■実はみんな感じていた!「子供が話す言葉が分からない」
「大学生の子供が話す言葉がわからない…」「話の輪に入っていけずモヤモヤする…」。 今回、番組に寄せられたのは、そんな「若者言葉」にまつわる悩み。 その数、なんと160件近くもあったんです。
テレビでも、職場でも、家庭でも、避けては通れない若者言葉…。 そこで今回は、「これを読めば、若者言葉や若者の気持ちがちょっとわかる!」を目指し 取材してきた若者言葉のあれこれをまとめました。
■ぴえん・つらたん・ないた―…「悲しみ」にも序列があった!
かつては決まった表現でしか言い表せなかった気持ちも、若者言葉の手にかかれば、表現の幅がぐっと広がっていきます。例えば、「悲しみ」だけでもさまざまな表現が生まれており、その幅(度合い)も微妙に異なります。みなさんは、次の「悲しみ」を表す若者言葉の中で、もっとも弱いものは何か答えられますか?
A・B・Dあたりが悩ましいラインかと思いますが…、悲しみの感情が最も弱いとされるのは、Aの“ぴえん”。“ぴえん”は顔文字、(ノω≦。)ピエーンから発生したもので、控えめにかわいらしく泣いているさまを表しています。口頭で“ぴえん”と話すとかわいく聞こえすぎるため、あくまでSNSやチャットなどの書き文字として、若い世代に広く使われています。
ちなみに、ぴえんのあとは、つらたん→ないたー→滝泣の順番で、悲しみの度合いが強くなっていきます。若者言葉によって「悲しみ」を表す言葉の幅が広がっていることが見てとれます。
■今どきの若者言葉、強いのは「書き文字」×「インフルエンサー」
時代の流れとともに進化し、新しい表現がどんどん生まれる若者言葉。時代に合わせたスタイルがあると指摘するのは、SNSで使われる若者言葉をウォッチし用語集を作っている、荻野玲奈さん(推し活応援メディア編集長)。
「スマホやSNSでのテキスト入力という形が浸透したことで、受け手がくすっと笑えたり、直感的に意味合いが分かったりなどの、書き文字の若者言葉が力を持ったように思います。例えば、“おこk(おこけー)”。これは賛成を示す言葉ですが、一回聞くだけでは何の意味か分かりませんよね(笑)。この言葉の成り立ちは、「OKOK」をひらがなで変換すると、“おこk”になるから。 話しことばでは意味がわからないので、書き文字として主に使われています」
さらに荻野さんによると、ユーチューバーやインフルエンサーが使った言葉も、すぐ若者世代に浸透することも特徴の一つだといいます。
「例えば、昨年の『JC・JK流行語大賞2021』のコトバ部門で1位を獲得した、きまずさを表す“きまz”という若者言葉は、元々の発信元はユーチューバーでした。そのほかにも、楽しい気持ちを表す“よいちょまる”や、イケているという意味の“羽ばたいている”も、インフルエンサーが使ったことから生まれたといわれてます。まさに、スマホ時代ならではの特徴です」
■「若者の意を組んだ丁寧な翻訳」から今どきの若者心理が見えた
意味は分かっても、使う若者の気持ちが分からない…。そう悩む人たちから絶大な支持を得ているのが、インフルエンサーの東大卒はしゃべりたいさん(32)。若者言葉を自分なりの解釈を入れた、誰もが知っている言葉で丁寧に訳するコンテンツで話題を呼んでいます。
「僕は、若者言葉は方言だと思っています。民族を守るためにその集団の中でしか分からない言葉として方言を使う、というのがあると思いますが、それと一緒で、若者世代が自分たちの世代のアイディンティティーを守るために使っていると思っています。そんな思いから、若者言葉を使う人たちの気持ちを知りたいと思うようになりました」
東大卒さんが翻訳すると、“映え”は「引き立って目を奪われる」、“草“は「滑稽」、”それなー“は「まさしくその通りであり強く賛同する」、などなど…。30代スタッフから見れば、まさしく、”それなー“な訳の数々が生まれます。そこで!今どきの若者にとって基本中の基本である10の言葉を、東大卒さんに訳してもらいました。
みなさん、理解できましたか?なぜこうした訳をあてたのか?「り」は「了解」でもいいのでは?と思いもしましたが、そんな疑問を東大卒さんに聞いてみたところ…。
「“り”は「了解」と訳するのが一般的ですが、「解」でないと若者の気持ちを代弁できていないと僕は思います。 「り」は、「了解」と言うのさえも面倒くさいと感じた若者が使うようになったので、その経緯と心情を踏まえると、なるべく無駄を排して、「解」と一文字で訳するのが正しいと思うんです。」
「“すこ”というのは、一般的には好きと訳されますが、好きでもいろんな好きがあります。好きの対象も異性だけでなく、同性や動物やキャラクターなどいまは多様化しています。中でも “すこ”は、色気やいやらしさのような意味合いをもった「好き」ではない。そこで「惚れ」と最初につけてそのニュアンスを消しましたがそれだけだと、“すこ”で揺れる心や、“すこ”に気持ちが引っ張られているニュアンスが表現できていない。だから、心惹かれていると訳をつけたしました。あくまで僕の感覚ではありますが(笑)」
■“やばみ”“わかりみ” …この“み”はどこから来た?
