増えたクマゼミ? アブラゼミはどこへ?

NHK
2023年8月30日 午前10:50 公開

みなさんの疑問やお悩みに答える『追跡!バリサーチ』。

今回は、夏の風物詩・セミについて、こんな投稿をいただきました。

Machiさん「息子たち(30代)が子供のころは、アブラゼミがいっぱいでした。いま、公園や街で見かけるのは、クマゼミだけなんです。アブラゼミは、いったいどこへ行ったのでしょうか」

身近な生き物であるセミですが、なかでもクマゼミが増えて、アブゼミが減っているのではないか、というのです。クマゼミとアブラゼミ、そもそも違いがわかりますか?

木にとまっているクマゼミ

クマゼミは、透明な羽と黒くて大きい体が特徴で、鳴き声は「シャシャシャ」「ワシワシワシ」と大音量で鳴きます。

木にとまっているアブラゼミ

アブラゼミは、世界的にも珍しい透き通らない茶色の羽を持っており、鳴き声は「ジッジッジッ」と鳴き始め、「ジリジリジリ」と長く鳴く特徴があります。

見た目も鳴き声も違うクマゼミとアブラゼミですが、投稿にあったように、本当に増えたり減ったりしているのか。

大濠公園でセミ取りをする家族連れに聞いてみました。

取材班「どういうセミが取れる?」。

小学4年生「大体クマゼミとか」。

母親「アブラゼミより今年はクマゼミが多い。近年ずっとクマゼミが多いかな」。

小学2年生「ことしはもう100匹は捕まえた」。

取材班「ほとんどがクマゼミ?」。

小学2年生「半分がクマゼミ。きょうはクマゼミしか捕まえてない」。

父親「アブラゼミ1匹だったね」。

40代男性「ちょっとした木にセミが結構大量にいてすごい音量ですよね。1本の木にあれだけいるってことは増えているんですかね、どうなんでしょうか」。

話を聞いたほとんどの人が『クマゼミが増えた印象がある』と答える結果に。

九州大学伊都キャンパス 福岡西区

本当に、いま、クマゼミが増えているのか?昆虫の研究が盛んな九州大学を訪ねました。

九州大学大学院農学研究員准教授(昆虫学)紙谷聡志さん

セミの研究を続けて27年、専門家の紙谷聡志さんに話を伺いました。

九州大学大学院農学研究員准教授(昆虫学)紙谷聡志さん

紙谷さん「福岡の夏は暑くて、平均気温も十分高い。クマゼミにとっては十分生息できる環境で、西日本一帯がその条件に合致している」。

クマゼミの分布(出典:日本の動物分布図集2010 環境省生物多様性センター)

産業技術総合研究所が大阪を拠点に進めた研究で、クマゼミが増えているという結果があります。

クマゼミが卵から幼虫へふ化するためには、一定の温度を超える必要があるため、温暖な気候の西日本を中心に多く生息しています。また、外敵が少ない雨の日にふ化を始めるといった習性も持ちあわせています。

そのため、近年の地球温暖化の影響でふ化の時期が早まり、梅雨とタイミングが重なるようになったことで、クマゼミにとって有利な環境となり、その数が増えているというのです。

セミごとの孵化時期(2006-2008 大阪)

さらに、紙谷さんは『福岡にはクマゼミが増える特殊な事情がある』と言います。

九州大学大学院農学研究員准教授(昆虫学)紙谷聡志さん

紙谷さん「福岡市内では、ある樹木がかなり植えられている。その木に着目していただけるとクマゼミがなぜ多いのか、分かっていただけるかと思います」。

クマゼミが増える原因となった『ある樹木』とは?

