バイロイト音楽祭
バイロイト音楽祭2023 楽劇ワルキューレ
初回放送日:2023年12月26日
オペラの要素と楽劇の要素が織り交ぜられた作品。許されない兄と妹との愛の重唱や、父と娘の愛と葛藤という情感の場面、「ワルキューレの騎行」など名曲にあふれている。 ウォータン役コニエチュニやフンディング役のツェッペンフェルト、フリッカ役マイアらの演技力のある歌声、ブリュンヒルデ役フォスターの豊かな表現力、輝きと柔らかさを持つジークムント役フォークトなど優れたワーグナー歌手が揃った。インキネンによる祝祭管弦楽団の演奏も素晴らしい響きで、シビアなワグネリアンからも熱狂的なブラボーの叫びと拍手で認知された好演。
- 番組情報
- その他の情報
- 詳細記事
よくある質問
演奏
前夜祭と3日間の舞台祝祭劇「ニーベルングの指環」から第一夜 楽劇「ワルキューレ」第1幕 クラウス・フロリアン・フォークト(ジークムント/テノール) ゲオルク・ツェッペンフェルト(フンディング/バス) トマシュ・コニエチュニ(ウォータン/バリトン) エリーザベト・タイゲ(ジークリンデ/ソプラノ) クリスタ・マイア(フリッカ/メゾ・ソプラノ) キャサリン・フォスター(ブリュンヒルデ/ソプラノ) ケリー・ゴッド(ゲルヒルデ/ソプラノ) ブリット・トーネ・ミュラーツ(オルトリンデ/ソプラノ) クレア・バーネット・ジョーンズ(ワルトラウテ/ソプラノ) クリスタ・マイア(シュヴェルトライテ/アルト) ダニエラ・ケーラー(ヘルムヴィーゲ/ソプラノ) ステファニー・ハウツィール(ジークルーネ/アルト) マリー・ヘンリエッテ・ラインホルト(グリムゲルデ/アルト) ジモーネ・シュレーダー(ロスワイセ/アルト) 管弦楽:バイロイト祝祭管弦楽団 指揮:ピエタリ・インキネン 2023年7月27日にバイロイト祝祭劇場でおこなわれた公演のライブ録音 録音提供:バイエルン放送協会
楽曲の概要
前夜祭と3日間の舞台祝祭劇「ニーベルングの指環」 楽劇「ワルキューレ」 Die Walküre リヒャルト・ワーグナーが作曲した、楽劇《ニーベルングの指環》(全四部)の第1日。全3幕。(初演1870年、ミュンヘン宮廷歌劇場)。ワーグナーみずからが執筆した脚本による。 【登場人物】 ジークムント(ten.) フンディング(bs.) ウォータン(bar.) ジークリンデ(sop.) フリッカ(mez.-sop.) 戦いの女神たち(9人): ブリュンヒルデ(sop.)/ゲルヒルデ(sop.)/オルトリンデ(sop.)/ワルトラウテ(sop.)/シュヴェルトライテ(alt.)/ヘルムヴィーゲ(sop.)/ジークルーネ(alt.)/グリムゲルデ(Mez.-sop.)/ロスワイセ(alt.) 【時代と舞台設定】 神話の時代。フンディンクの家、岩山、岩山の頂き
あらすじ
第1幕:フンディンクの家 嵐の中、這々の体で逃げてきたヴェルフィング族の男は、一軒の家を見つけ、その場へと転がり込む。その家に暮らす女は、突然の闖入者に驚くが、傷を負い、水を求める男に対し、警戒しながらも水と酒を与える。フンディンクが帰宅。訪れた男が、みずからの妻によく似ていることに内心驚きつつも、一夜の宿を貸すからには、自分が何者かを名乗るよう迫る。みずからの冒険を語る男が、先ほどまで討ち果たさんとして探し回っていた男であることに気づき、鋭い緊張が走る。武器を持たずに逃げ込んだ男には一夜の宿を貸す、という仲間内の掟に従うが、明日は尋常に勝負せよ、と伝え、部屋に鍵をかけてその場を立ち去るフンディンク。寝酒を用意するよう命じられた妻は、部屋を立ち去る前にトネリコの木に目配せするが、男はそれに気づかない。 男は、昔父親が、万策尽きた時にはきっと剣が与えられるだろう、と約束していたことを思い出す。月明かりに照らされて、トネリコの木に刺さった剣が光るが、何が光っているのかはわからない。やがてフンディンクの妻が戻る。驚く男に対し、妻は「フンディンクの寝酒には眠り薬を入れた。この日が来るのをずっと待っていた。自分を解き放ってほしい」と熱く訴える。扉が開き、月明かりとともに春の訪れを感じるふたり。語り合ううちに、互いが生き別れた兄と妹であることを悟る。兄はみずからをジークムントと名付け、妹もみずからをジークリンデと命名。