このドキュメンタリーがヤバい!
各界のキュレーターたちが「ヤバい」くらいに印象に残った今年のドキュメンタリーをおすすめする!
NHKスペシャル 「北の海 よみがえる絶景」
初回放送日:2022年12月30日
【12月30日(金)あさ10時5分から放送する「このドキュメンタリーがヤバい!2022」で紹介される番組です】 北海道の海で、アイヌや地元漁師に語り継がれる「幻の絶景」がある。冬、夜明けとともに真っ白に染まる海。春、海原に突如現れる謎の大渦。そして初夏、みるみるうちに貝で埋め尽くされる海底。今、極めてまれに起こると思われていた、こうした絶景の目撃が相次いでいる。徹底取材で真相に迫ると、その背景には、日本人にもなじみ深い生きものたちの驚異の営み、そして水産王国「北海道」の漁師たちの格闘の歴史が秘められていた。
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よくある質問
担当ディレクターより
Q.1 制作するうえで、どんなことにこだわりましたか? 普通の自然番組にしないこと。「幻の絶景x日本の海の社会問題」という掛け合わせ。それを出来る限り多くの人に共感していただけるように感動的に前向きな気持ちで見終わるようにすることにこだわりました。番組の趣旨は「資源管理・魚の乱獲を防ごう」と一言でも言えてしまうメッセージです。ただそれだけでは多くの人には共感もしてもらえないし、届きません。 自然番組には時に難しい、受け入れがたいメッセージでも美しい映像と感動の力で届けるパワーがあると私は信じています。 環境問題や資源管理の問題を取り扱う番組では、ある種の「恐れ」を前面にだし、それを防ぐにはどうするか?という構造が多いです。もちろんそれで感化されて行動に移せるひともいます。ただほとんどの人にとってはせっかくテレビをゆったりみられる時間に重たい話をされてもキツいよ~と思うひとも多いと思います。ただそんな人にも面白そうな自然の話なら見て感じてもらえるのではと願っています。 この番組に登場する生き物は、「にしん・ほっけ・ほたて」と私たちが普段スーパーなどで買っているようななじみ深い魚です。それが実はとんでもなく感動する絶景を作り出していて、その生末は私たちの活動が大きくかかわっている。近頃は環境問題では生き物がいなくなっている危機に瀕しているという恐ろしい話が多いですが、わずかでも希望を持てる話があるということを知ってほしいと思い制作しました。 Q.2 ぜひ見てもらいたいシーンは? まず忘れて欲しくないことが、今回の番組は舞台が全て日本です。遠い知らない自然ではなくほかならぬ自分たちの国で起きているスペクタクルなんだ!と感じて頂ければ幸いです。中でも個人的な気持ちも大きいですが、イチオシのシーンは2つです。 【巨大ホッケ柱がそびえ立つ瞬間】 ホッケ柱は本当に神出鬼没、いつどこで出てくるのかという法則性がつかめませんでした。本当に渦が海面に現れるのか?渦が出来たとしてそこに近づいて水中カメラマンが入って撮影ができるのか?夜明けから日没まで毎日ひたすら海を眺めてやっと撮影ができた時はクルー皆で大喜びでした。映像では表現できませんが、ホッケ柱の渦が現れる時には本当に魚の生臭い匂いが(ホッケの糞の油のにおい)が辺りに漂い、カモメが集まりだした先に渦があらわれるのです。放送後に中川カメラマンが現地に行ったそうですが、撮影できなかったそうです。やはり幻の絶景なのです。 【ニシンの群来再現実験】 番組上ではしれっと見せているニシンの実験ですが、これほどの規模は世界初。これ一本で番組が出来そうなほど、紆余曲折がありました。漁師さんの協力で生きたまま捕獲。北海道を横断する形でニシンを陸送。昼夜通して研究者と学生の皆さんと観察。照明や人工海藻の位置など調整しやっとの思いで実った群来の再現実験は是非見てほしいシーンです。 「誰も見たことのない光景を撮る」というのはテレビの原点だと思います。 番組でも決定的瞬間を撮るためにスタッフの努力を少し見せていますが、実際はもっと大変です笑 Q.3 苦労したところ、難しかったことは? 【取材:礼文島のナマコ漁師のジレンマに触れること】 ホッケの資源保護のためにナマコを禁漁にしたというと、聞こえは良いですが収入に直結します。しかもその補償もない、まさに善意と我慢による身を切る対策です。美談だけで済まない難しいところが資源管理にはついてまわります。その努力を広く知ってほしいことを伝えて交渉のあとに気持ちをカメラの前で語ってくださったことは本当に感謝しています。資源を管理していく過程には必ず痛みが伴う部分があるということを忘れてはいけない難しい部分です。 【ロケ:80年以上前のかつての群来の光景を知る漁師を見つけること】 かつてのニシン漁、群来を自分の目で見たという方に語って頂くのが良いだろうというアイディアはすぐに出ましたが、探すことは容易ではありませんでした。北海道の日本海側の漁協にひたすら電話をかけ続けて、ロケ直前にようやく辿りついたのが番組に出演してくださった竹内さんです。ニシン漁にかける思いも人一倍強く、昨日のことのように語ってくださりました。当時大量に漁獲されて巨万の富を上げた人々がそれを忘れられず、ニシンの減衰と一緒に没落していったというお話は特に印象的でした。「ニシンは人を惑わす魚」という一言は番組に欠かせない強烈なインパクトを残していると思います。 【構成:自然のビューティーVS環境・資源管理の番組バランス】 今回の番組は見る人によっては中途半端と感じるかもしれません。もっと資源管理のことを教えてくれよ、あるいは難しい話は良いからもっとスゴイ映像を見たい。このバランスをどうとるのかは制作している間、悩み続けていました。49分の中でテレビ番組がなすべき役割を考えた時の私たちなりの最大公約数が今の形です。 Q.4 放送後の反響で印象的なことはありますか? 小学生の親子から絵とお手紙が届いたこと。「テレビつくってくれてありがとう」という一言でしたが、苦労して撮影・制作した甲斐があったと報われる思いです。一人でも自分の番組を見た視聴者、特に若い世代にも少しでも届いたのかと思うととても嬉しい気持ちです。私自身も子どもの頃にテレビで見た自然・環境番組に感化されて今ディレクターになりました。非常に単純かもしれないですが、ひとりひとりの思いがこうして繋がって新たな一歩・ドキュメンタリーにつながっていくのかな?と思います。 (番組ディレクター 鶴園 宏海)