農業、医療、宇宙探査まで!? 最新研究でわかった“地中の王”ミミズの「真の実力」

NHK
2022年5月11日 午前7:00 公開

見た目や動きが苦手な人も多いミミズですが、さまざまな分野の専門家がこの原始的ともいえる生き物が持つ驚異の実力に熱い視線を注いでいます。

土壌を豊かにしてくれることは知られていますが、イトミミズの活用で水田の雑草を劇的に抑え、大幅に農作業を軽減できることが分かったり、ミミズの体内から血栓を分解する能力のある酵素が見つかったりするなど、農業・医療の分野で人命を救う可能性への期待が高まっています。さらに、なんと土の中を自在に動くミミズを模したロボットをこれからの月や火星など“宇宙探査”で大活躍させよう、という研究まで進んでいます。

明らかになってきた驚きの能力から“地中の王”ともいうべきミミズ。その真の実力に迫ります。

「歴史上最も重要な生物」と評されたミミズ

ミミズが持つパワーの解明に並々ならぬ情熱を注いだのが、進化論で知られるあのチャールズ・ダーウィンです。生涯最後の著書となった『ミミズと土』の中で「この取るに足らない生物よりも、世界にとって重要な役割を果たしてきた生物は他にいないだろう」という言葉を残しています。

そう述べる大きな理由が、土や枯れ葉などを食べ、フンとして地表に出すというミミズ独特の行動です。今では多くの人が知っている習性ですが、ダーウィンは長い年月をかけてミミズを観察し、どれほどのスピードで土を掘り返すのかを丹念に調べ上げ、私たちが立っている土の大地はミミズがいなければ作られなかったと考えました。

そして実はこのことが古代の遺跡を守るのに重要な役割を果たしたのではないかとも考えます。ミミズが動き回ることで土が軟らかくなり、排出したフンが地表を覆うことが、遺跡や遺物を徐々に土に埋め、風化を免れさせることを助けた、というのです。

その後の研究によってダーウィンのこの説は決して荒唐無稽なものではないことが明らかになってきました。ミミズは土の中で暮らす動物の総重量の50~80%を占め、日本国内の最も多い報告では1平方メートルの土地に1200匹以上いたといいます。そして、ミミズは毎日体重の3分の1以上を食べて排出する大食漢。もし1200匹のミミズがいたとすると、1年に作り出す土は1平方メートルあたりおよそ15キロにもなるのです。

珍ミミズ続々!世界では6000種類も

ミミズの分類学が専門の栃木県立博物館の南谷幸雄主任研究員がミミズ研究の魅力の1つに挙げるのが、その種類の多さです。世界にはおよそ6000種類が知られていますが、毎年新種が100種類ほど追加されているといいます。

私たちがイメージする赤みがかったあのミミズ以外に、いったいどんなミミズが生息しているのでしょうか。サイエンスZERO取材班は南谷さんに同行して珍しいミミズの探索に向かいました。

まず向かったのは和歌山県の山深い森の中です。落ち葉の下で発見したのは青く光る大きなミミズでした。「シーボルトミミズ」とよばれるミミズで、江戸時代に日本で活躍した医師のシーボルトがあまりの美しさにオランダに持ち帰ったことにちなんで名前が付けられました。ミミズ界の瑠璃色の宝石とも呼ばれ、西日本の限られた地域でしか見ることができません。

滋賀県の田んぼ周辺の水路の溝で見つかったのが、体をなでると体長が伸びて大きいものでは1メートルを超えるミミズです。「ハッタミミズ」という種類で、南谷さんによると、栄養分の少ない泥の中で生息するために、できるだけ多くの栄養を吸収しようとして腸が長くなったのではないかということです。

南谷さんはミミズが自然界で果たす重要な役割について次のように指摘します。

「土さえあればありとあらゆる場所に暮らせるため、ミミズはそれぞれの土地で多くの生き物の食べ物となり、生態系を下支えしています。陸上動物のモグラやイノシシなどはもちろん、魚までミミズを食べていることが分かってきました。2020年に発表された研究では、利根川の下流域のウナギの胃の内容物を調査したところ、なんとその半分がミミズで占められていました」(南谷さん)

さらに植物もミミズの恩恵を受けていることが分かってきました。実は土の中に含まれている微生物は普段ほとんどが休眠した状態です。しかしミミズが土と一緒に微生物を食べて体内に取り込むと、適度な水分や温度が与えられて活発に活動するようになります。フンとともに出てきた微生物たちは落ち葉や土の分解を早め良い土を作るというのです。この働きは「眠った姫をキスで目覚めさせる王子」になぞらえて「眠り姫仮説」と呼ばれています。

「ミミズは動物たちの食べ物になり、植物にも栄養を与えるまさに生態系の核です。回り回って人間にとってもなくてはならない存在だと思います」(南谷さん)

