The Crossroad 室井滋さん

NHK
2023年5月12日 午後9:42 公開

俳優、室井滋さん。
個性あふれる演技で
独特の存在感を放っています。
20年あまり前からは
エッセイストとして活動。
さらには
絵本作家としても活躍しています。
多才な室井さん。
その人生の分岐点をうかがいます。
聞き手は佐藤俊吉アナウンサーです。

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室井:「私にとっての人生の分岐点は、
猫との出会いだったと思います。」

佐藤:「猫?」

室:「はい。」

■それまで動物が苦手だったという室井さん。
しかし、今から24年前、
思わぬことから
猫を飼い始めることになりました。

室:「家で原稿を書いていたら、
鳴き声が聞こえてきて。
野良猫が鳴いているのかな?ぐらいで
最初は全然気にしていなかったのですけれども。
そのうちに鳴き方が弱々しくなったので、
あれ?もしかしたら子猫かな?と思って、
夜、見に出たんです。
そしたら、『ニャー』って鳴いて。
小さい子で、生後2か月ぐらいの。」

佐:「えー。」

室:「そのとき、すごく忙しかったので
絶対に飼えないなと思いながらも、
とにかく家に入れて、ミルクを飲ませて。
翌日、ドラマの撮影だったんです。
そこに連れていって
『どなたか飼ってくれる方
いらっしゃいませんか?』と。
うちの(事務所の)社長にも電話したら、
社長はものすごい動物愛護の人なんですよ。
それで、『アンタがなんで飼わないの?』と。
『私、飼ったら
女優を辞めなきゃいけないから無理!』
と言ったら
『だったら女優辞めろ!』と言われて(笑)」

佐:「ええー!」

室:「何言ってんだ!と思っていたら、
もうかわいくて
あげられなくなっちゃった。」

■猫に「チビ」と名付けて飼い始めた室井さん。
すると、自分でも意外なほど
感情の変化がありました。

室:「やっぱり私をすごく頼りにしているし、
離れない。
お風呂に入るときも、裸になると、
もう『風呂だ』と分かって、
自分で引き戸を体重で開けて
先に入って、しっぽでお湯をかき混ぜたり。」

佐:「えー!」

室:「本当なんですよ(笑)
お風呂もトイレも
ずっと一緒にいますから。」

佐:「四六時中、一緒にいたんですね。」

室:「四六時中だったんですよ。
いつも私を見ている2つの目。
もう、かわいいなんてもんじゃなくて。
本当に『やっぱり猫が好き』
になっちゃったんですね(笑)」

■チビへの愛情を抱いたことが、
それまでの暮らしを改める
分岐点にもなりました。

室:「それまではマージャンもやるし、
もう、お酒も半端なかったですし、
ジャン荘から仕事場に通っていました。
あとは
小型船舶の1級の免許を昔、取得して
船に住んでいたこともあるんですよ、実は。」

佐:「えー(笑)
楽しみがいっぱいあって
外に出ていたのですね。」

室:「そういうもの(生活)が
すごく変わりまして。
もう、チビ一筋になっちゃったので。」

佐:「年齢を重ねたあとに、
生活を変えるのは
相当難しいと思うのですけれども。」

室:「いや。自宅で食事をすることが
普通になりましたので。
あのままだったら、
恐らくお酒の飲み過ぎで肝臓も悪くして
私ここにいないかも。
もう亡くなっているかもしれない、
なんか(笑)」

■さらには仕事にも、
いい影響があったといいます。

室:「それまでは
キャリアウーマンみたいな役がすごく多くて。
うちの社長は
『室井はお芝居は個性的ですごくいいのだけど、
子どもがいないせいか母性が足りないわ。』
と言っていたのですけれども(笑)
『猫を飼うようになって
ものすごく母性が出てきた。』
と大喜びしていました(笑)」

佐:「すごい!」

■気づいてみたら、
室井さんに母親役のオファーが、
次々と舞い込むようになっていました。

■朝ドラ「花子とアン」では、
深い愛情で娘を包み込む
室井さんの演技が感動を呼びました。
チビと出会ったことによって
室井さんの俳優としての幅が広がったのです。
さらに、チビと共に
落ち着いた生活を過ごす中で
室井さんの創作意欲が
かき立てられていきました。
2011年には絵本作家としてデビュー。
以来、原作者として
12冊の絵本を世に送り出してきました。

しかし4年前、
チビはこの世を去りました。
出会ってから20年目。
やすらかな最期でした。

室:「あんまりチビが死んだ感じが
全然していなくて。
よくね、
『もう亡くなったけど、でもここにいるの』
とか
『時々気配を感じるの』
とか、おっしゃる方多いのですけれども、
恐らく、そういうことあるのではないのかな。」

■チビとのかけがえのない思い出。
それをかみしめながら、
室井さんは絵本を作りました。
年老いた猫が自分の最期を悟り、
飼い主が寂しくならないよう
身代わりを探すという物語です。

室:「私も恋い焦がれているけれど、
向こうはもっとこう、
きっと私を残して逝くということに対して、
いろいろ思っているだろうなというふうに、
そういう気持ちから書いたものなので。
やっぱり(チビとの)つながりというものは
なくなりませんから。」

佐:「それだけ、もうずっと
心に残り続けているわけですね。」

室:「はい。一緒にいるという感じ。
多分、きょう、
ここにいるんじゃないですかね。」