北朝鮮はきのう、軍事国境線を越えて北朝鮮側に入った在韓アメリカ軍の兵士について、法律に基づいて追放することを決定したと、国営の朝鮮中央通信を通じて発表しました。
アメリカのバイデン政権の高官は27日、この兵士が北朝鮮から出国し、中国国内でアメリカ側が保護したと明らかにしました。
今回のアメリカ兵解放で悪化する米朝関係が変わる可能性はあるのでしょうか。
(「国際報道2023」で9月28日に放送した内容です)
注目されたのは2点です。
1点は、アメリカ政府内で懸念されていた、いわゆる「人質外交」を北朝鮮が行わなかった点です。
かつては人質を解放するために大統領経験者などがわざわざ北朝鮮を訪問せざるを得ない状況もありましたが、今回のアメリカ兵の解放にあたって、「北朝鮮側から見返りなどの要求はなかった」とアメリカ政府は説明しています。
もう1点は「スウェーデン」の役割です。
スウェーデンは、1973年に北朝鮮と外交関係を樹立し、ピョンヤンにあるスウェーデン大使館は国交のないアメリカの利益代表も務め、これまでたびたび米朝の仲介役を務めてきました。
ハノイで2回目の米朝首脳会談が決裂した後も、スウェーデンは米朝の代表を招き関係改善を模索してきました。
アメリカ政府の高官は今回、スウェーデンを通して北朝鮮との交渉が実現したと評価した上で「対話の道を閉ざさないことが極めて重要で、結果をもたらす可能性を示した」と前向きな発言をしています。
一方で、アメリカ国務省の報道官はこう述べました。
「解放が他の問題を協議する外交的な突破口になるとはみていない」
北朝鮮との外交交渉は、依然、厳しい見方が有力です。
ただ、何らかの手を打たなければ、北朝鮮の核ミサイル開発は強化され、東アジアの安全保障環境は悪化する一方です。
油井秀樹(「国際報道2023」キャスター)
前ワシントン支局長。北京・イスラマバードなどに14年駐在しイラク戦争では米軍の従軍記者として戦地を取材した経験も。各国の思惑や背景にも精通。
(この動画は1分52秒あります)