移住で大人気!だけど、空き家が“足りない”ってどういうこと!?

周防則志
2023年6月15日 午後3:58 公開

「市内の空き家に興味があるという問い合わせはたくさんもらっているんです。でも、空き家の数が全然足りていなくて…」

そう話すのは三重県松阪市で移住に関する施策を担当する職員。

全国各地で、空き家が増えていて深刻な問題になっているという話はよく聞きますが、「空き家の数が“足りない”」っていったいどういうこと?現場を訪ねてみると、空き家をめぐる意外な課題が見えてきました。

(津放送局・周防則志)

移住希望者殺到!人気の松阪市

三重県松阪市の山あいの地域。美しい茶畑の景色や清流として知られる櫛田川など、豊かな自然が魅力の地域です。

憧れの田舎暮らしをしながら、移住後も近くの都市圏に比較的出やすい立地ということもあって、今、こののどかなまちに移住希望者からの問い合わせが相次いでいるといいます。

「この自然、山と川、これにかなうものはないかなと。不安がないと言ったら嘘になります。でも、ワクワクする気持ちの方が上ですね」

奈良県からの移住を予定している吉田弘志さんが、引っ越し先となる空き家を案内してくれました。

趣味のバイクで訪れたこの地域にほれ込み、若いころから興味を持っていた移住を決意したといいます。定年を迎え奈良県内の職場に再就職しましたが、移住後は松阪市からの通勤を考えています。

吉田さんがこの家を見つけたのが、市の運用する「空き家バンク」でした。

松阪市は、空き家の所有者が物件を登録し、利用したい人とのマッチングを行う「空き家バンク制度」を、9年前に始めました。対象となっているのは、山あいの地域のみ。空き家を減らすとともに、過疎化の進む地域に人を呼び込もうという狙いです。

制度が始まってからことし3月末までに、空き家バンクで移住した人は111世帯。県内のほか東海や関西などからの移住者が多いといいます。

特にコロナ禍でのリモートワークの浸透なども影響し、徐々に人気が上昇。昨年度1年間では空き家バンクを利用しての移住者が初めて20世帯を越えました。

なぜ?人気なのに空き家が足りない!

しかし、人気が高まる中で、ある課題に直面しています。

「まつさか移住交流センター」で空き家バンクの担当をしている市職員の清川直樹さんに話を聞くと…。

「松阪の山あいという地域、そしてそこにある空き家にかなり興味を持ってもらっていて問い合わせもたくさんあります。でも、それにこたえられるだけの空き家の数が足りていないんです」

総務省が公表している最新の統計によると、全国の空き家の数は2018年に848万戸。住宅の数の13.6%を占めていて、年々増加傾向です。空き家が多くて困る、というのはわかりますが、足りないというのはどういうことでしょうか。

その秘密は、空き家バンクへの登録物件の数にあります。松阪市によると、これまでに空き家バンクに登録した移住希望者の数は576人。その一方で、登録された物件は累計で161軒と、供給がまったく追いついていない状態です。

空き家自体はたくさんありますが、「いつか子どもや孫が使うかもしれない」とか「相続の手続きが終わっていない」などの理由で、バンクへの登録が進まないといいます。

さらに、登録されていても、その多くはすぐに人が住める状態ではないことも課題です。

これまで長いあいだ放置されてきた家もあり、生活に不可欠なトイレや風呂のほか、床や壁などに改修が必要な場合があるといいます。

「古民家なので、やはり何かしらの不備があります。雨漏りなどで屋根がかなり痛んでいるとか、修繕に対して高額のお金がかかってくる場合は、移住を断念するケースも見受けられます」(清川さん)

自分たちで修繕して住む人も

ことし3月、県北部から移住してきた、竹内さんご家族は、空き家バンクで家を探した際、修繕の必要性などを考えると、移住できる空き家の選択肢が少なかったことに驚いたといいます。

「空き家というのはいっぱいあるもので、いくらでも選べるんだと思っていたんですけど、意外にすぐ住める家って少ないんだってことを空き家バンクを紹介してもらった時に初めて知って。なかなか難しいんだなと思いました」(竹内待子さん)

それでも、この地域が、子どもたちが暮らすにはぴったりの環境だと感じ、修繕が必要な場所は自分たちで直しながら暮らすことにしました。今では、家族や親族で家を直していくことが楽しみの1つになっているといいます。

「DIYなどをして、これから自分たちの住みやすいように生活の空間を変えていけるっていうのは楽しみです」

空き家バンク存続には信頼がカギ

一方で松阪市では、空き家バンクへの物件の登録へつなげようと、地域と協力したさまざまな取り組みを始めています。

去年5月、地域に住む人たちで作る「住民自治協議会」を、移住に関するサポーターとして登録する制度を設けました。「住民自治協議会」が市に空き家を紹介し、実際にバンクに登録された場合は、1軒につき1万円が報償費として支払われます。

またことし1月からは、月に1回、地元の道の駅で空き家の所有者向けの相談会を開催。修繕費用の一部を補助する制度があることなども伝え、登録を促しています。

相談会では、空き家の所有者でなくても、道の駅を訪れた地域の人に声をかけて、家の近所に空き家があるかなどを聞き取っています。こうした会話をきっかけに、空き家の活用を地域全体の問題としてとらえてもらいたいと、市では考えています。

「移住希望者」・「空き家の家主」・「地域住民」の3者の間で信頼関係を築くことが空き家バンクを存続させていく鍵となるといいいます。

「バンクの登録物件数を増やすことによって、松阪市に目を向けてくれる人たちを増やしていきたい。そのためには、単純に数を追い求めるのではなく、地域の人の信頼を得て、この制度が末永く続いていくことを目指したいですね」(清川さん)

津放送局では、空き家問題への自治体や企業の取り組みを、引き続き取材中です。視聴者のみなさんからのご意見なども募集しています。

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