『胸を張って生きる僧侶の彼と彼を誇りに思うコロンビア人の彼』国際同性カップル

NHK
2024年4月2日 午後7:33 公開

“ハイヒールを履いた僧侶”として知られる、西村宏堂(にしむら・こうどう)さん。LGBTQ活動家、メイクアップアーティストとして海外でも活躍。アメリカのTIME誌で「次世代リーダー」の一人に選ばれた宏堂さんだが、実は、20代前半まで自分のセクシュアリティーを誰にも打ち明けられずにいたという。そんな宏堂さんのお相手は、コロンビア出身のグラフィックデザイナー、フアンさん。実は二人は、過去に同じような悩みを持ち、共通点があることを知り、急接近する。

■誰にも言えない

宏堂)「小さいときからプリンセスごっこが好きとか、同性愛者で男の人に興味があるとは誰にも言えなくて悩んでいて。」

1989年に東京で生まれた宏堂さん。浄土宗の寺の僧侶である父親に「もしお寺を継ぐんだったら、お嫁さんがいないと大変な仕事だよ」と言われていたこともあり、自分のセクシュアリティーを親が知ったらどういう気持ちになるのか、すごく怖かったという。

自分の好きなものについて周囲に話せず、自分の殻に閉じこもるように生きていたが、その気持ちに変化が起き始める。

宏堂)「学生時代に旅したスペインで初めて同性愛者の心を許し合える友達ができたんです。それまでは、頭の上に蜘蛛(くも)の巣が張っているような感じで、親にも本当のことが言えず隠していたんです。でも、スペインの友達の励ましもあり、どうなるかわからないけども、自分が前に進むために親に言わなきゃと思って。」

宏堂さんは、24歳のときに親にカミングアウトをする。

宏堂)「そのときはすごい手が震えていたんです。でも、問題ありませんでした。母親は『そういうことだったんだね』、父親は『宏堂の人生だから好きなように生きなさい』って。蜘蛛(くも)の巣が張っていたところからピーチサイダーのピンク色のシュワシュワしたプールにドボンと飛び込んだような。白黒の世界に色がついた感じがして、24歳にして初めてデビュー、自由になった気がしたんですね。」

その後、“ハイヒールを履いた僧侶”として知られるようになり、LGBTQ活動家として国内外で活動、TIME誌の次世代リーダーにも選出された。そして33歳の夏。旅行先のスペインで運命の出会いが訪れる。

宏堂)「バルのカウンターに座っていたら右側にフアンが座ったんです。私はどこの国の人なのかすごく気になって、大学でもスペイン語の授業をとって勉強していたので、『どこから来たの?』って聞いたんですよね。」

コロンビアからスペインに旅行にきていたフアンさんは、当時をこう振り返る。

フアン)「日本人に話しかけられることはなかったのでよく覚えています。彼は近づいて話しかけてくれて、すてきだなと思いました。話をしてみると、子ども時代に好きだったもの、ゲイであることで受けたいじめ、そういうことに苦しんだ過去、二人にまさかこんなにも共通点があるとは思わなかったので、会話が盛り上がったんです。」

しかし、フアンさんのバルセロナの滞在期間は残り4日間と、わずか。フアンさんは思い切って、出会ったばかりの宏堂さんに「次は一緒にビーチに行きませんか」と誘った。

フアン)「もう一度彼に会いたいと思ったんです。もしかしたら恋に発展するかもしれない、一緒にいるチャンスを逃がさないようにしようと思いました。」

宏堂)「『運命の人出た!』と思いました。最初にフアンから、『世の中の男女差別ってあるけれども人類が先に終わるのか、男女差別が先に終わるのか、どっちだと思う?』って聞かれたんですよ。え?と思って。この人とは話が合いそうだと思ったんです。」

その後二人は、日本とコロンビアでの遠距離恋愛をスタートさせる。

(提供 西村宏堂さん)

■1時間半

日本とコロンビアの時差は14時間あるが、2人はほぼ毎日オンライン通話で語り合った。好きなことや嫌いなこと。日本やコロンビアの価値観の違いなど話は尽きず、2人の会話はいつも1時間半にもおよんだという。

そんな日々を1か月半続けたのち、宏堂さんはコロンビアへ渡った。空港では、大きな花束を抱えたフアンさんが宏堂さんの到着を待ち構えていた。

「空港でもらった花束を抱えて」(提供 西村宏堂さん)

宏堂)「ああ、あの時出会った人だっていう感じですかね。なんか懐かしい匂い。匂いは電話じゃ伝わらないじゃないですか。ああ~と思って。」

フアンさんは両親に、パートナーとしては初めて、宏堂さんを紹介。すると、宏堂さんは両親から思わぬもてなしを受けることになる。

宏堂)「本当に愛が爆発するようなご家族で。愛にあふれているあまりか、私たちがコロンビアを旅行するときにお父さんがフアンのスーツケースを全部荷造りして、旅行セットを作ってくれるんですよ。」

フアン)「父の愛情表現なんですよね。父の愛情は宏堂にも向けられて、コロンビアから帰るときは、宏堂の分の荷造りもやったんです。」

(提供 西村宏堂さん)

