もう食べずにはいられない…!? 栄養満点で地球に優しい「昆虫食」の“底力”

NHK
2022年2月18日 午前9:00 公開

「昆虫食」が世界中で大ブームになっているのをご存じでしょうか。“サソリのコロッケ”や“コオロギのマカロン”といった斬新な昆虫料理が続々と登場し、企業や研究者たちが相次いで昆虫食の研究に参入しています。

ブームのきっかけは、2013年に国連食糧農業機関(FAO)が出した報告書です。2050年には人口が90億を超えると予想、深刻な食糧不足に陥るとともに家畜生産による環境負荷が大きくなると指摘しました。そして、その解決策の一つとして昆虫食が提示されたのです。

昆虫は環境に優しい方法で飼育することが可能なことに加え、豊富なたんぱく質を作り出してくれるというありがたい生き物です。昆虫が持つ驚きのポテンシャルと、地球の未来を見据えた研究の最前線を取材しました。

“たんぱく源”として期待される昆虫食

「昆虫食」と聞くとどんなものをイメージしますか?

地域に伝わるイナゴや蜂の子の佃煮といった伝統食がありますが、最近ではクッキーにしたものやパリパリにローストして食べやすくしたものが手軽に買えるようになっています。さらに、昆虫食レストランでは、さまざまな料理に昆虫を取り入れたメニューが考案されています。例えば、ある昆虫食レストランでは、「カイコ入りガパオライス」や「コオロギのスープ」、「スーパーワーム添えサラダ」などのメニューが人気だそうです。

昆虫食のメリットは、手軽に“たんぱく質”を摂取できることです。例えば、ガパオライスに加えられた8匹のカイコのサナギと粉末状のコオロギに含まれるたんぱく質の量は約3グラムで、ハム1枚半に相当します。

昆虫食の研究を行う東京農工大学准教授の鈴木丈詞さんは、昆虫のたんぱく質は、家畜の牛や豚、鶏と比べても引けを取らないと言います。

「昆虫は牛や豚、鶏といった家畜と同等で、2割ほどのたんぱく質を含みます。さらに、乾燥させると濃縮されて、たんぱく質は6~7割になります。いわば『次世代たんぱく質』と言えます」(鈴木さん)

さらに、昆虫には、たんぱく質以外にも亜鉛や鉄分、カルシウム、マグネシウムといったミネラルのほか、ビタミン、不飽和脂肪酸などの栄養素がたっぷり入っています。一方で、糖質が少ないという、とてもヘルシーな食材ということで期待されているのです。

家畜との比較に見る、虫たちの巧みなエコ術

昆虫食の最大の利点は、牛や豚などの家畜と比べて飼育の際の環境負荷が桁違いに小さいことです。コオロギの場合、食べられるようになるまで育てるのに必要なエサの量は、牛と比べると5分の1、水の量は77分の1。さらに、飼育によって排出される温室効果ガスは、なんと1780分の1ほどで済んでしまうのです。

例えば、およそ500匹のコオロギを、ふ化から成虫になるまで育てるのに必要な水の量はわずか500ミリリットルほど、つまりペットボトル1本分で済みます。これは昆虫がわたしたち哺乳類とは異なる仕組みで生きていることに理由があります。

それは、食べ物として取り入れたタンパク質やアミノ酸を分解する過程で出る「アンモニア」の処理の仕方です。哺乳類は、毒性のあるアンモニアを「尿素」に変えて、大量の水を使って、尿として排出します。

一方の昆虫は、アンモニアを「尿酸」に変換します。尿酸は、水に解けにくく、半固形状、あるいは固形状の状態で、糞と一緒に排出されます。つまり、アンモニアを体外に排出するために、水を大量に利用することはないのです。

さらに、鈴木さんは、感染症の観点からも家畜とは違う昆虫食のメリットにも注目しています。

「昆虫は、哺乳類と系統的に非常に離れたところに位置しているので、既存の家畜や人に共通する人獣共通感染症のリスクが低いのではないかと考えられています」(鈴木さん)

昆虫食は“環境に優しいたんぱく源”として国内外で注目され、現在、日本では内閣府が主導する大型研究プログラムである「ムーンショット型研究開発制度」のテーマの1つとして、多くの研究者が参入して研究が始まっています。

驚きの方法でたんぱく質を作り出す虫たち

家畜の牛や豚、鶏と比べても引けを取らない昆虫のたんぱく質。

実は、昆虫たちがこのたんぱく質を作り出す方法は私たちとは大きく異なります。しかも、昆虫の種類によってその戦略は実にさまざまです。ユニークな昆虫の戦略をいくつかご紹介しましょう。

