「“はやにえ”が恋に効く!モズ最新研究」制作ウラ話

NHK
2023年9月24日 午後8:00 公開

ダーウィンが来た!はNHKプラスで配信します。配信期限 10/1(日) 午後7:57 まで※別タブで開きます

◎ディレクターのお気に入り「モズの魅力」

NHKプラス:該当箇所(3分54秒)から再生します。配信期限 10/1(日) 午後7:57 まで※別タブで開きます

モズ、いかがでしたか?はやにえは不思議な(ぎょっとする?)ものですが・・・。モズにとっては、恋を成就させるための、かけがえのないものだったんです。そんなストーリーがあるとわかると少し見え方も変わってきたんじゃないでしょうか?

モズは私が昔から好きな鳥です。その魅力の1つは狩りのうまさ。番組でもとても上手に狩りをしていましたよね。この狩り、よく見るとかなり高度なことをやっています。着地と同時に獲物へ鋭いくちばしを突き刺す。つまり、足とほぼ同時に顔から地面に突っ込みます。鳥の狩りといえば、まず思い浮かべるのがワシやタカなどの猛きん類。彼らは強力な足で獲物をつかみ取ります。一方、モズは足の力が強くはなく、くちばしで立ち向かいます。

モズの鋭いくちばし

実はこの一撃、外してしまうと身に危険が!撮影中、カマキリを狩ろうとしたモズが、くちばしを突き刺せず、反撃を受けたこともありました。

狩り失敗→反撃

さらに外せば、地面に激突する危険もあります。どこに狙いを定め、どれくらいの力で刺すのか。それを瞬時に判断しているのです。熟練のモズになると、まさに「タッチアンドゴー」で獲物をかっさらうような華麗な狩りを見せてくれます。

そしてもう一つ、モズの魅力が小鳥とは思えぬ勇敢さです。縄張りを守るためには、自分より体の大きな鳥にも立ち向かいます。時にはヒヨドリにアタックしたり、ムクドリの群れを追い払ったり。そして何よりも闘争心を燃やすのが、モズ同士の争いです。番組でご紹介したあの大ゲンカ。突然、始まりました。1羽が狩りをしようと地面に降りた途端、目の前を何かがすさまじいスピードで横切ります。その直後、田んぼの真ん中でモズがゴロゴロと転がり、「ピー!ピー!」とけたたましい鳴き声が響きます。取っ組み合いのケンカ。この時も最大の武器はくちばしです。くちばしを相手に突き刺す攻撃、逆に防御では相手のくちばしを足で封じます。双方のくちばしとくちばし、足と足を組み合う、まさにがっぷり四つの状態でした。私たちも無我夢中でその姿を撮り続けました。が、気がつけば大ピンチに!記録メディアの残量はもう終わる寸前!ケンカが終わったとき、残りの容量はわずか1カット分。本当にギリギリでした~。撮影前、モズの縄張り争いは激しいと聞いていましたが、まさかここまでとは思っていませんでした。手に汗握るシーンに出合えたのは、本当に幸運でした。

◎制作こぼれ話「梅ちゃんの恋物語と世界初撮影(!?)の・・・」

番組後半、主役になった梅ちゃん。ひなだった4年前に撮影地で足輪を付けられ、立派に成長して繁殖を始めました。そんな梅ちゃんを私たちは約半年間、追い続けました。ここでは、番組で紹介しきれなかったエピソード、梅ちゃんに身に降りかかった大事件(?)をご紹介します。

求愛の撮影を始めてしばらくして、やたらと梅ちゃんと距離の近いメスがいました。「梅ちゃん報われたかな?」と思った次の瞬間でした。なんとメスがカピカピに乾いたはやにえのカエルを食べ始めたんです!それは梅ちゃんが残しておいたであろう数少ない虎の子のはやにえ。それをメスはめざとく見つけてこっそり食べてしまったんです。

はやにえの食い逃げ

「まぁ、恋が実ったのならいいか・・・」と思っていたのですが・・・。翌朝、梅ちゃんは変わらず猛アピール中。モズはつがいになるとアピールするのをやめて、2羽で縄張りを守るようになります。いやな予感がする・・・と思ったところへやってきたのは、昨日とは別のメス!そう、梅ちゃんははやにえを食い逃げされたんです・・・。おまけにその日やってきたメスは、ちょっと梅ちゃんの歌を聴いただけで「たいしたことないわね」といわんばかりにあっさりと縄張りから去って行きました。

この食い逃げ行動、専門家の西田さんにみてもらいました。撮影されたのはおそらく世界初、貴重な観察事例だそうです。モズのオスは求愛前までは縄張りを徹底して守るため、はやにえを取られる心配はありません。ところが、求愛中はメスを呼び込むため、縄張りの見回りは手薄。はやにえが盗まれる隙ができるのかもしれません。

一方のメスにも事情はあるのかもしれません。メスはこの時期、たくさんのオスの縄張りを回って、優秀なオスを見極めます。体力を使い、真冬で生きた獲物も少ない時期に、見つけたはやにえは貴重な栄養源。つまみ食いしたくなる気持ちもわかります。

食い逃げされた梅ちゃんは、その後、何度もメスに求愛しますがうまくいきません。あのはやにえを食べられていれば、もっと魅力的に歌えたかもしれません。そんな逆境にもめげない梅ちゃん。生きた獲物を何とか見つけて体力を回復し、なんとかメスの心を射止めました!

