白亜紀の日本は“アマゾン”!? “復元”したら見えてきた9000万年前の恐竜時代

NHK
2022年8月22日 午前7:00 公開

ティラノサウルスやトリケラトプスなど有名な恐竜たちが進化を遂げた時代、白亜紀。しかし、それらの繁栄のピークだった白亜紀後期、日本にどんな環境が広がり、どんな生き物が暮らしていたのかは長い間謎に包まれていました。

近年、連続テレビ小説「あまちゃん」のロケ地として知られる岩手県久慈市で、当時の恐竜の化石が続々と発掘されています。さらに化石とともに見つかる久慈の特産品“琥珀(こはく)”には白亜紀の植物や昆虫がそのまま閉じ込められているものも見つかっています。

こうした発掘調査から、白亜紀の日本の環境はまるで“アマゾン”のようだったことが判明。1年中暖かく、多様な生き物が息づく当時の姿が見えてきました。

大発見!恐竜化石の発掘現場に潜入

恐竜や古生物の研究者たちがいま熱い視線を注ぐのは岩手県・久慈市です。取材班が向かったのは森の中にある発掘現場。特別な許可を得て通常は非公開の発掘調査に同行しました。

発掘の対象は「玉川層」と呼ばれる9000万年前(白亜紀後期)の地層です。日本が現在の列島の姿になる前の時代で、この時代の陸上生物の化石は日本では限られた場所でしか見つかっていません。

早稲田大学の平山廉(ひらやま・れん)教授は、地元の博物館と共同で2012年から毎年発掘を行ってきました。

「当時の生態系というのをほぼそのまま化石として残してくれる非常に世界でも珍しい場所で、ゆくゆくは世界自然遺産になってもいいのかなと思っています」(平山さん)

発掘調査が始まるとすぐに化石がザクザクと出てきました。玉川層の地層から最も多く見つかるのはカメの化石。カメの甲羅は丈夫にできているので、化石として残りやすいのです。さらに同行取材中に、茶色く細長い化石を発見。長さ15センチほどの薄い骨で、中に空洞があることから、平山さんは翼竜の翼の一部と判断しました。

(翼竜とみられる化石)

これまでに玉川層から見つかった脊椎動物の化石は30種類以上、2351点にのぼります。全長20メートルほどの植物食恐竜・ティタノサウルスの仲間の歯の化石や絶滅したサメ・ヒボダスの化石も見つかっています。

中でも大発見だったのが、2018年に発掘された「ティラノサウルス類の歯」。見つかったのは、9ミリメートルほどの歯の一部でしたが、断面がティラノサウルスの前歯でしか見られない「D」の字形だったのです。推定された体長はおよそ3メートル。

有名なティラノサウルス・レックス(Tレックス)が全長13メートルであるのと比べるとかなりの小型だということが分かります。

「当時、ティラノサウルス類が久慈だけではなく日本の広いエリアに生息していたと考えて間違いありません。世界的にも9000万年前の時代のティラノサウルス類の化石はほとんど見つかっていませんでした。化石の空白の時代を久慈の化石が埋めてくれる可能性があります」(平山さん)

(ティラノサウルス類の歯の化石)

(ティラノサウルス類の復元模型)

手で掘れるほど軟らかい地層!

久慈市で相次ぐ化石の発見。それを後押ししているのは発掘対象の地層、玉川層の性質です。通常、古い時代の地層は熱や圧力の影響を受け非常に固くなっているため、発掘はハンマーや重機、時にはダイナマイトを使って行われます。

一方玉川層は、なんと手で掘れるほどです。偶然、この地域が地殻変動による熱や圧力の影響を免れたことで、軟らかいまま残っているのです。そのため細かい化石でも見つけることができます。

玉川層の地層は久慈市の広範囲に広がっており、一部は開放され市民が発掘体験をすることもできます。そのため一般の人が大発見をすることもあります。

実は、2018年にティラノサウルス類の歯を見つけたのも、岩手県内の男子高校生。立ち寄った採掘体験で大発見をしたといいます。2019年に国内初となる古代ザメのトゲの化石を発見したのも県内在住の女性でした。

琥珀から恐竜時代の環境が分かる!?

恐竜が暮らしていた白亜紀後期、日本はどんな環境だったのでしょうか。

世界全体の平均気温は現在より10度前後高く「暖かい時代だった」と言われていますが、当時の化石があまり見つかっていない日本の環境はこれまでよく分かっていませんでした。

それを知る大きな手がかりとして一躍注目を浴びているのが、化石とともに発掘される久慈市特産の琥珀(こはく)です。

琥珀とは、樹木から流れ出た樹脂が化石となったものです。実は、久慈市は日本一の琥珀産地。推定埋蔵量は5万~6万トンとされています。

(久慈産の琥珀)

久慈で多くの琥珀が取れる理由にも、地質の特徴が関わっていると考えられています。

琥珀のもとになる樹脂は、樹木が風や雨などで表面が傷ついたときに傷口を守るために分泌されるもの。そうした樹木が、土砂崩れなどが原因で海まで流されると、土砂に覆われた状態で海底に堆積。密封状態のまま数千万年の歳月を経ることで、化石化して琥珀になります。