■光の当て方

去年2人は、同性婚が認められているコロンビアで婚姻届けを提出。正式に結婚した。さらに2人が出会った思い出の地・スペインに渡り、リングを交換、永遠の愛を誓う。そしてフアンさんは、日本での就労ビザを取得し、2人は東京で一緒に暮らし始めた。

(提供 西村宏堂さん)

宏堂)「最初は同性で結婚できる国、例えばイギリスやスペインに住むことも考えたんですけれど、日本に私たちがいることによって同性パートナーが一緒に住んでいて、『こういう人がいるんだ』、『こんなに幸せでこんなに楽しくやってますよ』っていうのを見てもらえたらと思って日本に住むことにしました。
ただ日本では、例えば同性カップルのビザが簡単に取れないとか、同性カップルにとって生きづらい面もあるけれども、楽しいこともある。一方、同性愛者であることが罪になる国もある。そういう国に比べたら日本は生きやすいし、同性愛者であることで暴行にあったりすることってなかなかないですよね。そういった光の当て方をすれば、日本で暮らすことは、楽しく生きていける選択肢かなと思いました。」

(超多様性トークショー!なれそめから)

フアンさんが来日してから、2人は、日本各地の旅行を楽しんでいる。宏堂さんが出張で不在の際には、フアンさんは、宏堂さんの母親とその友人たちと一緒に高野山や琵琶湖などへ旅行に出かけることもあるという。

フアン)「食べ物はおいしいし、人は親切で思いやりがあって日本はとても良い国だと思います。自然も美しくハイキングに行くのも大好きです。宏堂のお母さんと3回山登りしました。」

宏堂)「私の周りの人も同じように彼を大切に思ってくれるかなという気持ちがあったので、よかったなって。」

そしてフアンさんは、仕事の傍ら、日本語の勉強をスタート。宏堂さんは、そんなフアンさんに対して、日々褒めることを心がけているという。

宏堂)「彼が日本に来て不安なことや寂しいこともあると思うんですけれども、そういったときに自分自身を信じて、自分は賢いんだ、自分はいろんなことを成し遂げられるんだ、そういう気持ちになってほしい。」

家事分担を決めずに、お互いに補い合って暮らしている二人。もちろん、たまにはケンカをすることもあるが、相手を思いやる気持ちを忘れないようにしているという。

宏堂)「実は、私はフアンが歯磨き粉のキャップを開けっぱなしにすることが許せないんです。でも私も急いでいる時にパジャマをソファーの上に置きっぱなしにしてしまうこともあるので、お互い補い合うのが大事だなと思っています。ケンカになる時も、実は、お互い相手を困らせようっていう気持ちは一切なくて。疲れているとか、頑張ろうと思ってるけど頑張れなかったとか、そういう時に相手に対してイライラする気持ちが出てきてしまうと思うので、『お互いに楽しんで生きていこう』っていうのが前提にあるということを頭に入れておくと、相手の目線から物事を見やすくなりますよね。」

■スペインで「あっ!」

宏堂さんとフアンさんが日本で暮らす中で心がけていることがある。それは、町で歩くときに2人で手をつなぐことだ。実はそれには、宏堂さん自身の経験からのある思いがあった。

宏堂)「18歳のときに旅行にいったスペインで男性同士で手をつないで歩いているカップルを見て。私の友達は電車の中でチュッと男性同士でキスをしてたんですね。私は『あっ!』って。『いいな』っていうのもあったし『そこまでやって大丈夫なのかな』っていう驚きもあって。日本では、男性同士で手をつないでる人は、ほとんどいない。例えば私たちが手をつないで歩いていたら、通りかかる人たちは全員「あっ!」って思う人ばかりだと思うんです。どう思うのかは自由だけれども、一回は見たことあるのと一回も見たことがないのとでは全然違う。『気持ち悪いな』と思ったとしても、2回目見た時には『あっ!こういう人がいるんだな』ってだんだん慣れていく。『日本ではできない』っていう人、周りにたくさんいるけれど『そんなことないよ』っていうのを伝えたいと思っています。」

“ハイヒールを履いた僧侶”として、カテゴリーにとらわれない表現をしている宏堂さん。その生き方をつづった本は、現在7か国語に翻訳されている。宏堂さんは、男性がメイクをすることに抵抗を覚える人がいることを恐れた時期もあったという。そんな宏堂さんに、フアンさんが伝えた言葉がある。

フアン)「メイクをしていても、していなくても僕の宏堂への気持ちは変わらない。」

宏堂)「今までは、自分がオシャレしていないとダメなのかな、活躍してキラキラしていないと自分には価値がないのかなって思っていました。でも多分、彼は私の心を愛してくれているから、何が起きていようが関係ないっていう感じで見てくれているのかなって思います。」

(収録時のお二人)

■2人にとっての“超多様性”とは

宏堂)
全く違うように見えてもつながれるという希望を持つことだと思います。

フアン)
人をカテゴライズしないこと。それぞれの違いを受け入れて、協力し合うことが重要だと思います。


【放送】
本放送:2024年4月5日(金)Eテレ 22:00-22:29

再放送:2024年4月9日(火)Eテレ 00:00-00:29(※月曜深夜)
    2024年4月20日(土)Eテレ 16:00-16:29

【見逃し配信】

本放送から1週間NHKプラスで見逃し配信