バイロイト音楽祭
2023 楽劇「神々のたそがれ」
初回放送日:2023年12月28日
リング最終章。アルべリヒの恐るべき息子ハーゲンの策略、ジークフリートの死、ブリュンヒルデの自己犠牲と世界の救済から神々の終えんまでが圧倒的な迫力の音楽で描かれた 今年のプロダクションは、高レベルの歌手がそろった。ジークフリート役のシャーガーはハマリ役、ブリュンヒルデ役のフォスターとD.ケーラーは双璧、男声陣は芸達者で表現力豊か、女声陣はハーモニーもソロもそつがない。彼らをまとめ上げた指揮者インキネンは、祝祭管弦楽団を相手に精緻なアンサンブルと表現で、4部作全体に渡って聴かせた。終演後、聴衆は満場一致の拍手とブラボーで称賛している。
- 番組情報
- その他の情報
- 詳細記事
よくある質問
演奏
アンドレアス・シャーガー(ジークフリート/テノール) ミヒャエル・クプファー・ラデツキー(グンター/バス) オウラヴル・シーグルザルソン(アルベリヒ/バリトン) ミカ・カレス(ハーゲン/バス) キャサリン・フォスター(ブリュンヒルデ/ソプラノ) アイレ・アッソーニ(グートルーネ/ソプラノ) クリスタ・マイア(ワルトラウテ/ソプラノ) オッカ・フォン・デア・ダメラウ(第一のノルン/アルト) ジモーネ・シュレーダー(第二のノルン/アルト) ケリー・ゴッド(第三のノルン/ソプラノ) エヴェリン・ノーヴァク(ウォークリンデ/ソプラノ) ステファニー・ハウツィール(ウェルグンデ/ソプラノ) ジモーネ・シュレーダー(フロースヒルデ/メゾ・ソプラノ) 合唱 :バイロイト祝祭合唱団 合唱指揮:エバハルト・フリードリヒ 管弦楽:バイロイト祝祭管弦楽団 指揮 :ピエタリ・インキネン 録音:2023年7月31日 バイロイト祝祭劇場 録音提供:バイエルン放送協会
楽曲の概要
前夜祭と3日間の舞台祝祭劇「ニーベルングの指環」 楽劇「神々のたそがれ」 Götterdämmerung リヒャルト・ワーグナーが作曲した、楽劇《ニーベルングの指環》(全四部)の第3日。序幕と3幕。(初演1876年、バイロイト祝祭劇場)。ワーグナーみずからが執筆した脚本による。 【登場人物】 ジークフリート(ten.) グンター(bs.) アルベリヒ(bar.) ハーゲン(bs.) ブリュンヒルデ(sop.) グートルーネ(sop.) ワァルトラウテ(sop.) 運命の女神:第一のノルン(alt.)/第二のノルン(alt.)/第三のノルン(sop.) ウォークリンデ(sop.) ウェルグンデ(sop.) フロースヒルデ(mez.-sop.) 家臣たち 女たち 【時代と舞台設定】 ブリュンヒルデの岩山、ギービヒの館、ライン川の畔
あらすじ
序幕: エルダの娘である三人のノルンたちが、世界の運命を司る綱を編みながら、世の中の来し方行く末を物語る。ウォータンがトネリコの木から槍を作り、それで世界を統べていたが、ジークフリートがその槍を折ってしまったため、ウォータンはヴァルハルを護る勇士たちにトネリコの木を切らせ、薪としてヴァルハルの周りに積み上げさせた。やがて神々が滅びる日、その薪に火がつけられるだろう、という預言を歌う中、紡ぐ綱が切れてしまう。世界の終焉を感じつつ、地下へと戻るノルンたち。 ブリュンヒルデの岩山。愛の時を過ごしたブリュンヒルデとジークフリート。ジークフリートは、新たな冒険へと旅立とうとしている。みずからの愛の証に、愛馬グラーネを贈るブリュンヒルデ。そのお返しに、ジークフリートは大蛇との戦いで勝ち得た指環を贈り、驚喜するブリュンヒルデ。互いの無事を祈りあいながら、ジークフリートは旅立ち、ライン川を船で下っていく(ジークフリートのラインの旅)。 第1幕 第1・2場:ギービヒ館の広間 ライン川沿いを支配する豪族ギービビ家。同家の当主グンターは、異父弟にあたるハーゲンに、自分たちの勢力・名声が充分に行き届いているかを訪ねる。内心ではこの兄妹を快く思っていないハーゲンは、彼らを逆に利用して、ニーベルング族にとって悲願とも言える指環の奪還を目指している。ハーゲンはグンターに対し、名声は充分足りているが、グンターは最高の女、グートルーネは最高の男と結婚すれば、その名声はさらに上がるはず、と説く。最強の勇士ジークフリートをグートルーネの美貌、そして過去のことをすべて忘れてしまう効果を持った薬酒を飲ませて籠絡し、彼にしか超えられない炎の先に住むブリュンヒルデを連れてこさせ、グンターの妻にすればよい、というハーゲンの助言に喜ぶふたり。折しも、ライン川を下るジークフリートが館のそばを通り過ぎようとしていたので、ハーゲンはジークフリートに声をかけ、館へと招待する。 ジークフリートが館へとやってくる。グンターとジークフリートはすぐに意気投合し、ハーゲンはジークフリートの持っている宝が、魔力を持った隠れ頭巾であることを教える。やがてグートルーネが薬酒を持って登場。ジークフリートは最初の一口をブリュンヒルデに捧げる、と歌ってから飲み干すが、効き目はすぐに現れ、ジークフリートは完全にブリュンヒルデのことを忘却し、目の前にいるグートルーネに夢中になる。