このドキュメンタリーがヤバい!
各界のキュレーターたちが「ヤバい」くらいに印象に残った今年のドキュメンタリーをおすすめする!
このドキュメンタリーがヤバい!2020
初回放送日:2020年12月29日
今年NHKが放送したドキュメンタリー番組の中から、ヤバいくらいに印象に残った82番組を、NHK若手職員とパネリストが選定。番組では、その中からさらにパネリストが選出したものを「ヤバい!ポイント」に沿って紹介していきます。この番組で紹介されているドキュメンタリー番組の一部は再放送され、NHKプラスでもお楽しみいただけます! 【出演】あばれる君、大島新(ドキュメンタリー監督)、伊藤詩織(映像ジャーナリスト)、金川雄策(ヤフージャパン プロデューサー)、コムアイ(アーティスト)、りゅうちぇる、VTR出演:モーリー・ロバートソン 司会:杉浦友紀アナウンサー
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よくある質問
担当ディレクターより:ETV特集「マスクが消えた日々~医療現場をどう守るのか~」
Q.1 制作するうえで、どんなことにこだわりましたか? 医療の現場にマスクが足りないということは、すでに報道されていたことですが、なぜ無いのかを検証することで、感染症への物理的な備えが万全では無かった理由を知りたいと思いました。 新型コロナが流行する以前は、誰もが容易に手に入れることができた、「マスク」がこんなにも必要になる世界が来ると誰が予想したでしょうか。最前線で頑張って下さっている医療従事者のためにも、なぜ、こうしたことが起きてしまったのかを検証し、第2波、第3波に備えることがメディアの役割の一つだと思いましたが、我々の取材活動自体が、感染を広げてしまうリスクがありました。そこで感染対策のため、取材者が極力動かないままに、PCひとつでどこまで事実を探り追求することができるのかやってみることにしました。 Q.2 ぜひ見てもらいたいシーンは? 中国でのマスク買い付けに実際に奔走された方々にリモート取材したシーンです。当時マスク生産国の中国の対応が強く批判されていました。しかし現場にいた方の話を聞くと、そのころ中国に世界各国からマスクのバイヤーが押し寄せ、マスクの奪い合いともいえる激しい買い付け競争が起きていました。その中で資金力の弱い日本が「買い負け」していたというのです。全く知らない現実を知り、驚きました。 Q.3 苦労したところ、難しかったことは? オンラインでの取材は制限もありましたが、東北の方にお話を聞いた数分後に、今度は九州の方にお話をお伺いすることが出来るという、つまり物理的に取材を進めるスピードが平時ではあり得ないほど速くなることは実感しました。また、「リモート」でなら、と取材を受けて下さる方もいて、あるひとつの疑問を追っていくための取材の方法としてはあり得る方法なのではないかと思いました。 Q.4 放送後の反響で印象的なことはありますか? 余談ですが、実家に住む母親から、私の部屋が散らかっていることについて極めて厳しい指摘がありました。片付けに行きたいと迫られましたが、感染拡大防止を理由にお断りしました。 (番組ディレクター 川 恵実)
担当ディレクターより:ノーナレ「校長は反逆児」
Q.1 制作するうえで、どんなことにこだわりましたか? 子どもたちの表情です。この学校の魅力的で個性あふれる中学生たち1人1人の表情をなるべくそのまま伝えたいと思っていました。また、日本は公的な教育予算の割合が少なく、教員の働き方を始め、厳しい状況が続いていますが、見た後に教育って面白いなと感じてもらえる番組が作れたらと考えていました。 Q.2 ぜひ見てもらいたいシーンは? ラスト5分間です。この学校らしさや校長先生らしさが、全面に出ていると感じています。またこの番組はあえて音楽も抑制的に演出していますが、音響効果担当者のアイデアで最後5分は音楽も含めて演出に力を入れています。 Q.3 苦労したところ、難しかったことは? 難しかったこと、悩んだことはいっぱいありますが、私のなかでもっとも苦しかったのは、これから撮影を深めていこうという段階で、突然一斉休校が始まったことです。またコロナ禍で学校を取り巻く時代の空気感も大きく変わり、どう放送するか最後まで悩みました。 Q.4 放送後の反響で印象的なことはありますか? 放送後も、子どもたちが変わらず成長していると感じたところです。放送に関わらず、成長している姿に心を打たれました。 (番組ディレクター 中村 真一朗)