ジークムントはトネリコの木から、ノートゥングと命名した剣を引き抜き、ジークリンデと結ばれる。 第2幕:岩山 ウォータンは、自分の思い描いた計画がことごとく図にあたったことを喜び、ワルキューレたるブリュンヒルデに、引き続きジークムントの勝利とフンディンクの敗北を支援するように命じる。だが、そこへ妻フリッカが登場。妻を奪われたフンディンクに願をかけられたため、彼の味方をするよう、ウォータンに迫る。兄と妹が近親相姦を犯したこと自体、結婚の神たるフリッカには堪えられない。他所で浮気を繰り返す夫ウォータンもフリッカに強いことが言えず、その剣幕にたじろぐ。結局ウォータンは、フンディンクに味方し、ジークムントを斃す、というフリッカの決定に、無理矢理同意させられる。 ブリュンヒルデがその場へと戻る。計画が頓挫し、深い絶望感にとらわれるウォータン。ウォータンはエルダとの邂逅、ブリュンヒルデの生い立ちなどを語り、自分の計画が無に帰すならば、いまや望むのは「世界の終焉」と叫ぶ。父親の深い絶望に驚いたブリュンヒルデは何とか父を翻意させようとするが、ワルキューレは自分の手足となって動けばよい、と考えるウォータンの逆鱗に触れる。 フンディンクの館から逃れてきた兄妹がやってくる。心身ともに疲労の限界に達したジークリンデは、ジークムントが襲われ、殺される幻影を見て、その場で倒れてしまう。逃げることに疲れ、その場に眠るふたり。そこへ、ブリュンヒルデがやってきて、ジークムントを起こす。ジークムントはフンディングに斃される運命にある、と告げるブリュンヒルデ。無情な神々の決定をなじるジークムントの必死の訴えに、心を動かされるブリュンヒルデ。ともに死ねぬ定めならば、この場でジークリンデを刺し、自分も死ぬと宣言するジークムントの姿に、ブリュンヒルデは父親の意に逆らい、ジークムントを助けることを決意。戦場で助けることを約束する。 ジークリンデが一人目覚める。気がつくと、遠くでジークムントとフンディンクが戦っている。成り行きに胸を痛め「まず自分を殺して」と叫ぶジークリンデ。ブリュンヒルデの加勢を受け、ジークムントがまさにフンディンクにとどめの一撃を見舞おうとした瞬間、ウォータンが現れ、ジークムントのふるう剣ノートゥングを二つに折る。体勢を立て直したフンディンクが、ジークムントを深々と刺し貫く。絶望のあまり、その場に倒れるジークリンデをブリュンヒルデは助けつつ、ノートゥングの破片を拾い、その場を離れる。フリッカのもとへ行け、とフンディンクに死を与えたウォータンは、娘ブリュンヒルデの背信に激怒し、娘の後を追いかける。 第3幕:第2幕とは異なる岩山 戦乙女、ワルキューレたちは、人間界で駆り集めた戦死した英雄たちを、ヴァルハラ城に連れて行く前にいったんここに集めることにしている。互いの戦果を誇るワルキューレ。そこへ、ブリュンヒルデがジークリンデを連れて逃げてくる。事の顛末を聞いた8人のワルキューレたちは、ウォータンの激しい怒りに恐れおののき、ブリュンヒルデを助けようとしない。絶望に駆られたジークリンデは、みずから死を選ぼうとするが、その胎内にジークムントとの新しい命が宿っていることをブリュンヒルデに告げられると、俄然生きる気力を取り戻す。ブリュンヒルデは、大蛇が棲む東の森の中ならば、ウォータンの力も及ばない、と、ジークリンデにノートゥングの破片を、そして、やがて生まれる子供に「ジークフリート」という名を与える。感謝の気持ちを表し、立ち去るジークリンデ。 やがて、恐ろしい雷鳴とともにウォータンが追いつく。ワルキューレたちは人垣を作ってブリュンヒルデをかくまうが、数々の罪状を並べ立てるウォータンの剣幕に屈し、みずからを罰してくれ、と人垣から現れる。ウォータンは、ブリュンヒルデの神性を剥奪し、通りすがりの男のものになる、という罰を与える。父の激しい怒りの前に、ヴァルハラ城へと逃げ去る8人のワルキューレたち。 岩山には父と娘が残される。父親の本当の意向に従ったブリュンヒルデに、怒りを忘れ、父親としての愛情を抑えきれないウォータン。娘の必死の懇願に折れ、「ブリュンヒルデを得るものは、この世でもっとも強い男」となるよう、炎の壁で娘を守ることを決意。ウォータンはブリュンヒルデの眼に口づけて娘を眠らせ、火の神ローゲを呼び出して、岩山の周りを炎で包む。みずからの権力の黄昏を予感しつつ、ウォータンは岩山を立ち去る。 (文・広瀬大介)