どうする脱炭素!? 地球を温暖化から救うために知っておくべき二酸化炭素回収技術

NHK
2021年11月30日 午後0:27 公開

人類にとって最大の課題のひとつ、地球温暖化。

今すぐに大胆な対策を講じなければ、後戻りできない「深刻な事態」に陥るとして、世界中が温暖化の原因となる「温室効果ガスの排出削減」に挑んでいます。日本も、2030年度に温室効果ガスの排出量を46%削減する目標を掲げていますが、果たして実現することはできるのでしょうか。

そんな中、世界各国が競うように開発を急いでいるのが「二酸化炭素を回収」する技術。本格化すれば、2050年に温室効果ガス排出量を実質ゼロにするかもしれない「脱炭素の切り札」「脱炭素の救世主」として期待が高まっています。

どんなすごい技術なのか。課題は何なのか。人類の危機を救おうとする脱炭素技術開発の最前線を、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の山田宏之さんと炭素回収技術研究機構(CRRA)機構長の村木風海さんが徹底解説します。

増加が止まらない! 二酸化炭素排出の現状

世界の二酸化炭素排出量を見てみると、産業革命以降上がり続け、今では年間335億トンに。そのうち日本は10.8億トンで、世界で5番目に多く排出しています。では、二酸化炭素の出どころはどこか。発電所などが最も多く、工場、自動車などの運輸関連、そして家庭と続きます。

「再生可能エネルギー」や「エコカー」など様々な分野で技術開発が進んでいますし、「二酸化炭素を出さない生活」を心がけている人も増えています。しかし、人間が活動を続けていく限り、「排出量を大幅に減らすことは難しい」のも現実です。

そこで注目が集まっているのが、「排出された二酸化炭素」を「回収」する技術。
その一つが、工場や製油所などの施設から出る二酸化炭素を「集めて地下に埋める」というCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)と呼ばれる方法です。二酸化炭素が発生したとしても、大気中に放出されなければ、二酸化炭素の増加は抑えられると言うわけです。

北海道にあるCCSの施設では、2016年から官民一体となったプロジェクトによる二酸化炭素圧入の実証実験が行われています。製油所から排出されるガスを、パイプラインを通じて隣接するCCSの施設に運びます。そこで「アミン溶液」という「二酸化炭素の吸着剤」を使って、二酸化炭素を回収し、地下に埋めるという実験です。実験開始から3年半で、目標の「30万トンの二酸化炭素の貯留」に成功しています。

そしてもう一つ、「実用化できれば、温暖化問題の解決に大きく貢献できる」(山田宏之さん)、「もし成功すればミラクルな未来が待っている」(村木風海さん)と熱い期待が寄せられているのが、DAC(Direct Air Capture)と呼ばれる技術です。大気中に分散する二酸化炭素を回収しようという挑戦的な試み。でも、いったいどうやって回収するのでしょうか。

散らばった二酸化炭素をどうやってつかまえる!?

大気中の二酸化炭素を回収し資源に変えていく試みが、政府が主導する“ムーンショット”という大型プロジェクトの中で始まっています。ムーンショットプロジェクト部長の山田さんは、狙いをこう説明します。

「空気中の二酸化炭素の濃度は0.04パーセントと非常に低く、回収するのは容易ではありません。また大量に回収し分離するためには、ばく大なエネルギーが必要です。二酸化炭素を回収するために、たくさんの二酸化炭素を排出してしまっては意味がありません。そこで、『省エネルギーで回収する技術の開発』が急務となっているのです」

プロジェクトでは、50件を超える応募の中から、「実現の見込み」や「イノベーションを起こす可能性」が高い革新的な研究を選び、二酸化炭素回収に挑むことにしました。

選ばれたのは、「二酸化炭素を超薄い膜でつかまえる」「蜂の巣のような構造で吸い込む」「コンクリートに閉じ込める」「二酸化炭素を吸収して資源に変える能力のある微生物を活用」など、革新的なものばかりです。

画期的な研究の「現在地」

地球環境産業技術研究機構の余語克則主席研究員は、従来のアミン に改良を加えて「特製のアミン」を作りました。従来のアミンより低エネルギーで二酸化炭素を回収できると言います。

「詳しい改良ポイントは秘密」とのことでしたが、特別にイメージを教えてくれました。新・アミンは、弱い磁石のようにゆるく二酸化炭素と結合しているので、引き剥がすのにエネルギーがあまり必要ないと言います。

従来は、引き剥がすのに100度以上の熱が必要でしたが、新・アミンの場合は、60度でじゅうぶん。60度の熱は、多くの工場などで有効活用されずに捨てられています。この熱を使えば、新たに多くのエネルギーを消費する必要がないのです。