その正体を探るため、紙谷さんと共に、再び大濠公園をまわってみることに。

福岡 大濠公園 8月下旬 九州大学大学院農学研究員准教授(昆虫学)紙谷聡志さん

大濠公園のクロガネモチの木を触る九州大学大学院農学研究員准教授(昆虫学)紙谷聡志さん

紙谷さん「ここにクロガネモチがありますよね。これがクロガネモチです」。

取材班「これが増えた原因?」。

紙谷さん「そうですね、非常にこの木からたくさんの幼虫が出てきます」。

大濠公園のクロガネモチの木

見つけたのは、モチノキ科の樹木である『クロガネモチ』の木です。

紙谷さんは、この木についているクマゼミの抜け殻に注目して研究。3年をかけて調査を行いました。

クロガネモチの木の葉に付いたクマゼミの抜け殻

その結果、クロガネモチにクマゼミの抜け殻が多いことが判明。クマゼミの幼虫が育つ上で相性の良い木であることが分かったのです。

紙谷さん「幼虫が好きな木の好みがあるというのはほとんど知られてなかった。それがわかったのは非常に面白かったです」。

各樹木における1本あたりの平均抜け殻数(福岡市内)

さらに、歩くたびにクロガネモチが次々と見つかります。

クロガネモチの木を触る九州大学大学院農学研究員准教授(昆虫学)紙谷聡志さん

実は、クロガネモチは昭和54年に、一般公募で福岡市の木として制定され、乾燥に強く、街路樹に向いていることから、年々、右肩上がりにその数を増やしているのです。

クロガネモチの年度別累計植樹数(福岡市内)

いまでは、福岡市に植樹された木の中で4番目の多さとなり、県内各地でも植えられるようになっています。

各樹木の累計植樹数(福岡市内)データ提供:福岡市口縁部運営課(2022年現在)

九州大学大学院農学研究員准教授(昆虫学)紙谷聡志さん

紙谷さん「好きな木が増えているってことは、そこから出てくるクマゼミの数はそれ相応に増えるというのは当然ある。クロガネモチの木をたくさん植えたということが、市内でクマゼミが多い原因の一つだと思っています」。

さらに、こちらの写真。びっしりと止まっているのは、クマゼミです。

木の幹にびっしりと止まっているクマゼミ

その数、映っているだけでおよそ40匹。

1か所に集まって一斉に鳴く習性があることから、大音量に!より存在感が増すのです。

木の幹にびっしりと止まっているクマゼミ

数が増えた上に、まとまって鳴くクマゼミの影響で、

アブラゼミの存在感が薄くなっているのではないかと、紙谷さんは指摘します。

九州大学大学院農学研究員准教授(昆虫学)紙谷聡志さん

紙谷さん「ここではクマゼミしか鳴いてないか、もしくはアブラゼミが聞こえてない。とにかくクマゼミの声が大きいのでニイニイゼミとアブラゼミが同時に鳴いていても、聞こえない。近づかないと聞こえない」。

さらに、アブラゼミにとって、都会は厳しい環境だと言います。

カラス

紙谷さん「カラスがセミを食べている記録があって、特に、都市部だとアブラゼミがよく食べられている。クマゼミは羽が透明で見つけづらいのに対して、アブラゼミは羽が茶色で木に止まっていて見つけやすいというのもあるみたいです」。

九州大学大学院農学研究員准教授(昆虫学)紙谷聡志さん

紙谷さん「都市部でカラス増えている多くなっているということを考えると、アブラゼミにとっては過ごしにくい環境かもしれません」。

投稿者が、アブラゼミが減ったと感じた背景には、福岡の都市化が進んだこと、そして、市の木に制定されたクロガネモチの植樹でクマゼミが増えたことが関係していたようです。

紙谷さんは、人間の営みが環境に影響を与えることを知ってほしいと話します。

九州大学大学院農学研究員准教授(昆虫学)紙谷聡志さん

紙谷さん「人間が生きていく上で周りの環境を変化させると、そこに生きている生物も変わっていくことも知っておくべき。自然環境を変化させれば、回り回って人間の方に変化がかえって来るというのは、よくあらかじめ考えておくべきかと思います」。

【放送を終えて】

バリサーチのLine友だちのみなさんから、たくさんのメッセージを頂きました!

●私の家にもクマゼミの抜け殻がたくさんあり、クマゼミの鳴き声がうるさいです。しかし、アブラゼミの鳴き声は最近聞かないですね。

●植樹の樹木にクロガネモチが使われていること、初めて知りました。

●ことしは非常に多くのセミたちに会いました。すべてがクマゼミでしたね。わが家はビワの木でしたよ。

●わが家では、フジの木に群がっています!

ここでもクマゼミが増えている、という声が多くありました。身近な変化を感じているひとが多かったようです。投稿ありがとうございました!

引き続き、バリサーチはあなたの疑問やお悩みを追跡します!

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