「どっこい生きてる街の中!ど根性植物」制作ウラ話

NHK
2023年11月26日 午後7:58 公開

◎制作こぼれ話「“雑草”という名の草はない」 じゃあ「雑草」って何?

「雑草という名の草はない」

朝ドラ「らんまん」を見ていた方にはおなじみですよね。どんな草にも名前があり、生きている意味がある。人間の価値観で「雑草」と一括り(くくり)にされるべきではない。植物学者・牧野富太郎さんの、全ての植物に対する姿勢を象徴することばです。

普段気にも留めない道ばたの草にもこんなに色々な種が

でも、じゃあそもそも「雑草」って何でしょう?番組で「雑草」と言うからには正確に知っておかなければと調べ始めたものの、これが思いのほか難しい。ざくっと考えると、道ばたや街路樹の根元、空き地に勝手に生えているもの、とか、田んぼや畑、庭に植えていないのに芽生えたもの、そんな感じですが、元日本雑草学会副会長の萩本宏さんが「雑草研究」(2001)で書かれた中には、『「人類の使用する土地に発生して直接あるいは間接に損害を与えるところの植物」(半澤)、「望まないところに生える植物」(アメリカ雑草学会)』とあります。ということは、道ばたに生えている草でも、邪魔だと思う人にとっては「雑草」ですが、気にしない人や花がかわいいと思っている人にとっては、「雑草」ではなく「野草」ということになります。

よく見るとかわいい花 そう思ったらもう「雑草」じゃない?

さらには、同じ植物でも人里に生えていたら「雑草」になりえますが、森に生えていたら誰も損害を受けないので「雑草」じゃない。さらにさらに、現在、雑草と呼ばれる植物の多くは海外から日本に入った外来種ですが、中には観賞用に入ってきて庭や鉢植えを飛び出して野生化してしまったものもあります。庭にタネをまいて育てている方にとっては雑草じゃないけれど、タネが飛んで生えてほしくない場所に生えてきたら「雑草」になってしまう。

うーん、難しい。牧野さんのことばどおり、「雑草」かどうかを決めるのは人間の個人的な価値観だなんて。

そんなわけで、番組では、「街中に生えているいわゆる雑草」を「ど根性植物」と呼ぶことにしました。

◎撮影の現場から「究極の雑草対策は“草刈りしないこと”!?」

番組の中で、ど根性植物(街の雑草)は、あれほどたくましいのに、森では生きられない弱い存在、という話をしました。ど根性植物は、光合成をするために強い太陽の光を必要とします。そのため、日かげでは、弱い光でも効率よく光合成ができる草に負けてしまいます。

こんなにたくましいのに森では生きられない?

これを壮大な実験で実証した方がいます。元・千葉県立衛生短期大学(現在の千葉県立保健医療大学)の飯島和子さんです(現・NPO法人自然観察大学講師)。飯島さんは、1987年、大学構内の芝生だった一角を裸地にし、人が全く手を加えずにおいたら植生がどう変化するかを調べました。

1987年実験開始時 (提供 飯島和子さん)

すると、裸地にした翌年には案の定、春にはハルジオンやマツヨイグサの仲間、秋にはオオアレチノギクやヒメムカシヨモギといったど根性植物(街の雑草というよりは、やや原っぱのメンバーですが)が大繁栄しました。

1988年実験開始翌年

5月ハルジオン、コマツヨイグサが生えてくる(提供 飯島和子さん)

9月ヒメムカシヨモギ、オオアレチノギクなどの夏草 (提供 飯島和子さん)

ところが、その次の年には、草丈が高くなるヨシやセイタカアワダチソウに覆い尽くされ、草丈の低いハルジオンたちは一気に数が減りました。

1999年 実験開始13年目

ヨシやセイタカアワダチソウに覆われた中に木が生え始める (提供 飯島和子さん)

10年目以降は近くからタネが飛んできたらしくケヤキやサクラ、トウネズミモチをはじめ様々な木が生え始め、20年目になるとそれらの木が成長して地上はすっかり日陰になり、ヨシも少なくなって、30年目にはとうとうほとんどの草は姿を消してしまいました。

1年を通して降水量の多い日本では、人が手を入れないとほとんどが森に覆われ、ど根性植物どころか、ほとんどの草が生きていけないんです。

2001年 実験開始15年目

木がヨシより大きくなる トウネズミモチ(提供 飯島和子さん)

2012年 実験開始26年目

トウネズミモチとオオシマザクラ(提供 飯島和子さん)

地面には続々と他の木が生え 草はほとんど見当たらない (提供 飯島和子さん)

驚いたことに、実験は現在も継続中で、37年目を迎えた今年、飯島さんの調査におじゃまさせていただきました。クズ(ツル性の草)が弱々しく地面に横たわっているのみで、そのほかの草はありませんでした。

そんな中、目からウロコの事実がありました。下の写真を見てください。奥に白い看板がある林が、37年間人が手を加えなかった実験地です。その手前は、太陽の光を浴びて一面雑草の原が広がっています。手前は年に2回ほど草刈りをしているそうで、人が手を加えない(草刈りをしない)場所には雑草がいないのに、草刈りをする場所には雑草が生き生きと生えている。皮肉なことに、雑草は人が草刈りをしてくれるおかげで生きていられるってわけです(少なくとも日本では)。究極の雑草退治をしたいなら草刈りをしなきゃいいわけですが、だからといって木に覆われても困るので、やっぱりこれからも、雑草を助けていると知りながらも必要に応じて草刈りをしていくんだろうなあ。

2023年7月 実験開始37年目のこの夏

奥の、木が茂っているところが実験地 人が手を加えない(草刈りもしない)のに雑草は生えない

手前、毎年数回草刈りをしているところは雑草だらけ

37年にもわたる壮大な実験をこともなげに語る飯島和子博士

調査開始から20年目にこの実験を博士論文にまとめ、博士号を取得されたそうです!

