◎制作こぼれ話「ジンベエザメ ヨーヨーダイブの謎」
世界最大の魚、ジンベエザメ。水族館の人気者であり、過去のダーウィンが来た!でもたびたび紹介しています。ところが、有名な生きものにも関わらず、生態がほとんど分かっていないんです。世界に何匹くらい居るのか?どこで子孫を残して、どうやって育つのか?など基本的な生態すらも謎。とにかく謎だらけのジンベエザメ。ここでは番組で紹介しきれなかったちょっとマニアックな謎をご紹介しましょう!
『なぜジンベエザメは潜水と浮上を繰り返すのか?』 今回、番組では紅海で子どものジンベエザメが深海に潜る行動をお伝えしましたが、他の海でもジンベエザメが海面と深海を頻繁に行き来する行動が数多く報告されており、その動きから「ヨーヨーダイブ」と呼ばれています。もちろん、体の大きい大人のジンベエザメは冷たい深海でも体温を奪われにくいので、食べ物を探しに潜っているというのは有力な説です。ところが、研究を進めると他にもジンベエザメがヨーヨーダイブを行う理由が見えてきたんです。1つ目の説は体温調節です。ジンベエザメは世界中の温暖な海に広く生息しますが、30度を超える水温は苦手だと言われています。そこで、海水温が高いところでは、熱くなった体温を冷やすために深く潜るというのです。2つ目の説は長距離移動です。ジンベエザメの比重は海水より重いので、泳がなければ沈んでいきます。そこで少しずつ沈みながら泳ぐと、沈むエネルギーを利用してとても効率的に進めるのだそうです。3つ目の説は掃除です。巨大なジンベエザメには体に大小様々な寄生生物がくっついています。深く潜ることで、深海の水圧や水温に耐えられない寄生生物を取り除かれるのではないかというのです。
本当の理由はジンベエザメ本人に聞いてみないと分かりませんが、少なくともジンベエザメにとって深海が大事な場所であることが最新研究からも明らかになりました。なんと、ジンベエザメの目は、海の深い場所にも届きやすい青色の光を、効率的に受け取れるようになっていることが分かり、海面と深海を行き来するヨーヨーダイブに合わせて、視覚が独自に進化した可能性があるといいます。ジンベエザメは何のためにヨーヨーダイブを行っているのか、ホント不思議な生きものですね!
◎ディレクターのお気に入り「ジンベエザメの研究者たち」
今回、世界各地で行われたジンベエザメの調査をご紹介しました。実は取材当初、勝手に不安を感じていました。サメといえば、どうしても「肉食の凶暴なサメ」を連想してしまい、研究者もいかついムキムキマッチョの怖~い人だったらどうしよう、と心配していたんです。ところがジンベエザメの研究者の方々は、国内、国外問わずとっても穏やかな方ばかり。まさにジンベエザメのような方ばかりでした。そこには研究対象がジンベエザメならではの理由があると私は考えています。ジンベエザメは世界中を移動しながら暮らす生きもので、しかも寿命は130年を超えると言われています。そう、ひとりの人間が調べるのにはスケールが大きすぎるのです。そこでジンベエザメの研究者たちは「協力関係」を非常に大切にしています。その代表が写真識別調査です。ジンベエザメの模様は個体ごとに特有で、成長しても変わることがありません。人間で言う指紋のようなものです。そこで300名以上の研究者と1万人を超えるダイバーがジンベエザメの模様の写真を撮影して、ウェブサイトにアップロードしているのです。ウェブサイト上では星座を判別するソフトウェアを改良したジンベエザメの模様認識プログラムが動き、過去に写真との照合が行われる仕組みで、今までに6000匹以上のジンベエザメがこの調査によって確認されています。写真のジンベエザメがいつ、どこに現れたか、といったデータを積み重ねることでジンベエザメの移動ルートや、集合場所を突き止めることができるんです。この取り組みおかげで、この10年でジンベエザメが頻繁に目撃される場所が新たに10か所以上見つかり、移動ルートも明らかになりつつあります。そういった情報は絶滅危惧種のジンベエザメを守るための貴重な手がかりになるんです。研究者は写真調査の最後に「私たちはみんな、ジンベエザメを知りたいと思っている。協力こそがジンベエザメを知るための最善の方法なんだ」と語っていたのが心に残っています。今後も世界各地で研究者たちが協力してジンベエザメの謎を解明しようとする姿を追い続けていきたいと思います!
ディレクター 髙木 勇輔
ダーウィンが来た!はNHKプラスで配信します。配信期限 9/10(日) 午後7:57 まで※別タブで開きます
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