“女性の教育と自立のために” アフガニスタン元教育相代行に聞く

NHK
2023年9月25日 午後2:49 公開

アフガニスタンでイスラム主義勢力タリバンが実権を握ってから2年。

その直前まで教育相代行としてアフガニスタンの女性教育に取り組んだランギナ・ハミディさん。

今、再び女性の権利が脅かされる事態となっている祖国の現状に何を思うのか、聞きました。

(「国際報道2023」で9月13日に放送した内容です)


祖国を離れて2年、現在はドバイで暮らすハミディさん。アフガニスタンの女性たちが置かれている状況に強い危機感を抱いているといいます。

酒井キャスター:今のアフガニスタンの状況をどうご覧になっていますか?

心が痛み、打ちのめされています。何百人もの少女が家に閉じ込められ、あすどうなるのかも分かりません。

アフガニスタンの女性の権利向上のため活動してきた身からすると、今の状況をどう表現していいのか、言葉が見つかりません。

ハミディさん自身、幼少の頃は、教育を受けられない環境で育ちました。
1980年代、旧ソビエト軍がアフガニスタンに侵攻する中、4歳で両親とともに隣国パキスタンに避難したハミディさん。

待っていたのは女子に教育の機会がないパキスタンの厳しい状況でした。そこで両親はアメリカへの移住を決断。ハミディさんは苦学の末、大学を卒業したのです。

ハミディさん:(パキスタンの)コミュニティーの人たちは、少女が教育を受けることを問題だと考えていました。それで、私の父は私たちをアメリカに連れて行くという決断をしました。このままでは娘の将来がないと考えたからです。

ハミディさんがアフガニスタンに戻ったのは2003年。アメリカ軍などの軍事作戦で当時のタリバン政権は崩壊し、再建に向けて歩み始めたときでした。

酒井キャスター:祖国に戻ろうと思われたいちばんの理由は何だったのでしようか?

ハミディさん:(アフガニスタンでは)希望と再建するという期待がありました。私はそれは自分の責任であり、市民としての義務だと感じました。自分の生まれた国に戻って、女性としてできることをしようと思ったのです。

アフガスニタンに戻ったハミディさんは、女性が働き、自立するための団体を設立。女性たちが作る伝統の刺繍製品を海外に売り出し、賃金を受け取れる仕組みを作り出しました。

ハミディさん:仕事をすることになって(経済力を身につけたので)家の中で意思決定に携われるようになりました。 (自分で働いて)自分の人生は自分で決められるようになった人もいます。

こうした活動が当時のガニ大統領の目にとまり、3年前、教育相代行の職についたハミディさん。

教育環境を変えるためには教員の育成などが不可欠だとして、アフガニスタンで初めて10年の教育計画の草案を作りました。

しかし、教育改革に着手した矢先、アメリカ軍がアフガニスタンから撤退。再び、実権を握ったのがタリバンでした。

ハミディさん:教育省の政策が、タリバン政権下では変えられてしまうだろうと感じました。残念ながら、この状況が続けば、この20年間で成し遂げた努力がすべて帳消しになってしまいます。

タリバン政権では娘の教育が危ぶまれると感じ祖国を離れる決断を余儀なくされたハミディさん。

胸を引き裂かれる思いだったと明かしてくれました。

国のためにするべきこと、自分のためにするべきこと、この2つの間で私たちは常に引き裂かれています。アフガニスタンを離れるという決断は、私が祖国から逃れたいというのではなく、母親として娘が教育を受け続けられる環境を与える責任があるからです。将来、娘に私のやってきた活動の明かりを託すことができるようにと。

いまはドバイで暮らすハミディさんですが、自身が創設した団体の運営に携わりながら、これからもアフガニスタンの女性たちを支援し続けたいといいます。

ハミディさん:(団体の)事業の運営についても協力したいし(女子が)再び学校や大学に通えるようにしたい。私はアフガニスタンに行くことを恐れてはいません。


酒井キャスター:ハミディさんは先月アメリカからドバイに拠点を移されました。より祖国に近く、さまざまな国際的な支援活動の拠点にもなっているドバイで、女性のための活動にあたっているということです。

油井キャスター:タリバンが復権するまでの20年間、国際社会の支援を受けたアフガニスタン復興の最大の成果が女性教育とも言われてきました。日本も多大な支援を行ってきただけに、女性教育の行方は人ごとではないと思いましたね。

酒井キャスター:アフガニスタンは現在も本当に厳しい状況にありますが、ハミディさんの言葉からは「アフガニスタンの女性たちの環境を変えていくんだ」という覚悟を感じました。


酒井美帆(「国際報道2023」キャスター)

テレビ新潟アナウンサー、司法記者などを経て、2018年より『国際報道』キャスター。メキシコやフィンランドで、女性の人権や社会進出、格差などについて取材。趣味はダイビングで、海洋保護活動に関心を持つ。