軍のクーデターから3年 ミャンマー “日常を取り戻す村”

NHK
2024年2月20日 午後4:02 公開

ミャンマーで、軍がクーデターを起こしてから2月1日でちょうど3年です。

軍は1月31日、 クーデターに伴って発令した非常事態宣言をさらに6か月間延長すると発表し、民政移管に向けた選挙が行われる見通しは立っていません。

ミャンマーの人権団体によりますと、この3年間に軍による攻撃や弾圧などで死亡した市民は4,400人以上に上り、いまも2万人近くが拘束されているとみられています。

一方で、ミャンマー情勢はいま大きな転換点を迎えています。ミャンマー東部のシャン州で去年10月、3つの少数民族の武装勢力が、軍を一斉に攻撃を開始しました。これに民主派勢力も呼応。

赤い斜線で囲んだ地域が、民主派勢力・少数民族が掌握した地域ですが、北西部を中心に攻勢を強め、軍の施設などを次々と支配下においていきました。

民主派勢力が掌握した地域では、クーデター以前の暮らしを取り戻そうとしています。

その村のひとつを取材しました。

(「国際報道2024」で2月1日に放送した内容です)


軍の攻撃を受けた村で学校が再開

ミャンマー北西部ザガイン管区。人口5,000人の村です。

クーデター以降、軍に対抗するため組織された民主派勢力のNUG=国民統一政府が掌握しています。

村は2022年3月、軍によって攻撃を受けました。住民への被害はなかったものの、住宅のうち、およそ2割にあたる150棟あまりが焼かれました。

村ではその後、日常を取り戻そうという取り組みが進められています。

柱のひとつが学校の再開です。小学生から高校生まで、800人あまりの児童や生徒が通っています。

NUGは、村の周辺地域で軍を撃退し、襲撃されるおそれが低くなったとして学校の再開を決めました。厳しい状況の中でも、子どもたちの教育は欠かせないという考えからです。

しかし、今も空爆の危険とは隣り合わせです。近くの村では軍の空爆で市民に犠牲が出たケースもあります。屋外での授業は上空から見つからないよう、木陰で行っています。

小学6年生のクラスを担当するサン・サン・ルウィンさん(仮名)です。再開を聞いて、教師として復帰しました。クーデター後、軍に対する不服従運動に参加。別の学校から追放され、それまで身を隠していました。

「軍政下では働きたくないとの思いで不服従運動に参加したことを誇りに思いますし、後悔はしていません」

勉強を教えることができる喜びを感じる一方で、軍が再び村を襲撃すれば、真っ先に命を狙われるという恐怖感を持ち続けているといいます。

サン・サン・ルウィンさん:軍の攻撃をとても恐れています。彼らは残忍です。教師たちに対する軍の抑圧や残忍さについてみなさんも耳にしたことがあるはずです。それでも子どもたちのために最善を尽くしています

サン・サン・ルウィンさんが教えている児童です。

今は小学6年生ですが、1年近く学校に通えませんでした。

「こんな時期に学校が再開するとは思っていなかった。不安と興奮で複雑な気持ち」

学校に長期間、通えなかったことも影響して、教科書を読むのが苦手だといいます。

「ほかの子が3回音読するなら、あなたは5回やらないと。家でもそうすればきっとできるようになる」

児童の母親は、軍が再び学校や村を攻撃するのではないかと心配しつつも、息子に教育を受けさせる大切さも感じています。

「学校の再開で息子は船長になるという夢を実現できる可能性が出てきたと思います。教育なしでは息子は夢をかなえることができません」

さらに、NUGは、地域で話し合いを通じた民主主義的な手法で問題を解決しようと、新たな取り組みも始めています。

こちらは「移動法律相談所」です。

NUGに任命された裁判官と法律に詳しいスタッフがバイクで村々を巡り、住民のトラブルを調停します。この日は、土地の所有権をめぐる相談でした。これまで3件の問題を解決し、現在2件の相談を受けています。

NUGで外相を務める、ジン・マー・アウン氏です。

掌握している地域では普通の暮らしを取り戻しつつあると、成果を強調しました。

NUG (統一国民政府) ジン・マー・アウン外相:NUG傘下にある保健・教育分野の省庁が軍による困難や危険を乗り越え質の高いサービスを提供していること。そして人権侵害を告発し、軍事政権以外にも犯罪者に罪を償わせる仕組みを作ったことは評価できると思う。


ここからは、取材にあたったアジア総局の髙橋潤記者に話を聞きます。

酒井:3年経っても民主派勢力NUGとミャンマー軍の戦闘が続いていますが、NUGとしては、今後、どう対応していくのでしようか。

髙橋:NUGは、去年10月からの一斉攻撃の勢いにのって軍への攻勢をさらに強め、軍の支配を終わらせることを目指しています。

その鍵となるのが、国内各地の少数民族の武装勢力との連携です。

きのう発表した共同声明では、民主主義とともに「連邦制」にのっとった体制を樹立するとしていて、地方のより強い自治権を求める少数民族勢力への配慮を見せました。

また、リポートで紹介したように、民主派勢力が掌握した地域でNUGは人道支援や行政の運営を行い、かつて批判されたような「空想の政府」ではなく、実際に政府としての役割を果たしつつあることをアピールしようとしています。

こうした活動には資金が必要で、NUGはジン・マー・アウン氏が先頭となって、世界各国をめぐり政府関係者に支援を訴えたり、各地のミャンマー人コミュニティーを訪れ、財政支援を訴えたりしています。

ただ、国際社会がウクライナ情勢やパレスチナ情勢に関心を向ける中、ミャンマーの人々が置かれている苦しい状況が忘れ去られつつあるという焦燥感があると、ジン・マー・アウン氏は話していました。

油井:一方のミャンマー軍は、去年10月の民主派勢力による軍事攻勢で国が分裂されると一時危機感を表明していましたが、今後軍としては、どう事態の収拾を図ろうとしているのでしょうか。

髙橋:まずは民主派勢力の攻勢に対抗しようという動きがみられます。

きのうミャンマー軍は、治安の悪化などを理由にクーデターに伴って発令した非常事態宣言をさらに6か月間延長すると発表しました。             

延長はこれで5回目で、宣言の解除が前提となる民政移管に向けた選挙が行われる見通しは立たなくなりました。

軍は今後、民主派勢力や少数民族の武装勢力が持っていない戦闘機などの空軍力で対抗するものとみられていて、無差別的な空爆により、市民の犠牲がさらに増えることが懸念されています。

一方で、支配地域を徐々に失うなか、軍が対話による解決の糸口を探り始めるような動きも出ています。

1月にラオスで開かれたASEAN=東南アジア諸国連合の外相会議に軍は外務省の高官を派遣しました。

軍はASEANが主要な会議の出席者は官僚など非政治的な代表者に限るとした対応に反発してきましたが、今回、代表を派遣したことから、地元メディアなどでは軍が歩み寄ったと伝えています。

これまで暗礁に乗り上げていたASEANによる仲介がこれをきっかけに動きだすのか注目されます。

ミャンマーでの戦闘を止めるには全ての勢力との対話が必要となります。日本を含めた国際社会がそれぞれのルートから事態の打開に向けて働きかけを強めていくことが求められています。

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