そして、その後の地盤の隆起や海面水位の変動によって、再び地上に現れたものを私たちは手にすることができるのです。

ほとんどの場合、琥珀は長い年月の間に地殻変動による熱や圧力などの影響を受けて変質し、消失してしまいます。ところが、久慈は偶然にも地殻変動の影響を免れた場所であったため琥珀が残されたのです。

専門家が詳しく調べたところ、久慈の琥珀のもととなっていた樹木は「アラウカリア」という種類だと分かりました。いまも熱帯地方などに生育しているナンヨウスギの仲間です。このことから当時の久慈はかなり暖かい気候だったと推定できました。

(アラウカリアの仲間)

新種続々!琥珀から出てきた生き物たち

琥珀から分かるのは、もととなった樹木の種類だけではありません。

琥珀は、中に植物や昆虫を生きたまま閉じ込めて、今に伝えてくれるタイムカプセルでもあるのです。2020年に発見された久慈の琥珀の中から、白亜紀の環境をさらに詳しく知る手がかりとなる大発見がありました。

その琥珀に閉じ込められていたのは、コケ。琥珀に守られたことで腐敗せず、当時とほとんど変わらない状態で見つかったのです。コケの研究者・片桐知之さん(服部植物研究所所長)が詳細に調べたところ「フタマタゴケ」の仲間であることが分かり、「クジフタマタゴケ」と名前が付けられました。

(琥珀の中のクジフタマタゴケ)

木陰に守られた木の幹を好むフタマタゴケの特性から、片桐さんは当時の久慈には森林が広がっていたと推測します。

「フタマタゴケの仲間は、森林の中に生育する種類のコケで樹木の樹皮や枝に着生して生育しています。今回見つかったコケも当時の白亜紀の森林の中に生育していたと考えることができます」(片桐さん)

琥珀の中には小さな虫が入っているものもあります。「虫入り琥珀」と呼ばれ、久慈ではこれまで800点以上見つかっています。こうした虫たちも白亜紀の環境を知る手がかりとなります。

その1つが、大きさわずか1センチほどのトガマムシの仲間。鋭利な鎌である“利鎌(とがま)”という言葉が由来の昆虫で、前足に鋭い鎌を持っています。琥珀に閉じ込められた昆虫の種類を同定した大阪・箕面公園昆虫館館長の中峰空さんは、当時の環境をこう考えています。

「トガマムシは鎌状の前足を使って他の昆虫を捕らえていたと考えられています。捕食性の昆虫がいたということは、小さい昆虫がたくさん生息していたと推測され、豊かな環境だったのではないかと想像できます」

(トガマムシ入り琥珀)

白亜紀の花粉が地層に残されている

コケや昆虫以上に小さな物を手がかりに、白亜紀後期の環境を知ろうとする研究もあります。

静岡大学助教のルグラン・ジュリアンさんが調べているのは、地層に含まれている「花粉」です。実は、植物の花粉の外壁は頑丈で分解されにくく、長い年月そのままの形で残ります。そのため岩石に含まれる花粉を詳細に分析すると、当時、どのような植物が分布していたかが分かるのです。

岩石を大きさ1ミリほどになるまで砕き、薬品を加えて余分な物質を除去。さらにその後、ろ過や遠心分離をすることで、わずか30マイクロメートルほどの花粉を見つけ出します。地道な分析の結果、久慈の玉川層からは80種類以上の花粉が見つかり、白亜紀の久慈にあった植物が明らかになってきました。

(発見された花粉)

その中には海岸や沼地に分布していたと考えられる「ケイロレピディア科」の樹木(現在は絶滅)、そして、ソテツのような見た目で水辺を好む「ベネチテス」という植物などがありました。ルグランさんはこう推測します。

「久慈はマングローブのような環境だったと考えられます。淡水性と海水が混ざり合ったようなところです」

マングローブとは熱帯地域で淡水と海水が混ざった汽水域に生える植物の総称です。魚介類やそれを食べる動物が多く集まるため、生き物の多様性が特に高い場所とされています。

苔むしたアラウカリアの森が広がり、川の河口部にはマングローブのような群落が生い茂る。久慈で恐竜化石の発掘調査を行ってきた平山さんは当時の環境をこう考えています。

「今の日本とは全く違う気候で、年中暖かかったはず。“アマゾン”のような環境だったのではないか」

(ベネチテス(左)/ケイロレピディア科(右))

復元! 白亜紀ニッポン

久慈での発掘調査で得られたさまざまな科学的な知見をもとに、番組では古代生物の復元画家・小田隆さんに依頼し、当時の久慈の復元画を制作しました。

マングローブのような植物が広がる河口で、水辺の生き物たちが命をかけた争いをしています。

ティラノサウルスのすぐ近くで、「ヒボダス」という古代ザメを捕らえているのは大きなワニ。ティラノサウルスのすぐそばで、サメの化石が見つかっていることから、こうしたシーンが実際に繰り広げられていたのではないかと推測されます。さらに水中には、久慈で最も多く見つかっている水生のカメの仲間もいます。

奥の森の中には(復元画のティラノサウルスの左)、久慈の地層から歯の化石が見つかった植物食恐竜・ティタノサウルスが歩く姿があります。ティタノサウルスは全長20メートルほどで、日本で見つかる最大級の恐竜。こんな巨大な生き物もまた、久慈に暮らしていたのです。

一年を通して暖かく、さまざまな命があふれる世界。それが、白亜紀の日本の姿だと考えられるのです。