ミミズが有機農業に革命を起こす

ミミズが持つ能力をもっと人間の暮らしにも役立てられないか。そう考えてミミズの能力を応用する研究がさまざまな分野で始まっています。

その一つが田んぼの雑草を減らす研究です。

農家にとって雑草は作物を育てる上で悩みのタネ。特に除草剤など農薬を使用しない有機栽培では除草作業が大きな負担になっています。

過酷な暑さとなる日本の夏では農作業中の熱中症により、多い年には全国で30人近くが命を落としています。鳥取県農業試験場、有機・特別栽培研究室長の宮本雅之さんは、雑草を抑え農家の命を救う鍵となるのが「土を食べてフンを出す」というミミズの習性だと話します。

活躍するのは田んぼに生息するイトミミズです。イトミミズは頭を泥の中に入れて土を食べ、お尻を上に出してたくさんのフンを排出します。このフンはクリーミーな泥の層となって田んぼの表面にたまります。すると雑草の種子は徐々に泥の中に埋もれ、太陽の光が届きにくくなるため雑草が成長しにくくなるというのです。試験場が行った調査では、多いところで1日3ミリの層が積もるという結果が出ました。

イトミミズを増やすためには、通常より3か月早く田んぼに水をためるだけ。例えば、6月に水を入れますがその時期を3月に早めるだけで、除草剤を撒いたり草取りをしたりせずとも雑草を劇的に減らせることができたのです。

「有機栽培ではありえないくらいの状況でした。『魔法のようだ』という農家さんもおられます。天敵の雑草から農家の命を救うまさに救世主です」(宮本さん)

医療や食糧難も救う!?

新潟県長岡市にある長岡工業高等専門学校には全国でも珍しいミミズ専門の研究室があります。

准教授の赤澤真一さんは、ミミズが持つ「ルンブロキナーゼ」という心筋梗塞などの原因となる血栓を分解する酵素を利用した製品の開発を行っています。また、ミミズの体内で、貧血の治療薬の成分となるタンパク質を微量ながらつくり出せることを発見するなど、この生物の可能性を追いかけ続けています。

「ミミズは世界中の研究者が簡単に手に入れられるということが大きなメリットです。ものすごく扱いやすくて飼育しやすい。本当に幅広いポテンシャルを秘めた生き物です」(赤澤さん)

さらに世界では、医療以外にも高タンパクな栄養源として食糧難を救う可能性も考えられています。

宇宙探査で“ミミズロボット”が活躍!?

ミミズをよく観察すると、体節と呼ばれる輪状の部位を縮めたり伸ばしたりして移動していることが分かります。体節を縮めて太くすることで地面との接地面を増やし、この部分を支えにして前方の体節を伸ばすことで前進するのです。

この動きはミミズ特有の「蠕動(ぜんどう)運動」と呼ばれる運動方法です。ヘビなどは体をくねらせて移動するため必要な空間が大きいのに対し、ミミズは体が通る隙間さえあれば土の中を自由自在に動き回ることができます。

この動きを忠実に再現した「ミミズロボット」を開発したのが、中央大学の中村太郎教授です。

ミミズロボットの活躍が期待されるのが下水管や工場の配管などの点検です。管が細く複雑に入り組んでいるところは内部を確認することが難しく、これまでほとんど点検が行われてきませんでした。しかし、ミミズロボットにカメラを取り付ければ、ロボットが管の奥深くまで入ることができるため、老朽化の状態などを確認することができるといいます。

「これからインフラの老朽化はさらに進むと思うので、その整備にミミズロボが役立つのではないかと思います」(中村さん)

さらに、中村さんの研究室ではJAXAとの共同研究で、ミミズ型の「月惑星探査用ロボット」を開発しました。ミミズの動きは宇宙でも力を発揮する可能性が高いというのです。

月の重力は地球の6分の1しかないため、重力を使って進む通常の掘削機は月面ではうまく掘り進めることができません。

一方、ミミズ型ロボットは掘った壁の側面を支えにして進むため、低重力の環境でも安定した力を出せます。さらにミミズのように掘った土をお尻から出せば、より深く掘り進むことができるのです。実際に月の重力下で実験を行ったところ、6時間で1メートル掘ることができました。実用化できれば、月の起源の解明につながる地質調査も可能になるかもしれません。

開発当初は、単純にミミズの動きをまねようとロボットを製作した中村さんですが、活用の場が思いもよらない形でどんどん広がっているといいます。

「ただ動きを再現してみようという気持ちがきっかけでしたが、作ってみたらこんなにも活用法があり、作った自分でも驚いています。しかしよく考えれば、ミミズは掘ることに関してはスペシャリスト。力を借りない手はありません」(中村さん)

見直されるミミズの実力

ミミズはおよそ4億年前の古生代からほとんど形を変えずに生きてきました。あまりに身近で目立たない存在のために注目されていませんでしたが、研究が進むにつれその驚くべき能力が明らかになってきています。

ミミズの分類学者・南谷さんは、ミミズがなくてはならない存在だということを多くの人に知ってもらい、さらに研究の裾野が広がることを期待しています。

「ミミズは見た目で損をしているが、考えられている以上にすごい力を持っています。見ていて飽きないし、いろんな働き、いろんな動きをしてくれるので、わたしはずっとミミズを追いかけていくことになると思います。一方で、まだまだ分かっていないことも多く、研究者も少ないので、ぜひ若いミミズの研究者がどんどん生まれてほしい」(南谷さん)