最後にもうひとつ梅ちゃんのエピソード。子育ても終盤にさしかかったとき、なんとネズミを捕まえてきたんです!すごい!

ネズミ持つ藪の中

藪の中でネズミを丁寧に小さくちぎってひなに与えた梅ちゃん。歌声で示した名ハンターっぷりを垣間見た瞬間でした。

◎撮影の現場から「いまだ謎の残るモズ」  

NHKプラス:該当箇所(21分09秒)から再生します。配信期限 10/1(日) 午後7:57 まで※別タブで開きます

はやにえは何のためのものなのか?これまでさまざまな「説」が考えられてきました。冬の保存食はもちろんのこと、「縄張りを主張するため」とか、置いておいたのを忘れた「食べ残し」説。なかには「狩猟本能が抑えきれずに狩ってしまった」という説まで・・・。万葉集にも登場し、古くから人の近くで暮らしていたモズのはやにえは長い間、謎の習性でした。

はやにえを作るモズ

撮影前、「はやにえを食べるだけで、本当に歌声が魅力的になるんだろうか?」と半信半疑で現場へ向かいました。歌声を聞き続けてみると、たしかに梅ちゃんとモテないオスには違いがあるように思えてきます。ただし、それもほんのわずかな差!「あ~、なんとなく早口なのかなぁ~。」と感じるくらい。そこで鳴き声を波形にしてみると、「なるほど!確かに違う!」とわかりました。西田有佑博士は、この差をあらゆる角度から10年もの月日をかけて観察。ようやくはやにえと鳴き声の関係を証明したんです。謎の解明のうらには地道な努力があったんですね。

西田博士調査風景

しかし、これはモズの謎のほんの一部に過ぎないんだそうです。西田有佑博士が考える、さらなる謎をご紹介します。

まず1つ目が「鳴きマネ」です。モズのラブソングはさまざまな生きものの鳴き声を組み合わせていました。あの自作のラブソングが、どんなものだと魅力的なのか?詳しくはまだわかっていないそうです。解明するのが難しい理由は、鳴き声があまりに複雑すぎるから。「多くの鳴き声を知っている=経験が豊富」という仮説は立つそうですが・・・。

2つ目の謎は「はやにえの場所の覚え方」。西田さんによると、作ったはやにえはほとんど食べ切っていることがわかりました。しかし、時に200個近くも作るはやにえ。どこに置いたのか、覚えていられるのが不思議ですよね。

3つ目は「はやにえについたカビ」です。モズのはやにえは長いもので3か月、外に放置されます。そうすると当然カビがつくわけなんですが、モズはカビごとぺろりと食べてしまいます。カビが生えたものを食べるなんて・・・と思ったかもしれませんが、人間の世界でもチーズなどはカビで熟成させますよね?実は、はやにえのカビにもモテる効果が・・・なんてことになったら、面白いですね。

まだまだ身近な生きものは謎に満ちあふれています。そんな謎解きに挑戦したい方はぜひ「ダーウィンが来た!」にご連絡ください。取材班の撮影技術を駆使した「自由研究お助け企画」や「研究室お助け企画」を随時募集しています。生きものの観察を楽しみながら、一緒に謎を解き明かしましょう!

ディレクター 畠山 佑一

 

是非とも番組最初からご覧下さい。

ダーウィンが来た!はNHKプラスで配信します。配信期限 10/1(日) 午後7:57 まで※別タブで開きます

☆ブログ担当スタッフから☆

畠山ディレクター渾身のシーン、「モズの大ゲンカ」。こんなにも激しい鳥どうしの闘いは見たことがありませんでした。縄張り争いに勝って“はやにえ”をたくさん作ることに、いかにモズが命をかけているのかが一発で伝わってきました。

そのほか、“はやにえ”を食い逃げされたり、ネズミまで狩りしてきちゃったり、番組では紹介しきれなかった姿も含めて、人の暮らしのすぐそばにいる鳥ではありますが、本当に奥の深い鳥なんですね。

◎関連ブログ記事

これまでの畠山ディレクター担当回のブログ記事もぜひご覧ください。