バイロイト音楽祭
2023 歌劇「タンホイザー」
初回放送日:2023年12月29日
十字軍の騎士タンホイザー伝説とヴァルトブルクの歌合戦伝説から生み出された作品▽官能の愛と精神の愛の間で揺れる騎士の苦闘と救済が描かれる 大行進曲やエリーザベトの「歌の殿堂」、ヴォルフラムの「夕星の歌」など、名曲が詰まった「タンホイザー」。2019年から上演されているクラッツァーの演出では、本来自由な芸術を標榜して始まったはずのバイロイト音楽祭自身が、いまやローマ教皇のような権威としてなっていることを表現している。タンホイザー役はグールドの降板でフォークトが登場、ウォルフラム役のアイヒェと共に、活躍が光る。
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演奏
ギュンター・グロイスベック(ヘルマン/バス) クラウス・フロリアン・フォークト(タンホイザー/テノール) マルクス・アイヒェ(ウォルフラム/バリトン) シヤボンガ・マクンゴ(ワルター/テノール) オウラヴル・シーグルザルソン(ビテロルフ/バス) ホルヘ・ロドリゲス・ノルトン(ハインリヒ/テノール) イェンス・エリック・オースボー(ラインマル/バス) エリザベト・タイゲ(エリーザベト/ソプラノ) エカテリーナ・グバノヴァ(ヴェーヌス/ソプラノ) ユリア・グリューター(牧童/ソプラノ) 合唱:バイロイト祝祭合唱団 合唱指揮:エバハルト・フリードリヒ 管弦楽:バイロイト祝祭管弦楽団 指揮:ナタリー・シュトゥッツマン 録音:2023年7月28日 バイロイト祝祭劇場 録音提供:バイエルン放送協会
楽曲の概要
歌劇「タンホイザー」 Tannhäuser und der Sängerkrieg auf Wartburg リヒャルト・ワーグナーが作曲した、3幕の「ロマン的大オペラ Grosse romantische Oper」(初演1845年、ドレスデン宮廷劇場)作曲者自身の台本による。 【登場人物】 ヘルマン: チューリンゲンの領主(bs.) タンホイザー(ten.) 歌手である騎士たち: ウォルフラム(bar.)/ワルター(ten.)/ビテロルフ(bs.)/ハインリヒ(ten.)/ラインマル(bs.) エリーザベト: 領主のめい(sop.) ヴェーヌス(sop.) 牧童(sop.) 四人の小姓(sop. & alt.) 【時代と舞台設定】 13世紀初頭、チューリンゲン地方、ヘルマンの居城
あらすじ
第1幕:ヴェーヌスベルクの洞窟 騎士タンホイザーは、ヴェーヌスベルクに棲まう愛欲の女神ヴェーヌスと享楽の日々を送っていたが、そんな日々にも飽き、地上の生活の素朴な喜びに思いを馳せる。ヴェーヌスの願いに応じてタンホイザーはその美しさを讃える歌を聞かせるが、心ここにあらず、といった雰囲気で、歌は必ず「ここから解き放ってくれ」という懇願で終わってしまう。ヴェーヌスは怒り、傷つき、すがりつくように「行かないで」と願うが、タンホイザーが聖母マリアの名前を唱えると、ヴェーヌスベルクは忽然と消え失せる。タンホイザーは、あたりに響く牧童の歌で、故郷へと戻ってきたことを悟る。そこへ国王と騎士たちが現れ、タンホイザーに、ともにヴァルトブルクへと戻ろうと誘う。タンホイザーはその誘いを固辞するが、ウォルフラムの「エリーザベトのもとに留まるのだ」という言葉に、前言を翻(ひるがえ)し、ともにヴァルトブルクへと向かう。 第2幕:チューリンゲン、ヴァルトブルク城 チューリンゲンの領主の姪エリーザベトは、歌合戦の会場、「歌の殿堂」に久々に足を踏み入れ、密かに慕うタンホイザーと久々の邂逅を果たす。領主ヘルマンはやってきた人々に歌の芸術の素晴らしさを褒め称え、歌手である騎士たちに、愛の讃歌を歌ってその素晴らしさを証明するよう求める。だが、タンホイザーは、他の騎士たちが歌う生ぬるい歌に業を煮やし、つい、ヴェーヌスベルクでの愛欲の日々を讃美する歌を歌ってしまう。人々はその告白に驚き、タンホイザーの罪を激しく問い詰めるが、エリーザベトは身をもってタンホイザーを庇う。領主の裁定により、タンホイザーはローマ教皇のもとへ赦しを請いに赴くこととなり、一同はその声に和す。 第3幕:ヴァルトブルク城近くの谷間 エリーザベトは、聖母マリア像の前で、タンホイザーが救われるよう祈りを捧げるが、帰ってきた巡礼の列の中にその姿がなかったことに落胆し、その場を立ち去る。タンホイザーの友人ウォルフラムは、みずからが想いを寄せるエリーザベトがタンホイザーを慕うのを見て苦しむ。ひとり残されたウォルフラムは星を見上げつつ、苦しい胸の内を吐露する(夕星の歌)。すると、そこへ変わり果てた姿のタンホイザーがやってくる。ローマ教皇からはヴェーヌスベルクで暮らした罪は未来永劫消えることはない、と宣告されたことを物語り、自暴自棄になって、ヴェーヌスベルクへと戻ろうとする。再び現れたヴェーヌスがタンホイザーを誘うが、ウォルフラムは「エリーザベトのもとに留まれ」と再び叫び、ヴェーヌスはその場から消え去る。遠くから聞こえてくる鐘の音で、エリーザベトが亡くなったことを知ったタンホイザーもその場に息絶えるが、巡礼の杖から葉が芽吹く、という奇跡が成就し、タンホイザーの魂が救済されたことが示される。 (文・広瀬大介)