タイトルバック映像 市耒健太郎さん ~光と触感で描くロマンティシズム

NHK
2024年1月14日 午後8:40 公開

今から千年前の平安時代を生きた人々の恋や人生を描く大河ドラマ「光る君へ」。そのオープニングを彩るタイトルバック映像を企画・監督した市耒健太郎(いちき・けんたろう)さんに、映像に込めた想(おも)いやこだわりについて伺いました。

◆◇企画意図◇◆

「光る君へ」は千年前のお話です。そこには、現代にも通じる恋や人生、創造性への喜怒哀楽が詰まっていると思います。「きっと人間には、千年前も、そしてこれから千年後にも変わらないロマンティシズムがある」と考えて、タイムレスなフィルムアートのようなものがいいんじゃないかな、とまず考えました。
わたしたち人間が生きて、なにかを感じる上で、時空を超えて普遍的でロマンティックなモチーフとはなんだろうって考えて、「そうだ、“光”と“触感”で描こう」と決めました。たとえば、「美しい光そのものに精霊が宿っている」としたらどうだろう。人生に目覚めたり、恋に落ちる瞬間に、わたしたちの細胞や光に記憶されていく「永遠にも感じるような一瞬」を映像化できないか。
平安らしい雅(みやび)を表現しながらも、ある種、脚本からインスピレーションを受けた空想の世界ですね。あとは、とにかく耽美(たんび)的で直感的になるようコンテ化し、プレゼンさせていただきました。

◆◇光の彫刻で描かれる普遍性◇◆

撮影においては、まるで光で被写体を彫刻するように、被写体そのものではなく“光に包まれたなにか”を写すように心がけました。すべての制作過程において、美しく普遍的な空気感をまとわせられるよう一つ一つ確認しながら、アートディレクション、カメラテスト、ライティング、編集を進めました。
特にライティングに関しては、上からつるした巨大な水晶状の半球体に水を貯めて、それを揺らしながら、そこに光を通すことで、まるで「生きているような光」を演出しました。

◆◇2分45秒〜音楽とのマリアージュ◇◆

――最初に、冬野ユミさんの音楽をお聴きになってどのように思われましたか。

「正直、困ったな」と(笑)。めちゃめちゃドラマティックで、起承転結が激しいんですよ。しかも、ピアノ演奏を反田恭平さんがされているので、音圧がものすごいことになっていて。
僕らの脳が映像を見るときって、視覚と聴覚の美しいマリアージュから、想像以上の感情が沸き起こるものです。今回、冬野ユミさんがかなり強い音楽を作ってくださったので、その2分45秒を9つのチャプターに分けて、映像を作画していきました。まるで感情の時系列アートのように。たとえばオープニングは、「感性の目覚め」を花の大胆な開花で表現、中盤では「光の霊性と初恋」のように、です。
特にピアノの旋律に合わせて「光がダンスする」ようになることを目指して、さまざまな反射体や透過体を使って光の演技付けをしましたね。

◆◇オープニング映像に込められた三つの役割◇◆

――オープニングには、三つの役割があると聞きました。

はい、一つ目は、もちろんタイトルバックとしての役割です。俳優さんの名前を載せるうえで、究極は映画のエンドロールのように黒一色がよいのですが、そういうわけにはいきません。平安の雅(みやび)でたおやかな感じを目指して、ほっこり美しいアンバー(深い琥珀色[こはくいろ])を全体のトーンにしました。

二つ目は、ドラマのオープニングとしての役割。この映像を見て、本編への期待を高めてほしいんですが、ドラマの具体性に踏み込んじゃやりすぎだし、ちょうどいい感じの頃合いを、大石静さんの脚本を読みながら探りました。最終的に、とても抽象的な表現にとどめました。

三つ目は、音楽に対するMV(ミュージックビデオ)としての役割ですね。すばらしいテーマ曲に対して、視覚的にどう劇的な効果を与えていくか。

◆◇主役・吉高由里子さんのすごさ◇◆

――主人公・まひろ役の吉高由里子さんの美しさが印象的です。

吉高さんはムードメーカーとして、いつも明るく撮影現場を盛り上げてくださいましたが、カメラ前に入ると一気にスイッチが入って、あぁ、大河ドラマの主役とはこういう力のある才能なんだな、と改めて実感しました。
「一瞬に宿る永遠性」を表現するために光量やカメラの動きを繊細に計算し、吉高さんの動きを、超ハイスピードカメラを用いてスローモーション映像として撮影したのですが、レイコンマ数秒の演技のお願いに対して一発で応えてくださったときには、とても驚きました。

◆◇心と、光と、触感と。一瞬に宿る永遠性を◇◆

――「手」がとても印象的だと感じたのですが、企画段階から「手」はキーアイテムとして考えていましたか。

まさに、そうです。皮膚と皮膚が初めて触れる瞬間を美しい光で彫刻できれば、一瞬を永遠に感じさせられるんじゃないかと。特にドラマの中でまひろと藤原道長は、ある種の距離感がある関係性を築いていくので、その様子をオープニング映像でも描きたいと思いました。「手」が近づいたり離れたりを繰り返して、最後にもう一度重なってドラマ本編につながっていく。それが心の距離とも重なり、回によっては近づくときもあれば離れるときもあるという、アンニュイな関係性を表現できていたらいいなと思っています。

――やはり「一瞬に宿る永遠性」がコンセプトなんですね。

紫式部に限らず、どんな時代の人生にも、心から愛する人を逆光で照らす美しい夕陽や、生きる決意を温かく促してくれる朝陽など、一生忘れられないような光がきっとありますよね。そんな一瞬なんだけど、永遠に感じてしまう瞬間が、人生を彩っていく。
ときには運命に翻弄され、ときには奇跡に涙し、助けられていく。「光る君へ」では、放送回ごとにさまざまな人間模様が、一年を通じて描かれていきます。その一部となる映像に関われて光栄ですし、このタイトルバックから、「千年前も千年後も変わらない人間の美しさや儚(はかな)さ」みたいなものを、少しでも感じとっていただければうれしいですね。
   

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