担当ディレクターより:NHKスペシャル「認知症の第一人者が認知症になった」
Q.1 制作するうえで、どんなことにこだわりましたか? 認知症の第一人者である長谷川さんが認知症になって気づいたことが何より大切な番組のメッセージになると思い、“言葉”を伝えることにこだわってきました。その言葉をできるだけ長谷川さんの生活のなかで見つけるために定期的に通い続け、気がつくと取材期間は500日にも及んでいました。 長谷川さんが、認知症になって初めて経験したデイサービスや、日々の講演会、家の中での暮らしのちょっとしたシーンに対して、「何を感じていらっしゃったのか」を繰り返しお伺いしてきました。インタビューでは、長谷川さんも以前話された内容を忘れてしまい、どうしても同じ話になることがありましたが、何度も聞くうちに本音を語って下さったり、私たちが想像していた答えとは全く違う答えを下さることがありました。 Q.2 ぜひ見てもらいたいシーンは? 町内会の講演で、長谷川先生が突然歌をうたい始めるシーンです。周囲は動揺したものの、長谷川先生には「場の空気を和ませたい」という明確な理由がありました。認知症の人と接するとき、無意識に「わかっていないのではないか」と思ってしまうことがあるかもしれませんが、「決してそういうわけではない」ということを私自身も突きつけられた気がしました。 Q.3 苦労したところ、難しかったことは? 番組は、お宅での撮影が多いこともありディレクターのデジタルカメラでの撮影になりました。編集の段階で、“長谷川さんが日常で見ている景色”の映像が足りないと編集マンから言われ、長谷川さんが暮らしている周辺や家の中で、「長谷川さんが見ているかもしれない風景」をイメージして撮影しましたが、カメラマンが撮影すればもっと印象的な映像が増えていたと思います。 Q.4 放送後の反響で印象的なことはありますか? 放送中Twitterを見ていたのですが、想像以上の量のツイートをいただきました。自分の両親や親戚、祖父母など、様々な立場で本当に多くの方が認知症の人向き合っているということを改めて実感しました。 (番組ディレクター 加藤 弘斗) ※本文をクリックいただくと、「NHKオンデマンド」の有料配信をご案内しています。
担当ディレクターより:「プロフェッショナル 仕事の流儀 本木雅弘スペシャル」
Q.1 制作するうえで、どんなことにこだわりましたか? 【素顔は、カメラへの“さらし方”に宿る】 俳優は、カメラの前で虚像を演じるプロ。しかも、妻の也哉子さんでさえ知りえないという本木さんの素顔に正攻法で密着しても勝ち目はない、と取材前から感じていました。 どう実像に迫るか。一番こだわったのは「この人は密着カメラにどう映ろうとするのか」、つまり、どのような素顔の人間として社会に見られたいか、その自己プロデュースの仕方を記録するということです。 本木さんに限らず、カメラを向けられれば誰でも演じてしまうもの(「インスタ用~」とカメラを向けられれば不仲同士でも肩を組んで満面の笑みでピースきるように)。その作用に目を伏せ、映った「素顔風」を真実の素顔として流すこともできますが、自己プロデュースの天才にそれをした場合、実像とあまりに乖離してしまうのでは、という危機感から、カメラにどう写ろうとする人間なのか、そこに彼の実像が潜んでいるという仮説にこだわりながら撮影を進めていきました。 Q.2 ぜひ見てもらいたいシーンは? 【番組開始3分~「入ってくる体のところからどうですか?」