったという成り行きもありますが、サイエンティフィックに面白くなければ本気でやりませんので。

―ニュートリノ分野も重力波分野も、プロジェクトがどんどん大型化していますね

間違いないと思います。やっぱり大型化しないと分からないことがあることが分かってきて、科学の発展のために大型化してでも今まで見えなかったことを見るようにしようというのは、必然の流れだと思います。2017 年の重力波初観測に贈られたノーベル物理学賞で受賞者の1人に選ばれたバリー・バリッシュ氏は、まさにそういった大型プロジェクトを運営する側の人ですが、元々は重力波の人ではなくて、高エネルギー物理学の人でした。そういう人たちが、大きい実験プロジェクトをやってきた経験を重力波のプロジェクトに入れたというのが、大きなポイントだったと思います。

―日本でも、スーパーカミオカンデという大型プロジェクトに携われてきた梶田さんが KAGRA を率いているという部分に、少し似た流れも感じたりします 

バリー・バリッシュほど上手くはできませんけれどもね(笑)自分はラッキーだったと思います。とても重要な大型プロジェクトに入ってチームでやってきましたが、みなさんの考え、熱意、エネルギーをもらっているので、研究する上で大事な知的好奇心、熱意というのが続くんだろうと思います。  

“初検出”で大きく動き出した「重力波」研究

―重力波研究において、この 20 年でのターニングポイントはどこになりますか?

2015 年にアメリカの LIGO(※6)によって「初検出」されましたが、これが非常に大きくて、そこがブレイクスルーになっていると思います。捉えられた信号を見て、見えるときにはすごくきれいに見えるものだなと思いました。

LIGO は建設を始めてから観測するまでに 20 数年かかっています。当時、日本では KAGRA の建設中でしたが、それだけ長い間基礎科学を支えていけるアメリカの底力というのは、すごいと思いましたね。重力波を使った天文学をやるためには、世界の離れたところに少なくとも 3 つのレーザー干渉計が必要で、今後、KAGRA の重要性が大きくなると感じていたので、観測開始は遅れてしまうけれど、プロジェクトをきちんと進めないといけないなと思いました。

もうひとつ、2017 年の連星中性子による重力波の検出にもとても驚きました。重力波研究では、初検出に続く 2 つ目のとても重要な出来事です。連星中性子星合体の信号がものすごくきれいに見えて、いろんなフォローアップ観測が成功したのはスゴかったですね。重力波は単独の観測ではできることが限られているので、他のさまざまな天文観測と一緒に、宇宙で何が起こっているかを調べないといけないですが、それがまさに絵に描いたように 1発目で実現できました。世界中のさまざまな専門分野の研究者たちが同じ天体を観測したというのは、すごいことですよね。

※6 LIGO…アメリカのルイジアナ州とワシントン州に建設された重力波望遠鏡。4km のレーザー干渉計を使って観測を行い、2015 年に重力波の初検出に成功した。  

 ―2015年の「初検出」と 2017年の「連星中性子星による重力波の検出」は、何が大きく違うのでしょうか?

初検出はブラックホール連星の合体だったので、重力波の信号だけしか観測できません。一方で連星中 性子星の合体というのは、合体している最中に、中性子星が潮汐力で壊れて中性子が宇宙にばらまかれて、そこで重元素が一気に合成されるというようなことが起こります。かつ、もしかしたらその合体の時にジェットが出るようなことが起こるかもしれません。実際にガンマ線バーストも見られましたし、そういう意味でブラックホールではなく中性子星の合体だったことで、そこに付随したさまざまな物理現象を観測する機会が得られたというのは、重力波天文学としての広がりというのを感じさせるイベントだったと思いますね。

総合的に天体現象を解明する“新しい天文学”と展望

 ―ニュートリノや重力波、電磁波などさまざまな観測装置が連携して天体現象を解明していく“マルチメッセンジャー天文学”という学問が、これからの主流になっていくのでしょうか? 

そうですね。南極にアイスキューブ(※6)というニュートリノの観測装置があって、2017 年ごろから宇宙起源の超高エネルギーニュートリノがどこから来たかというアラートを世界中に出すようになりました。そうしたらそのアラートの時にガンマ線をカナリア諸島のマジック望遠鏡(※7)が観測したんです。つまり、ニュートリノと超高エネルギーガンマ線を一緒に捉えるという方面でも、マルチメッセンジャー天文学としての進展がありますね。様々な手法によって同じ天体現象を観測して、実際にそこで起こっていることがどういうことなのかということをしっかりと理解するというのが、新しい天文学の流れの一つだというのは間違いないと思います。

※6 アイスキューブ(IceCube)実験…南極点直下の氷中 1500~2500m の深さに設置された光検出器によって高エネルギーニュートリノを観測する国際共同プロジェクト。
※7 マジック(MAGIC)望遠鏡…スペインのカナリア諸島に設置されている2台の解像型大気チェレンコフ望遠鏡。チェレンコフ放射を使って超高エネルギーガンマ線の観測を行っている。  

―次の 20 年に期待することは何でしょうか?

まず重力波については、観測されてまだ 7 年くらいしか経ってないので、これから本格的に重力波天文学が発展する段階だと思います。今まで予想されていないようなことが何か見つかるといいなと思います。KAGRA も、これからの 20 年でしっかりと重力波天文学を支えるために、頑張らないといけないです。

また、超高エネルギーのニュートリノ研究はまさに始まったところなので、今後より装置は大きくならざるを得ませんが、そうなることで新たなものが見えてくることを期待したいです。スーパーカミオカンデなどのニュートリノ振動については、小さい質量を持ったニュートリノが宇宙の物質の起源に関わっている可能性が高いだろうと思うので、しっかりと研究を進めていってほしいと思います。

夢としては、次の「超新星爆発」が起きるときは、重力波とニュートリノ、そしてさまざまな光学観測がなされるという、そういう時代であってほしいと思っています。     

梶田さんと「サイエンス ZERO」

―梶田さんには、ノーベル賞を受賞された 2015 年のノーベル賞特集回で番組に出演していただきました。ちなみに受賞の報告を受けたあの瞬間というのは…

東大の本郷にいました。携帯電話が鳴って「変な番号から何だろう?」と、そんな感じです。やっぱりノーベル賞をいただけると、私たちの研究のことを本当に広く知っていただける素晴らしいチャンスですので、それは嬉しかったです。

やはり今の実験や研究っていうのは、どうしてもたくさんの人が関わって、実験装置は安いものではありません。そして私たちはお金が稼げるわけではないので、国の方からのサポートをいただいて実験せざるを得ません。つまり国民の皆さんの税金が原資ですから、そういう意味で、日本のみなさんにニュートリノのことを知っていただけるというのは本当に大きい意味があったと思います。  

―最後に「サイエンス ZERO」についてお聞かせください。

やっぱり本当にサイエンスが面白いんだ、エキサイティングなんだということを知ってもらいたいので、中学生とかがこういう番組を見て、それに共感してもらえればいいなと思います。「サイエンスをやりたいという心」を持ってもらうことが重要ですけど、サイエンスはエキサイティングだから、やりたいと思うはずなので。