ウクライナ 再び迎える厳しい冬 人々の“日常”は ~油井キャスター現地報告 ③~

NHK
2023年12月6日 午後6:33 公開

ウクライナで取材を続ける、油井秀樹キャスターの現地報告。

増え続ける犠牲と再び迎える厳しい冬を前に、キーウの人々の“日常”を取材しました。

(「新BS誕生スペシャル 神秘!迫力!真相!熱狂! 心ゆさぶる地球ライブ」で12月2日に放送した内容です)


終わりの見えない無人機攻撃に市民は

冬の到来に合わせて懸念されるのが、インフラ施設などを狙った市民の生活を脅かす攻撃です。先月25日には、キーウでこれまでで最大とされる無人機の攻撃があり、ケガ人もでました。

突然の無人機による攻撃。多くの市民が眠れない夜を過ごしています。

大学で日本語を教えているナターリア・シチェルバンさん。夫と母親の3人で暮らしています。

攻撃から身を守るため、窓から離れた廊下で眠ることもあります。

外の壁、さらに2つ目の壁の内側に身を潜める。ロシアの侵攻以来、身についた習慣です。

そして、去年の冬、苦しめられたのは攻撃による停電。ことしは、バッテリーを買いそろえ、水も確保しました。

ナターリアさんは、自分や家族を守るため、去年、軍事訓練にも参加。塹壕(ざんごう)を掘り、射撃訓練も行いました。

<軍事訓練に参加したナターリアさん>

「訓練をした時の友人は軍隊に入ってもう戦っています。ウクライナに住んでいますから(私も)行くかも知れない」

長引く侵攻はナターリアさんが日本語を教える生徒たちにも影響を与えています。

多くの生徒たちが、鳴り響く警報や、終わりの見えない無人機の攻撃にストレスを感じているといいます。

「爆発の音(がストレスです)」

「いつ終わるのか。何人犠牲者が出るのか分からない。それがつらいです」

危険と隣り合わせでも、生徒たちはナターリアさんの元に集まり勉強を続けています。

「先生や友人と一緒に勉強をしていると怖くなくなる」

「普通の生活ではないですね。いまはこんな状態なんですけど、でも勉強も続けるし将来があるからがんばらないと」

長期化する侵攻のなかで、このひとときが貴重な時間です。


こちらに日本語教師のナターリアさんに来ていただきました。

Q. 軍事侵攻が続いていますけど、いま一番不安に思っていることはどんなことですか?

「もちろん、ウクライナが戦争で負けることは一番大きな不安ですけど、ドローンでの攻撃や、私と家族が兵士として戦場に行くことになるのも不安です」

Q. 怖くありませんか?

「もちろん怖いですが、準備をします」

Q. 戦いが続いているが、いま一番必要なものは何でしょうか?

「ものであればガスとか、充電池とか、お金とか。でも、いい希望を持つことが第一です」

Q. ナターリアさんが教える学生にも戦争に苦しんでいる人がいる。

「避難した人も、戦争で家族を失った人もいる。でも授業中はなるべく平和な状態で自分の苦しみを見せないように授業をしています」

Q. 日本に期待することは?

「いままでの支援、ありがとうございます。支援を続けるだけでなく、ウクライナのことをもっと知ってほしい。戦争だけでなく、ウクライナの文化や歴史についても知ってほしい。私もウクライナと日本の関係を強くするためにがんばろうと思います」


遺族の心のケアは?

油井キャスター:私、先日、この場所で取材している時に、兵士の夫を失った4人の女性と出会いました。夫の写真を見に来ていたのです。

4人の方々は、みなアートセラピーを受けている仲間たちで、彼女たちがアートセラピーで描いた絵画展に連れて行ってもらったのです。

アートセラピーは、絵を描くことで、心を安定させて苦しみを癒やす手法です。

キーウで今開かれているこの絵画展は、戦闘で夫を亡くした120人あまりの人たちが描いた絵が展示されていました。

話を聞いたところ、「アートセラピーを受けて、同じ境遇の女性たちと出会うことができて救われた」とか、「絵画展で自分の夫とともに生きた証を作品として残すことができて本当によかった」などといった声が聞かれました。

キーウで暮らすウクライナの人たちは、一見、普段通りの生活を送っていますが、ロシアによる軍事侵攻で心に傷を負った人は決して少なくありません。どう精神的に支えていくのか、重い課題となっています。

これからも、様々な視点からウクライナのことを皆さんに伝えていきたいと考えています。


油井秀樹(「国際報道2023」キャスター)

前ワシントン支局長。北京・イスラマバードなどに14年駐在しイラク戦争では米軍の従軍記者として戦地を取材した経験も。各国の思惑や背景にも精通。

■油井キャスター現地報告①と②はこちら