グートルーネを娶るため、グンターのためにブリュンヒルデを連れてくることを約束し、ジークフリートとグンターは互いの血を混ぜた杯を飲み、義兄弟の契りを結ぶ。ふたりはブリュンヒルデのいる岩山へと向かう。すべては自分の策略通りに事が進み、いずれは指環を手に入れると、内に秘めた野望をむき出しにするハーゲン。 第3場:ブリュンヒルデのいる岩山 ひとりブリュンヒルデが留守をまもっていると、ヴァルハルから馬に乗ってヴァルキューレの一人、ヴァルトラウテがやってくる。ヴァルトラウテは自分がウォータンの目を掠めてやってきたこと、折れた槍を携えて戻ってきたウォータンがすべてのやる気を失い、神々の世界の終焉を待ち望んでいることを語る。ウォータンのつぶやきを耳にしたヴァルトラウテは、姉にその指環を返すよう懇願。だが、ジークフリートから愛の証としてもらった指環を、ブリュンヒルデは決して手放そうとしない。絶望しながら天上の世界へと帰るヴァルトラウテ。やがて夜が近づき、炎が燃えさかる。ジークフリートの帰還かと思いきや、そこへやってきたのは、グンター(隠れ頭巾の魔力で姿を変えたジークフリート)。ブリュンヒルデを妻にするためにやってきたと語るグンターに精一杯の抵抗を見せるが、力及ばず、指環も奪われてしまう。ブリュンヒルデがその場を去った後、ジークフリートは頭巾をとって本来の姿に戻り、グンターへの真義を貫くため、みずからと女との間を隔てよ、と名剣ノートゥングに願をかける。 第2幕:ギービフング館前の川の岸辺 館を守り、仮眠をとっているハーゲンの夢枕にアルベリヒが現れ、ジークフリートが持っている指環をかならず取り返せと、ハーゲンに発破をかける。夜が明け、アルベリヒが夢枕から消えると、ジークフリートが隠れ頭巾に隠された瞬間移動能力を使い、一足先に館へと帰還。ハーゲンとグートルーネに冒険の様子を物語る。ハーゲンは館の家臣と軍を招集。グンターに危機が迫ったかと慌てる男たちは、ハーゲンが告げる結婚の報せに歓びを爆発させる。 グンターがブリュンヒルデを連れて帰る。打ちひしがれた様子のブリュンヒルデを尻目に、ギービヒ家の栄光を声高に称えるグンターと家臣たち。だが、そこにグートルーネと共にいるジークフリートの姿を見つけたブリュンヒルデは愕然とする。しかも、前日にグンターに与えたはずの指環をジークフリートが持っている事に気づき、炎を越えてやってきたのが姿を変えたジークフリートであったことを悟り、激昂する。指環がもとから自分のものであると立証できないジークフリートはやむなくハーゲンの槍にみずからの潔白を誓うが、ブリュンヒルデも同じ槍で裏切り者に死を与えよと誓う。 その場に残ったハーゲンはブリュンヒルデから、ジークフリートの弱点は背中であるという事実を聞き出す。名誉が傷つけられたと嘆くグンターに対し、ハーゲンはジークフリートを殺害し、指環を奪ってその権力を手に入れろと唆す。ブリュンヒルデはジークフリートが裏切った本当の理由を知ることなく、グートルーネに惑わされたに違いないと叫び、三者三様にジークフリートの殺害を誓う。 第3幕 第1・2場:ライン河畔、森と岩の入り組んだ谷間 ラインの川岸で、《ラインの黄金》に登場した乙女たちが歌う、失われた黄金を返して欲しいという歌が響く。迷い込んできたジークフリートに対し、手にしている指環を返してくれと歌う。ケチと罵られたジークフリートは指環を返そうとするが、指環の呪いで命が危ない、と脅かされると、脅しには屈しないと前言を撤回。乙女たちは、指環はいずれ自分たちのてもとに戻ると意に介さず、水底へ戻っていく。 グンター、ハーゲンが率いる狩りの集団が到着。その場で酒盛りを始める。ジークフリートの殺害に気もそぞろなグンターを励ますべく、ジークフリートは自分の昔話を語って聴かせる。物語が中途まで進んだところで、ハーゲンは記憶が甦る薬酒をジークフリートに飲ませ、その真相を語らせる。驚くグンターと男たちを尻目に、ハーゲンはジークフリートの弱点である背中に槍を突き立てる。ブリュンヒルデに思いを馳せながら息絶えるジークフリート。ジークフリートの亡骸を館へと運ぶ男たち(ジークフリートの葬送行進曲)。 第3場:ギービヒ館 誰もいない館の中、グートルーネは不安に怯えながら、夫の帰りを待ちわびる。だが戻ってきたのは、背中を刺されて息絶えたジークフリートの変わり果てた姿。殺害したのがハーゲンとわかり、グンターも弟を責める。ハーゲンは平然と指環を要求し、一騎打ちの末にグンターを斃してしまう。するとそこへ、ブリュンヒルデが登場。事の真相をすべてラインの乙女たちから聞き及んだブリュンヒルデは、ジークフリートの亡骸から指環を抜き取り、愛馬グラーネと共にギービフングの館を焼く炎の中へ躍り込む。炎は勢いを増し、天上のヴァルハルにまで届き、その城も焼け落ちる。ハーゲンはラインの流れに溺れ、指環の呪いは清められる。後に残された男女が、燃える炎を眺め、新しく始まる世界に思いを馳せる。 (文・広瀬大介)