まずは、5千年以上前から人間に飼育されてきたカイコです。繭を作るために幼虫が吐く糸は、たんぱく質でできた絹糸の原料になります。

このカイコに特有のたんぱく質が体内で作られるとき、力を発揮するのが「GOGAT」と呼ばれる酵素です。カイコの体内で、食べたものが分解されると、毒素であるアンモニアが発生します。通常は無毒化され、尿酸となって排出されますが、GOGAT酵素が働くとアンモニアはグルタミン酸に姿を変え、最終的にたんぱく質が作られるのです。

次に紹介するのは、シロアリです。日本では木材を食い荒らす害虫として有名ですが、地球上に最も多く生息する昆虫と言われ、動物たちにとっての重要なたんぱく源です。

一部のシロアリの仲間は、なんと空気中からたんぱく質を作り出すことができます。その秘密は、シロアリの体内にあります。腸の一部には原生動物が共生していて、さらにその中に、細菌がいるのですが、その細菌が空気中の窒素からアミノ酸を合成してくれます。シロアリはそのアミノ酸を吸収して、たんぱく質を作り出しているのです。

もう1つご紹介したいのがトノサマバッタです。体長の20倍もジャンプしたり、長距離を飛び続けたりするなど、身体能力の高さは昆虫界でも随一で、それを支えているのが後ろ脚や羽のついている胸を中心にぎっしり詰まった筋肉です。

筋肉を作るのに必要なのがたんぱく質ですが、バッタの戦略はとても単純で、食べ物からたんぱく質を得ることです。しかし、バッタの主食であるイネ科の植物は、たんぱく質をそれほど多く含んではいません。そこで、トノサマバッタは、大量に食べる“大食漢作戦”でたんぱく質を体に蓄えています。最初の脱皮までの最もたんぱく質を必要とする成長期には一日に自分の体重の3倍もの量を食べるのです。

たんぱく質を作り出す方法にこれだけ個性があるのは、昆虫自体が非常に多様性に富んだ生き物だからです。昆虫の種類は、現在知られているだけでも100万種類にものぼり、地球上の生物種の半分以上にもなります。様々な昆虫たちが、それぞれの環境に適した戦略を作り上げてきたと考えられるのです。

昆虫食の研究を行う東京農工大学准教授の鈴木丈詞さんは次のように話します。

「虫が多様だということは、次々と新しい環境に順応してきた証です。まず、昆虫が小型で様々な環境に適応しやすかったことです。そして、生育に応じて変態することで、姿や食べ物を変えることができ、競合する虫のいないニッチな環境に入り込むことを可能にしました。さらに、羽を持ち移動できることもニッチな世界への進出につながりました。こうして様々な環境で生きていくための、多様な戦略と機能を持ったのです」(鈴木さん)

栄養不足から救う!地域に根付いた昆虫食

東南アジアの国、ラオスの農村部で行われた栄養調査によると、子どものおよそ3分の1が栄養不足による低身長でした。カロリーやたんぱく質は足りているものの、ミネラルやビタミン、脂質が不足していたのです。

そこで、脂質を補うために提案されたのが、ヤシオオオサゾウムシの養殖です。この幼虫は6割が脂肪でできていて、この地域にぴったりの昆虫です。しかも、味もよく、子どもたちがつまみ食いをするほどの人気ぶりです。

飼育も簡単で、たらいに入れてわずか5週間ほどで食べ頃を迎えます。また、エサとなる芋の栽培も自分たちで行うことで、村の中で飼育を完結できるようになりました。

ヤシオオオサゾウムシを飼育する村の女性は、この養殖に期待をしています。

「昆虫の養殖はとても新しい試みですが、村人の多くが非常に喜んでいます。生産量を増やすことで、食べるだけでなく、村の新しい収入源にもつながると思い、期待しています」(村の生産者の女性)

鈴木さんは、昆虫は小さいので、軽労働で養殖でき、飼育する人の負担が少ないこともメリットのひとつだと語ります。

「昆虫の養殖はバリアフリーな産業になるだろうと考えています。高齢者や障害者が農業に従事する農福連携という言葉がありますが、昆虫の養殖は、老若男女が生きがいを持って暮らせる社会づくりに資する産業になるのではないかと期待しています」(鈴木さん)

食品ロスを利用すれば一石二鳥!

