◎制作こぼれ話「8月最後の日曜日は、生きものたちのお祭りに!」
8月最後の日曜日といえば、日本のテレビ業界では毎年“走る”ことが話題になっている!ということで勝手に便乗して走る祭典にしてみよう!ということが今回の企画の始まりでした。ただ、一口に走ると言っても、走り方から走る環境、走る目的まで実にさまざま。2006年から17年以上続く「ダーウィンが来た!」のアーカイブをざっとみただけでも100種以上の生きもので走ることを取り上げていました。今回の番組で一瞬だけでも映った生きものは20種ほど。きちんと紹介ができたのは7種にとどまりました。そんななか制作中に気がついたのは、中には15年以上前に撮影された古い映像もあるということ。古い映像なんですが(もちろんハイビジョン画質ですが)、どれをとっても新鮮に見ることができたんです。テレビの特性上、一度放送されたらもうそれは「一度こすった古い絵」と思われがち。それでも、今も昔も苦労して撮ってきた決定的瞬間の面白さは、色あせないのだと感じました。実際、今回、番組を見てくださった小中学生くらいの視聴者の方からすれば、きっと初めて見る映像もたくさんあったと思います。これからも年に1回くらい「昔やったらからもう出さなくていいよ」と言わず、恒例行事として生きものたちのお祭りができたらいいなと思っています…!
大迫力のコモドオオトカゲ 放送は2006年、番組開始の年
◎制作の現場から「音楽の力で、番組はアガるんです」
X(旧Twitter)でクイズとして出題した番組BGMについて。今回は、走ることや競争などにまつわる楽曲を12曲使用しました。今度番組を見るときにはぜひ耳をすませて聞いてみてください!結構マニアックですが、好きなゲーム、ドラマ、アニメの楽曲を使っているなど、思わぬ発見があるかもしれません。今回はあえてよく知られている某24時間のチャリティー番組で使われている有名な応援テーマソングを使ったりしました。
普段、私たちが映像を編集している段階では、まだ音楽はついていません。番組作りの終盤、仕上げの段階で音響効果の担当者が音楽を付けます。筆者がディレクターとして、番組づくりで最も気持ちが高まるのは(ロケを除けば)、実は完成した時ではありません。音楽がついて試写をする時が、最も気持ちが高ぶるタイミングです。今まで何度も見ていたシーンが突然さらに楽しくなったり、緊張感が出たりして作っている番組がまるで別物のように成長する(番組がアガる)瞬間です。特にダーウィンが来た!は自然番組で主役は動物たちなので、言葉を発することはありません。生きものによっては必ずしも表情があるわけではありませんが、音楽が醸し出すムード、情感を利用することで場面の状況を語ることができるんです。
ちょっぴりコミカルだけど激しいカンガルーの戦い
少し個人的に驚いたエピソードをここでご紹介します。海外でロケをしていた時のこと。ダーウィンが来た!がどんな番組なのかを理解してもらえるように外国人の研究者にダーウィンが来た!を見せると、日本語は全くわからない方だったのですが非常に楽しんで見てもらえたのです!コメントやテロップを理解できなくとも、映像の起承転結が分かるように並べられていて、それに感情移入ができるように楽曲がうまく融合していると言葉の壁を超えるのです。小さなお子さんが自然番組を好きなのも、そういった言葉が全部分からなくともシンプルに理解できて楽しみやすい構造だからかもしれません。
これは超!玄人な楽しみ方ですが、試しに時間がある時に音をミュートにして番組を見てみてください。最近はテロップなど文字情報でかなり読み取れるようになっていますが、それを抜きにしてもダーウィンが来た!の番組は映像だけ見れば大体内容が分かるようになっています。映像メディアだから当然といえば当然なのですが、例えば「とても分かりやすい良い番組だった!」と思うときはそういった組み立てがうまくいっていることが多いんです。
あえて無音にして緊迫感のあるペンギンとオタリアの攻防
◎ディレクターのお気に入り「じっくりなが~く見て欲しい!③つの名場面」
いつも何気なくみているテレビ番組の映像、バラエティー番組だとおよそ4秒、CMだとだいたい2~3秒で次々と展開していきます。誰かが決めたルールというよりは、見ていて違和感がなく、視聴者に伝えたい情報はだいたいそのくらいで伝わるからだろうと思います。最近はスマホで次々と動画を見ていくことにすっかり慣れて、1秒くらいで次々と展開する動画も当たり前です。そうするとテレビの映像がゆったりと感じる人も多いかもしれません。ダーウィンが来た!はおよそ30分の番組ですが、実は2006年の放送当初と比べるとこのカットのテンポは圧倒的に速くなってきています(番組を長く見ていただいている方はとっくにお気づきかと思います)。視聴者も次々と展開する早いテンポに慣れているため、制作サイドもできる限り魅力や情報を盛り込もうとしているんです。多くのカットは3~6秒で展開して、長くても10秒くらいでしょう。担当Dとしてはたった30分でも情報量はかな~り濃いめの番組だと自負しています。
でも自然番組はやはりドキュメント、ここぞという時の瞬間はあえて細かくカットを割らずに“見せる”場面も出てきます。すると通常はトントン話が展開する中でじっくり見せることでストーリーにメリハリを感じる効果を出すことができます。今回の番組内で紹介したカットでは下記3つのシーンが長いカットBEST3になります。
3位 18秒 シマウマに追いかけられるチーター
2位 20秒 昆虫を追いかけるナマクワカメレオン
1位 48秒 ジェンツーペンギンの独り立ち
いかがでしょうか?記憶に残っているカットはありましたか?1番長かったカットはなんと48秒!ジェンツーペンギンの親が初めて海に子どもたちを誘う場面です。親から子へ、生きる術(すべ)が伝えられていく貴重な瞬間ですが、これは制作側の3つの思いと偶然が込められているんです。まず幸運にもその場面に遭遇しミスなく撮影できたカメラマン。次はその瞬間に共感しあえて長く映像をつなぐことにした編集マン、そして最後にテンポが落ちるしその分他の構成が短くなるリスクもあるけれど、しっかり見せた方が良い番組になると判断したディレクター/プロデューサー。考えてみれば当たり前のことかもしれませんが、そうやって数か月かけて撮影してきた膨大な素材の中から、私たち制作者はひとつひとつカットを選んで、限られた番組の時間に詰めこんで視聴者の皆さんにお届けしています。
だからそれぞれの回で長くつかっているカットは必然的に番組の見どころが詰まっていることが多いんですよ!ぜひこれからも、動物たちが見せるドラマをじっくりと楽しんでください!
ディレクター 鶴薗宏海
番組をもう一度見たい方は・・・
ダーウィンが来た!はNHKプラスで配信します。配信期限 9/3(日) 午後7:57 まで※別タブで開きます
これまでの鶴薗ディレクター担当回のブログ記事もぜひご覧ください。