の場面】 前述した「カメラにどう写ろうとする人間なのか」を見ていく番組です、の宣言としてトップシークエンスに置きました。 これから映る素顔は、全て演じたものかもしれないし、偶発的に映った素かもしれない。その見極めに目を凝らしてして欲しい、という意図を個人的には込めています。NHKではカメラの前で「てい」の話をしている場面を使うのはタブーとされている認識ですが、それを逆手に取ったということで、同業者からは賛否両論もありました。作品を象徴する1シーンだと考えています。 【番組開始41分ごろ~白黒セットでコンテンポラリーダンスを踊る本木雅弘】 通常の人物ドキュメンタリーでは禁じ手の「やってもらう」を通り越し、意味不明と言われてもおかしくない場面ですが個人的には思い入れのある場面です。 本木さんとの雑談で今作をどんな世界観にしたらいいかをよく話していました。本木さんは常に「ふわっと錯乱させるような」という言葉を口にしておりましたし、コンテンポラリーダンスを久々に踊りたい、ともおっしゃっていました。番組のテーマは光と影、こういうセットで踊る場面をおもむろに入れませんか、と提案したところ快諾してくださりました。 同業者からは「やらせじゃん」「自分からドキュメンタリーじゃないと宣言して馬鹿なのか」と賛否両論でしたが、番組中盤で、これは全部虚像かもしれませんよ、と再び思い出してもらう演出意図としても効果的だった個人的には考えています。 【番組開始20分ごろ~ ホテルにて独白、の場面】 カメラの前では常に演じるスイッチが入ってしまう本木さんですが、この一連の場面は素で語ってくれているな、と体感しながら撮影できた希有なシーンです。 【エンディングのバンジージャンプ】 番組中のキーワードである「身投げ」は精神的な話なのに、最後に肉体的に身投げするという矛盾。何より飛び姿が美しすぎるその姿は本木さんらしいと思いました。 放送後に本木さんから「もっと美しく詩的に撮って欲しかった」という要望があり、未公開SPというスピンオフ回でもう1回バンジーに挑戦しています。4Kハイスピードカメラで撮影した「リベンジバンジー」はめちゃくちゃ格好よく撮れてご本人も満足してくださったのでぜひ見てもらいたいです。 Q.3 苦労したところ、難しかったことは? それでも正面突破で素顔に迫らないと、という危機感 自己プロデュースの仕方を撮るのがメインであってもやはり、取材者の責任として素顔風では満足してはいけないという揺れが常にありました。 結果的には本木さんのガードはかなり固く、何も打算のない姿を存分に撮れたか、と問われると自信はありません。しかし、前述したホテルの場面や自分を乙女おじさんと語ったこと、バンジージャンプの姿、そこに本木雅弘という人間の実像の片鱗があった、とは感じています。 Q.4 放送後の反響で印象的なことはありますか? 「これは私だ」と感じた視聴者が多くいたこと、です。 編集室の壁に「これは私だ」と書いた紙をドデカく一枚貼っていました。 本木雅弘という人間の素顔に迫るだけでなく、普遍的にどんな意味を持った作品にするかと考えた時に、優柔不断であること、追いつくはずのない秘めた理想を抱えていること、自分しか知らない醜い顔があること、利己的な人間だか利他的になりたいこと・・・そうした多くの人が抱える秘めた悩みを肯定してくれる存在として、本木雅弘さんを見てもらいたい、という意図は制作中持ち続けてきました。 無限といってもいいほどにある本木さんのボヤキのどれを放送で使うか。迷った時は「これは私だ」とハッとしてくれる人がいるか、いないか、を基準に選んでいたので、SNSを中心にそうした反響が多かったことがとても嬉しかったです。発露している性格は多種多様でも多くの人の中に「ミニ本木雅弘」が存在しているのだと思います。 本木さんご自身も放送後にエゴサーチした結果「これは私だ」と書いてくれている人が多かったことを一番喜んでくださり、その点に取材を受けた意義を感じてくれていました。 (番組ディレクター 東森 勇二)