“り”や“すこ”などと並び、私たちの周りでよく使われているのが“やばみ”“わかりみ”“うれしみ”など、「〇〇み」の言葉。
聞いたことある人もいると思いますが…この“み”いったいなんのためについているのか?いつから使われているのか?考えてみるとちょっと気になりますよね。 そこでこの“み”を研究している、お茶の水女子大学の宇野和(なごみ)さんを直撃しました。
「おもしろみ・ありがたみ、などの“み“とは異なり、“かわいみ”“だるみ”などのような従来のミとは異なる使われ方をした“新しいミ形”は、2007年にツイッターで確認されました。初代は、“つらみ”と“ねむみ”です。今でも一番よく使われるのはこの二つですが、他にもオノマトペだと、“ポカポカみ”とか“スヤスヤみ”とか。最近は “単位の落としみが深い”というのを見て、面白いなって思いました(笑)」
「元々は名詞を作る働きを持っていただけの「み」が、今は“ママみ”や“子供み”など、名詞を名詞にするっていう謎の働きも持つようになっています。さらには動詞にもついて、“いまから帰るみ”などとも使われます。いまは、ほとんどつかない言葉はないというぐらいにつくようになりました」
たった2つの言葉からいまや大進化を遂げた“新しいミ形”ですが、その動向を7年間見続けてきた宇野さんによると、“み“にはほかの言葉にない、強みがあるといいます。
「痒(かゆ)みっていう言葉があると思いますが、痒みと痒さっていうのを比べた時に、自分がすごく痒いと思ったときに病院で「痒さがあるんです」とは言わないですよね。「すごく痒みがあって」っていうふうに先生に説明すると思います。そういうふうに、“み”を使うことで、さらに細かく、自分の気持ちや感覚に近づけて言うことができる。実感を伴って言えるというふうに考えています」
「TwitterやSNSは文字でしか見ることができない。その中で、若い人たちが、自分の持っている感覚を出来るだけ誤解のないように、さらに欲を言えば、オリジナリティーがあるような表現で伝えたいというニーズに、“み”が合致したことで、“み”は進化をし続けてきたんだと思います」
宇野さんと同様、 “み”が勢力拡大した背景に、SNSの発展があると指摘するのは、 熊本大学文学部の茂木俊伸教授。
「日本の若者が摩擦を避ける(相手を傷つけない/自分が傷つかない)コミュニケーションスタイルを好むということや、その手段として、「とか」「みたいな」のようなぼかし表現を使うことは、以前から指摘されてきました。ツイッターのような媒体は、「パブリックな場でパーソナルな事柄を述べる」という性質を持っており、人の目を意識した表現が使われている可能性があります。あえて“み”を使って自分の感情や感覚を名詞の形にすることで、重すぎず、かつ面白い表現ができるという点は、“み”の使用動機として無視できないのではないかと考えています。」
■若者言葉は文化の一つ、リスペクトを忘れないで
時代に合わせ、進化し続ける若者言葉。新たな表現が勢いを持つと、使わない世代との間に衝突が起こることもあります。毎月200人以上の若者と接するSHIBUYA109エンタテイメントの長田麻衣所長は、「若者へのリスペクトを大切にしてほしい」と指摘します。
視聴者の方の「キニナル」声に応えるべく取材を始めた若者言葉。 取材を終え感じたのは、「若者言葉は言葉の乱れ・退化ではなく、言葉の創造であり、発見である」ということ。平安時代なら平安時代、戦国時代なら戦国時代と、同じ時代、同じ場所に居合わせた同じ世代だからこそ、わかりあえる感覚、作り上げられる文化があるはずです。
若者と話をする際、眉間にしわが寄っていませんか? ドキッとした方、若者言葉は方言であり、文化だと思うと、また違う世界が見えてくるかもしれません。
(取材・文:あさイチディレクター 藤高リリ)
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