鈴木さんの研究室では今、「食品ロス」を利用した昆虫のエサの研究に力を入れています。食用として人気のコオロギの養殖には、主に養鶏飼料が使われていますが、その代わりに、本来食べられるのに捨てられてしまう食品を利用しようというのです。もし、食品ロスだけで育てられれば、エサの費用もかからない上に、廃棄物も減らせるメリットまであります。

もともとコオロギは雑食性で、植物性でも動物性でも何でも食べるという性質があります。そこで、研究室では、捨てられているキャッサバという芋の葉やヌカ、フスマ、オカラといった捨てられがちなものをコオロギに与えて、成長速度などを調べています。

その結果、コオロギは、食品ロスでも育ちましたが、養鶏飼料に比べて、成長が遅いことが分かりました。しかし、食品ロスを使っても成長効率を高める方法がないか試行錯誤した結果、ヌカ、フスマ、オカラを3つ同時に与えると、単体で与えるよりも養鶏飼料で育てた場合の成長速度に近づくことを突き止めました。

現在、鈴木さんは様々な食品メーカーの食品ロスを使って、コオロギの新しいエサの開発を進めています。食品ロスを使ったエサが実現すれば、世界で昆虫の養殖をさらに推し進めることができるのはないかと考えています。

「20種類以上の食品ロスを試して、それぞれの栄養成分を分析しています。食品ロスのベストミックスを見つけて、新しいエサを作り、環境負荷をなるべくかけない循環型の食料生産というものを実現したいです」(鈴木さん)

“ゲノム編集技術”でアレルギーのない昆虫を!

たくさんのメリットがある昆虫食ですが、多くの人が食べるようになる未来を見据えて、昆虫食のマイナス面を取り除こうという研究も始まっています。

30年前からフタホシコオロギの研究を行ってきた徳島大学は、6年前、昆虫食の研究に参入しました。助教の渡邉崇人さんは栄養価や生産効率の高いコオロギなど、多岐にわたる品種改良を行っていますが、世界に先駆けて挑戦しているのが、コオロギに含まれるアレルゲンの除去です。

「コオロギのネガティブ要因として、エビ・カニのアレルギーと同じアレルゲンがあげられます。これを除去しないかぎりは、全世界の人が食べられる状況にはなりません」(渡邉さん)

渡邉さんが、アレルゲンのないコオロギを作るため用いるのが「ゲノム編集技術」です。ゲノム編集とは、DNAの特定の場所をねらって切り、生物がもともと持っている性質を変化させる技術です。

渡邉さんの研究室では、編集を行う酵素をコオロギの受精卵一つ一つに注入します。こうして、特定の遺伝子が働かなくなるようなゲノム編集を行います。

しかし、アレルゲンの除去は容易ではありません。

原因となるのは、「トロポミオシン」というたんぱく質で、構成するアミノ酸のどこを変化させればいいかは、すでに突き止められています。しかし、トロポミオシン自体は生存に関わる重要な物質であるため、本来の機能を維持しつつ原因となるアレルゲンの部分だけを正確に編集するには、まだまだ研究が必要だといいます。

そこで、まずは低アレルゲン化し、誰もが食べられる昆虫を作れるよう、ひとつずつ着実に研究をすすめています。

安全な昆虫食を普及させるためには?

私たちの食事の中でも、家畜や魚介類などと並ぶ選択肢の1つとして昆虫を食べるようになる日が近づく中、その安全性の議論も始まっています。世界に先駆けた取り組みを行っているヨーロッパでは、トノサマバッタ、ヨーロッパイエコオロギ、ミールワーム(ゴミムシダマシ科の甲虫の幼虫)が、新しい食品として認められました。

日本でも安全性についてのルール作りの整備が始まっています。

「安全性の高い昆虫の養殖のために、どのような施設で作るのか、どのようなエサを使うのか、作業する人への健康被害はないのか、あるいは逃げ出さないか、逃げ出した場合の生態的なリスクはどんなものなのか、などを踏まえて、日本に合ったルール整備が、非常に重要になってくると思います」(鈴木さん)

鈴木さんは、さらなる将来を見据えて研究を続けたいと考えています。

「最終的には、20年、30年後の地球以外の惑星や衛星で、人々が暮らす未来を考えています。そこに既存の家畜動物を持っていくのは、非常に難しいですが、軽量で栄養価の高い次世代たんぱく質の1つとして、昆虫というものが期待できると考えていて、それに向けた研究開発も進めていきたいです」(鈴木さん)

ここまで来て、昆虫食を食べてみたいと感じた人もいるかもしれません。鈴木さんに初心者でも食べやすいオススメのコオロギ料理を紹介してもらいました。

(※昆虫を食べる場合は、加熱処理が必要です。また、甲殻類アレルギーがある方はご注意ください。)

「コオロギは竜田揚げが非常においしいです! 研究室の学生が開発したレシピが格別です。冷凍庫で凍らせたコオロギに、しょうゆとかたくり粉を絡めて、高温のオリーブオイルで1、2分揚げるだけです。サクサクしていて、羽や脚が気にならないので、とても食べやすいです。お酒のおつまみにすると、やみつきになりますよ」(鈴木さん)

虫たちの巧妙な命の戦略と、最先端の技術で進化をとげ、世界を救ってくれると期待されるまでになった昆虫食。私たちが身近に口にする日も、そう遠くなさそうです。