そこにもう一つ、エネルギー消費を減らす画期的なアイテムを組み合わせようとしています。

その秘密兵器は、金沢大学の児玉昭雄教授が開発した、蜂の巣のような「ハニカム構造」のローター。空気が通りやすく、表面積が大きいハニカム構造に、新しいアミンを塗ることで、回収・分離するためのエネルギーを大幅に下げようと言うのです。

2025年以降、このシステムを大型化して実証実験を行い、年間約550トンの二酸化炭素の回収を目指しています。東京ドーム13個分の森が1年間に吸収するのと同じ量の二酸化炭素を減らすと見込まれています。

二酸化炭素を通す不思議な極うす膜

九州大学の藤川茂紀教授が開発したのは34ナノメートルという驚異の薄さの膜。膜の主な成分は、コンタクトレンズなどで使われる「シリコンゴム」。この膜に空気を送ることで二酸化炭素を集めることが出来ると言います。

藤川教授は、二酸化炭素を通して集めることができる不思議な膜の仕組みをこう説明します。

「二酸化炭素と“相性が良い”材料で膜を作ることで、二酸化炭素だけが通っていきます」

相性が良いとはどういうことでしょうか。二酸化炭素を構成している炭素と酸素は、電気的にそれぞれプラスとマイナスに偏った状態です。そこに電気的に相性が良い膜があると、膜のプラスの場所に二酸化炭素のマイナス、膜のマイナスに二酸化炭素のプラスが引き寄せられるため、二酸化炭素は膜にはじかれず、吸い寄せられるようにして膜を通ることができるのです。

また、膜の薄さも重要なポイントで、厚ければ二酸化炭素が通過するのに時間がかかりますが、薄いとたくさん回収することができるため、食品用ラップのおよそ300分の1という究極の薄さを実現したのです。

集めた二酸化炭素は、特殊な変換ユニットに組み込むことで、「エタノール」や「エチレン」などの「資源となる化合物」に変えて活用することも想定しています。「変換ユニット」と「極うす膜」をセットにして、どこでも手軽に二酸化炭素を回収しながら資源に変えるシステムの開発を目指しています。

「化学薬品とか高温高圧の環境を作らなくて済むシンプルな構造。低コストを実現する可能性は高いと思います。」(山田さん)

村木さんも、「エタノールなどの資源に変えることができれば、ロケットやF1レーシングカーの燃料などにも使えるのではないでしょうか。使い道はたくさんあると思います」と期待を寄せています。

コンクリートに封じ込める!?

建物を壊す際に出る大量のコンクリート廃材に、空気中の二酸化炭素を封じ込めようという研究も進んでいます。

砕いた廃コンクリートを水の中に入れると、溶け出した炭酸カルシウムに二酸化炭素が結びつき、炭酸水素カルシウム水溶液が出来ます。この水溶液にさらに処理を加えると、炭酸カルシウムが接着剤として働いて固まり、新たなコンクリートに生まれ変わります。

「コンクリートの原料であるセメントを作る際に、1400度くらいの温度が必要となるため、どうしても二酸化炭素を大量に放出してしまいます。世界の二酸化炭素排出量の7パーセントほどがセメントを作る過程で出ているという報告もあります」(山田さん)

2050年時点で、私たちが使用するコンクリートの半分を、「二酸化炭素を封じ込めたコンクリート」にした場合、世界全体でおよそ21億トンもの二酸化炭素を減らせるという試算があるそうです。

「実現できるのか?」ではなく「どう実現するのか」

  炭素回収技術研究機構(CRRA)機構長、村木風海さんは、発明家でもあり、
スーツケースサイズの二酸化炭素回収装置(DACマシーン)を開発しています。

その名も「ひやっしー」。ボタンを押すと、穴から空気が吸い込まれ、二酸化炭素が取り除かれて外に出て行く仕組みです。世界最小のこのDACマシーンで、年間5キロの二酸化炭素を集めることができるそうです。

「温暖化と聞くと絶望的な気分になるかもしれないが、ものすごくワクワク出来るチャンスでもあります。二酸化炭素を集めて、燃料や身の回りのものを作れるようになれば、地球を守ることにつながる。人間は、想像できることは何でも実現できると思っている。出来ない理由ではなく、出来る理由を探したいと思います」(村木さん)

ムーンショットプロジェクト部長の山田さんは、これからの課題をこのように
語ってくれました。

「私たちは、2050年のカーボンニュートラル(二酸化炭素排出実質ゼロ)の目標を目指して、技術開発を進めていきます。ただし、せっかく二酸化炭素を回収しても、それ以上の二酸化炭素を排出していたら、いつまでたっても状況は好転しません。皆さんひとりひとりの努力が積み重なって、トータルで二酸化炭素の量を減らすことに繋がっていくと思います」(山田さん)