「恐竜後進国」の日本が世界レベルになったワケを小林快次さんに聞く【博士の20年】

NHK
2023年3月21日 午後3:04 公開

「巨大化」「鳥化」「多様化」という脊椎動物の進化史上ほかにない大進化をとげた恐竜ですが、実は、日本でも次々と貴重な化石が発掘されています。かつては世界に後れをとっていた日本の恐竜研究は、現在、世界トップレベルにまで進展しています。

そんな日本の恐竜研究をけん引してきたのが北海道大学総合博物館教授の小林快次さんです。小林さんは、どこに行っても次々と化石を見つけるので、海外の研究者たちの間では、「ファルコン・アイ(はやぶさの目)」と呼ばれています。モンゴルでは幻の恐竜と言われていた「デイノケイルス」の化石の発見の携わり、日本では「カムイサウルス」「ヤマトサウルス」など多くの恐竜の全身骨格を発表してきました。

後進の育成にも力を注ぎながら研究にいそしむ小林さんは、「恐竜はロマンではなく、生命の進化を解くためのリアルサイエンス」としての地位を高めたいと語ります。日本の恐竜学がたどってきた変遷と、これから注目の研究、そして一流の研究者の育て方まで伺いました。

日本の恐竜研究を世界レベルにした「カムイサウルス」

――この20年で日本の恐竜研究はどう変化しましたか?

日本の場合、ほとんど森林だったり、固い岩に覆われている場所が多いという地理的な問題もあって、モンゴルのような砂漠を中心とする場所に比べて化石の発掘を難しくしていました。僕の研究は、砂漠があり世界有数の発掘国であるモンゴルでスタートしましたが、そこでネットワークができて、海外の研究者、当時の重鎮の先生たちにも理解やサポートをもらえたというのが大きかったです。

当時は日本だけじゃなくて、アジアにも恐竜研究者って若手がいなかったんです。で、大学院当時の師匠であるアメリカの大学の先生が、アジアの恐竜研究をもりあげよう、「アジアのトライアングル」を作ろうと、僕と韓国人と中国人が教育受けて、それぞれの母国に帰って、「ドン!」と恐竜盛り上げるということをしました。

―2005年には北海道大学に拠点を移して研究生活が始まりました。

今から思い返すとそれはいろんなことがありましたね。「カムイサウルス」(※1)がひとつ、大きなターニングポイントかと思います。それ以前も、研究の成果を出していましたが、「所詮は恐竜」という雰囲気でした。やっぱりカムイサウルスというのは地元北海道をあげてドン!と一斉に取り組んだので、あれは大学内も、博物館内も、北海道内でも、日本国内でもインパクトは大きかったんです。

―大規模な発掘調査が行われていたのは2013年、ちょうど10年前ですね。当時かなり盛り上がりを見せていました。

最初に「恐竜の化石かもしれないので鑑定してほしい」と連絡が来たのは2011年でしたが、2012年に準備して、2013年、2014年で全身骨格を発掘しました。そこからまた大きい波がきましたね。

カムイサウルスの発掘からはものごとが大きかったので、研究者だけではなくて、関係者、つまり発見者から発掘、そしてクリーニング作業、そのあとの町おこしだったり、日本の恐竜の研究を進めるのに、いわゆる自分たちの分野ではない人たちとのつながり、社会とのつながりというのが重要だということを、経験させてもらったと思います。

いまだに磨いている最中ですが、ほんとにすごいものを発見しました。よく僕が中心になったって言われますけど、そうではなくてみんなの力なんですよね。誰ひとり欠かせなかったので。あれはおもしろかったですよね。

※1 カムイサウルス…2003年以降、北海道むかわ町で日本最大の全身恐竜骨格が発見された。「むかわ竜」とも呼ばれる。中生代後期白亜紀のハドロサウルス科の恐竜とされる。日本の厳しい地理的条件から全身骨格の発掘が難しいとされていた中で、初めて全身骨格の発掘に成功し、2019年に新属新種として発表された。

「恐竜がどうやって鳥になったのか」を解き明かし社会に貢献したい

―小林さんは、どんな研究をされているんですか?

もともとは「食性」が専門でしたが、それは若い人に渡して、今は鳥への進化、「恐竜の鳥化」ってよく言うんですが、「恐竜がどうやって鳥になっていったのか」ということを研究しています。

でも、僕はなんでも屋です。

僕らの前の世代はなんでも屋の先生が多かったんですよ。化石だったらなんでもわかりますとか、脊椎動物だったらなんでもわかりますよとか。

―これからやりたいことや期待していることはありますか?

