ごはんの食感 どう表現? 新しいコメが増えるなかで…

NHK
2023年11月13日 午後1:16 公開

私たちの食卓に欠かすことができない「ごはん」。その特徴を表現することばについて、皆さんは考えたことはありますか?「ふっくら」「もちもち」・・・思い浮かぶことばは、意外と少ないのではないでしょうか。

もっと多様なことばで表現できないか。いわば「ごはんの辞書」づくりを目指している人たちがいます。なぜ今、そうした辞書が必要なのでしょうか。

(おはよう日本記者 廣川智史)

増えるコメ、乏しい表現

まずは「ごはん」の特徴について、街の皆さんに聞いてみました。

もちもち

ふわふわしていて、かわいい感じ

つやつや

甘い香り

ごはんの香り、ほかに言えない・・・

皆さんに「つやつや以外のことばはありますか」などと、さらに突っ込んで聞いてみましたが、なかなかことばが出てきません。ことばを絞り出すようにして答える様子が印象的でした。ほかの食品と比べて、ごはんの味の特徴を表現するのは難しいと感じた方も多かったようです。

日本人に身近な食品にも関わらず、限られたことばで表現されがちな、ごはんの味や食感。その一方で、コメの種類は年々増えています。

農林水産省が道府県名と品種名を特定し、例えば「新潟県産コシヒカリ」のような形で指定しているのが「産地品種銘柄」です。その数をまとめたグラフです。コメの消費が減る中、ブランド米としての価値を高めることで消費につなげようとする動きが各地で広がっていることなどから、この10年で200以上増えています。

こうして「新たなコメ」が次々と誕生している中、その特徴を限られたことばでしか表現できていない状況を「なんとかしたい」と考えている人たちがいます。

「ごはんの辞書」づくりに取り組む研究者たちです。

ごはんの辞書づくりの現場は

茨城県つくば市にある「農研機構」です。正式名称は「国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構」。日本の農業や食品産業の発展につながる研究や開発に取り組み、その成果を社会に還元しようと取り組んでいます。そのうちのひとつが、コメです。

この日は、農研機構内の一室に白衣を着た人たちが集まりました。目的は、ごはんを表現することばをひたすら探すことです。

メンバーはコメや食品の品質評価のプロフェッショナルたち。ごはんの香りをかいだり、食べたりする作業を2年間続けています。この日も1時間以上かけて、ごはんと向き合いました。

議題のひとつは新米の味や香りについて。香りをかいで、ごはんを一口食べたら、議論が始まります。

甘さの成分だけでなく、みずみずしい

甘みの質は変わっていなくて、そこに水分が追加であるから、すっきり感じられる

最初のことば出しの段階では、“ひなあられの香り”とか“ポン菓子の香り”とか

議論を聞いていると、食べ物に使わないような言葉も聞こえてきました。

少し青臭いような、草のような香りがするかどうか

もっと青いにおいを想像していたんですけど、割と乾いた草っぽいにおい

このまま『草のような』は残しておきましょうか

これまでに数十種類の異なる品種のごはんを12人のプロフェッショナルが食べて特徴を言葉にしたり、過去の研究や書籍から表現を集めたりして、ごはんを表現する約7000のことばを積み上げてきました。

そこから、似たようなことばを削るなど整理した結果、辞書に掲載する候補として、現時点で約130のことばがまとまりました。その一部が、こちらです。

農研機構では今後、さらに精査した上で、ことばの定義や使い方の例もつけた辞書のような形で公開することを目指しています。

農研機構 食品研究部門 分析評価グループ 早川文代 グループ長補佐

今までずっと使われてきた定番の表現だけでは表現しにくいような品質のごはんができたりしている。ことばの網が粗かったところを埋めたいし、新しいものを評価したい

ごはんの辞書に期待する企業も

これまでなかった「ごはんの辞書」づくりが進む中、辞書をビジネスの現場で活用しようと期待している企業もあります。

メーカーなどに食品を販売する商社で、コメ部門のトップを務める天野敏也さんです。

天野さんは、仕入れたコメをコンビニや外食チェーンなどに販売しています。その際、相手が求めているコメの特徴を限られたことばで理解することに苦労した経験があるといいます。

コメなどの商社 天野敏也 取締役 米穀本部長

最初は互いに同じ土俵で話していると思っていても、後々、実は違うということが起きます。たとえば弾力やテクスチャー(食感)は複雑です。『キャラメル』のようなものを言っているのか、『ビーフジャーキー』みたいなもののことを言っているのかという具合です

慣れ親しんできたごはんの特徴は生まれ育った地域や家庭によって異なります。だからこそ互いのイメージしているごはんにズレが生じ、それがビジネスに影響する場合があるというのです。

顧客との間で感覚にズレが生じないようにすることを大切にしてきた天野さんは、自らの経験を後輩たちにも共有しています。社内の会議では、先方と必ず目線を合わせて、互いの考える「ふっくら」や「ふんわり」という感覚が同じかどうかを確認する大切さを伝えていました。

天野さんは「ごはんの辞書」を”共通のことば”とすることで、顧客のニーズに応えていきやすくなると考えています。

コメなどの商社 天野敏也 取締役 米穀本部長

微妙な表現を的確に説明して、お互い目線が合って共有できることがとても大事です。『求めているのは、こういうコメだ』と、辞書を使ってわかるようになっていけたらいいと思います

辞書をきっかけにごはんに興味を

「ごはんの辞書」は研究者や企業といった、いわばプロ向けに作られています。

そのためプロ向けとして適当でない文学的な表現は外されているものの、農研機構の早川さんは、いずれは文学的表現も加えた形にも発展させていきたいと考えています。

そして消費者にも、ごはんを表現することばに関心をもってほしいといいます。

「ごはんの辞書」は2024年度以降に農研機構のホームページで公開される予定です。私たち消費者も、ごはんの新たな魅力に気づくきっかけになるかもしれません。