◎ディレクターのお気に入り「それぞれ自分なりに生きていく」

今回の「雑草」は4月に放送した「いちばん身近な生きもの!野菜」に続く身近な植物第2弾のように見えますが、実は企画したのはこちらのほうが先で4年前から始まっていました。制作中、「雑草」の番組を作っていると言うと、「ああ「らんまん」で関心が高まっているからね」とよく言われましたが、心の中ではこっちのほうが先なんですが、とちょっと思っていました。まあ、どっちが先でもいいんですが。2020年1月に企画が通って3月から撮影を開始しようと準備を進めていた矢先、新型コロナの一斉外出自粛でロケが中止になり、撮影が再開になった6月にはすでに春の雑草の季節が過ぎていたため、6月からでもまだ間に合う「野菜」を先に制作し、「雑草」を後に作ることになりました。

「野菜」の回(2023年4月放送)に登場した植物観察家・鈴木純さんに再びご協力いただきました!

この「野菜」と「雑草」の間に、2022年11月に放送したNHKスペシャル「超進化論 第2集 愛しき昆虫たち」という番組を手掛けたため、私の中でちょっとした変化がありました。このNスぺは昆虫の多様性がテーマでした。現在名前がつけられているものだけで100万種を越える昆虫がなぜこれほど多様になったのか?それを進化から探っていく番組でした。この番組を作る中でつくづく思ったことがあります。「生きもの世界には絶対的な“勝ち”はない」ということです。100万種を超える中には、大きくて力の強い種だけではなく、小さい種も、力が弱い種も、数の多さで大繁栄している種もあれば、ものすごくマイナーだけど細々と子孫をつないでいる種もあります。もし絶対的に有利な“勝ち”があれば、みんな同じような方向に進化をするはずです。でも実際はそうじゃない。何かある一点おいて“勝ち”があったから、生き残ることができた。それは現在の一点だけじゃなく、過去の一点かもしれないし、環境が変わった時の一点かもしれない、十年に一度の一点かもしれない。でもともかく、100万種が生き残ることができるほどの多様な環境や変化が自然の中にはあるんだなあと思いました。

みんながカブトムシをめざすわけじゃない

そして、「昆虫」を作り終えて「雑草」と向き合ったとき、同じことに気づきました。番組で紹介したタネ飛ばしワザ選手権は、当初はスポーツのようにタネの飛距離(技術点)と技(演技点)をつけて1位を競うようなものを考えていました。ところが実際に選手の演技(雑草のタネ飛ばし)を見ていくうちに、競う意味がわからなくなってきました。遠くに飛ぶほうがいいのか? 風が吹いても負けないスピードがあったほうがいいのか? 手が込んでいるほうが優れているのか? 他の生きものを利用するから賢いのか?と。

考えたらあたりまえなのですが、みんな現在まで生き残ってきたんだから、みんな勝ちなんです。

勢いよく開催したタネ飛ばしワザ選手権は、最後は全員入賞!で終わりました。「なんだ、そういうこと?」みたいな感じで、期待外れだった方がいらっしゃいましたら、すみません。

スピード賞カタバミの仲間

飛距離賞 カラスノエンドウ

チーム賞 スミレの仲間

偶然ですが、最後の純さんのインタビューが、雑草に限らず、そうしたすべての生きものへのまなざしを物語ってくれました。

「何かしらひとつの、いい生き方の正解があるわけではない。

けれども、みんながそれぞれの方法で自分なりに生きていく。

みんなと同じ生き方しなくても、自分はここで生きていくんだっていう生き方もいいわけですもんね。

それは、励みにもなりますよね。私たちが見ていて、たぶん」

ここで生まれたから ここで生きていく

100万人の人間がいたら100万通りの勝ちがある環境が、人間の社会にもあるといいと思います。

追伸:最後に大事なお願い!

雑草の中には、外来種で本来の日本の生態系をおびやかすものもいます。

今回紹介した中で1番気をつけていただきたいのはナガミヒナゲシ。ただいま急拡大中の要注意植物です。

くれぐれもタネを広げないようお願いします!

タネ飛ばしワザ選手権や実験に登場した植物やタネは、植物たちにはちょっと申しわけないけれど、生態系に影響を与えないよう全て回収して適切に処理しました。

タネ飛ばしは室内で!

タネは全部回収しました!

☆ブログ担当スタッフから☆

身近過ぎて、見過ごしてしまいそうな「ど根性植物」。テーマを聞いた時には「それって、道端の雑草ですよね?」なんて思った自分の感想が恥ずかしいです。世界各地の様々な生きものを取材し自然番組を作り続けてきた水沼ディレクターの手にかかれば、「雑草」の中にも、いろいろな植物があること、そのどれもが懸命に生きていることがよく分かりました。個人的には、街中ではあんなにたくましい雑草が、森では生きられない存在だなんて…驚きでした。この番組を見てくれた方は、日常の景色が少し変わるんじゃないかなぁと感じました。

↓ぜひNHKプラスでもう一度チェックしてみてください~!↓

↓これまでの水沼ディレクター担当回のブログ記事もぜひご覧ください↓