サッカーでいうとカズみたいな、年を取っても現役でいたいですね。おもしろいなと思ってるのは恐竜の「復活」です。いわゆる「ジュラシックパーク」のような、DNA操作で恐竜をよみがえらせるというのは最終形として、近い将来では、脳の構造や、食道、胃の構造だったり、羽や翼の起源などというものから、その恐竜の生活、生態を推測したいです。研究者の間では「生体復元」という言い方もしますが、今生きている動物たちも参考にしながら、化石から恐竜をほんとの、生の動物として見ていくということです。

僕らの時代の恐竜は怪獣とかゴジラとか、モンスター的な扱いで、ロマンありますねとかも言われるのですが…ほんとの「リアルサイエンス」として、まだまだこれからかなと思います。iPS細胞の山中先生もニュートリノの梶田先生もほんとに社会に貢献できるようなことをやってらっしゃるじゃないですか。僕ら恐竜も、「ロマンありますよね!」だけじゃなくて、ちゃんと「生命の進化を、メカニズムを理解する上ですごく大事ですよ」と伝えたいです。鳥という革命的な大進化を起こした動物が、いかに重力を克服して進化していったのか、その過程を知れるのは恐竜だけなんです。だからそこは、リアルサイエンスとして貢献できればなと思っています。

イノベーションは「真摯にサイエンスに向き合うこと」で起きる

―小林さんが研究者として大事にきたことは?

アメリカの一流の研究者たちは自分でスコップ持って自分で発掘するんですよ。いわゆる下っ端の仕事なんですが、誰よりも先に、誰よりも長く、発掘します。他人にやってもらうというより、やっぱりそれが楽しくてやっているから。研究だったり執筆だったりも自分でやるし、図作るのもやるし。解析も自分でやる。プロ野球選手でいえば、常に投げ続けることで、打ち続けることで自覚を持てるのと同じように、一流研究者であればあるほど自分の手でやり続けることで研究者としての自覚を持てるのだと思います。一流の研究者の姿勢を見て、僕もそれを見習ってきました。

―今と昔で、研究が大きく変わったと感じるところは?

昔はそんなに情報がなかったので、限られた情報の中でいろんな研究を進めていく時代でした。僕らの時代からどんどん情報化が進みましたが、僕が学生のころは、何冊の本を持ってるかが研究者の大事なところだったんです。だから大学院のときは給料の3割4割ぐらいは論文のコピー代に使ってました。そのぐらい、情報、論文、本を集めることにすごくお金と時間をかけてた時代ですね。そのなかで、自分のアイディアを探っていくことができたのだと思います。

今はどんどん情報がデジタル化されて、どこでも誰でも手に入る時代になってきて、それを把握しながら処理するっていう作業で、研究の細分化っていうのが起きているなと思ってます。今の学生は、情報に埋もれてしまったり、手法に溺れてしまったりしているんです。

ブラックボックスがあって、ソフトをぽんっていれたらデータが出てきて、その意味も分かっていなくて、でも、なんとなく形になってという。それに踊らされてるんですよ。そうすると「サイエンスの本質って分かってるのかな?」というのが結構多いんです。今はそういう時代になってきて。そういう意味では若い人たちって大変だなあと思いますよね。

昔は情報が少なかったので、大きなエッセンスをぽんぽんぽんと見つけて、その中で考えていくことができました。だから、発想が広がっていくんです。おもしろいことをどんどん大きな説として出したりできました。僕が古い人間だからかもしれませんが、「イノベーションというのは、ほんとに真摯にサイエンスに向き合うこと」なんだと思っていますね。

「直感的に感じる」ところから発見は生まれる

―「サイエンスに向き合う」というのは、もう少し言うとどういうことでしょうか?

個人的な意見ですけど「一次的な情報を手に入れる」ということですね。調査であったり、発掘であったり、標本を手で触ったりすることです。今は、論文を見て、文章や写真、三次元データというものがありますが、そういう二次的な情報を操作して結果を出してはいできました、というのがあるのではないかなと思うんですよね。

僕が「調査」をベースにしてるのは、最初のものを、しかも直感的に感じるのが大事だと思っているからです。たとえばアラスカの調査に実際に行ってキャンプすると、こんなに夏でも寒い、こんなに厳しい環境で動物が歩いていて、もうギリギリで生きてるわけじゃないですか。そういう中で恐竜がどうやって生きていたのかを、自然に触れることで考えることができます。

標本に関しても、新しい情報は実はたくさんあるのに、みんな見逃してるんですよね。標本を見て、手で触ることによる触感っていうのはすごい大事で、形を目で見るだけじゃなくて手で覚えていく。そうすると今まで見てこなかった視点でオリジナルのデータがどんどん出てきて、蓄積されていきます。そうすると自分の世界が出来て、そこから発表する情報、結果は説得力があるんですよ。そういう意味では、僕の中でサイエンスに向き合うっていうのは、やはり、自分のオリジナルデータを集めて向き合うというところですかね。

―小林さんがこれまで大事にされてきた言葉はありますか?

僕はいつも「Carpe diem(カルペ・ディエム)」と書いてるんですが、ラテン語で“今を大事にする”という意味です。いまは一瞬しかなく、時間はその連続ですよね。なのであまり先も見ずに、あまり過去も見ずに、いま最善を尽くす。そうすれば自然と形になってくるというのが、僕のサイエンスの根本です。